第13話 友との再会 1
アーニーに会ってこよう。
はい転移。
思いついたことをすぐにやれる、これが幸福ってもんなんだよな。こんな世界じゃ特に。
アメリカにもこうして一瞬ですぐ行ける。最高だね。
「よう」
「お、やあ」
さて、俺が渡したオリジナルブレンドのコーヒーを飲んで、安楽椅子で漫画を読みつつ佇むこの男。
アーノルド・ガルシア。
ハリアルシティ郊外の洋館と街に避難している、俺の親友の一人だ。
「仕事は?」
「ないさそんなもの!クソみたいな取引先も能無しの株主もみーんな化け物の腹の中だからね!僕はこうして、予め買っておいたヌーベルコミックスのバックヤードを読んで、最終幻想や王国心なんかを一からやり込みプレイしてるわけだよ!君の美味しいコーヒーを飲みながらね!」
おっ、良いクズっぷりだ。それでこそ我が親友。
「そもそも僕は下々の者達が汗水を垂らして働く中、昼間からビールを飲みながらピザを食べてタバコを吸って映画を見たりゲームをしたりコミックブックを読んだりしたいから経営者になったんだよね!」
「やっぱ違うな、本物のクズは」
「君ほどじゃないよ」
「あ"?」
「は?」
「……それで?どこまでやった?」
「んー、ほどほどかな」
「ほどほどねえ……」
俺はアメスピを吸う。
煙を吐く。
「まあ、君よりはやってないよ」
アーニーは電子タバコを吸う。
煙を吐く。
お互いに、リラックスしながら詳しく話をする。
スキルの全貌は俺達以外誰にも……、それこそ自分の親にさえ話していないらしい。
「いやあ、うちのパパなんかアレで割と愛国者だからねえ、もしバレたら国の為に戦えとか言われるかもしれないし」
「ほーん」
「てか逆にさ、ほら、アメリカって資本主義でしょ?それなのになんの資本にもならない愛国心なんて引き合いに出されると、ねえ?」
確かにな。
「にしても、君は君で働いたねえ……。特殊部隊の教官だっけ?」
「いやあれはやっとくべきだったよ?日本は狭いから、遅かれ早かれ接触があるだろうと思ってたしね?ここは何もないんだろ?」
「ああ、大規模な魔法は使っていないから、普通のサバイバーだと思われてるんじゃないかな?」
どうやら、アメリカは実に面白い展開になっているらしく、放射性降下物の名を冠するオープンワールドゲームみたいになっているそうだ。
例えば、大型車で移動しながら、破壊された都市や弱いモンスターから食料や物資を得て旅をするスカベンジャーや、新たな街で新たな秩序を作る者など、兎に角、ポストアポカリプスもののゲームみたいな展開だとさ。
その上で、軍隊や個人がダンジョンを攻略し、スキルを得ることもある、とのこと。
で、得たスキルを人に教え、人同士で争うような胸熱展開もある、と。
こいつはこの前、千里眼という上級スキルを得たらしく、それでアメリカ中を見ているらしい。
「他にも、他人から奪うことで生計を立てるレイダーや、スキル持ちの傭兵なんてのもいる。いやあ、実に面白いね」
まあ、アメリカはそんな感じでカオスな状況。
故に、こうやって立て籠もって生き残っているアーニーも怪しまれておらず、政府からの接触はないそうだ。
「ていうかほら、アメリカって終末論者いるでしょ?ああいう人らが何十年も保つ保存食を溜め込んでたり、個人でシェルターを持ってたりするんだよね。僕が突然こんな館とソーラパネルやら何やらを買ったのも怪しまれてないと思うよ。金持ちの道楽って思われたと思う」
と言う訳だな。
「この地域は南の方で、寒くても雪が降るのは稀だから、燃料もそんなに要らないしね」
それに加えて、まあ、ムカつくがこいつも俺と同じようなことを考えていて、自分の会社の元社員や、知り合いの警察、軍隊上がりの屈強な男なんかを警備隊にし、そいつらにモンスターを狩らせてレベルを上げさせ、治安維持なんかをしているみたいだな。
たまにふらっと出かけて、ダンジョンから貴重な資源を持ってくるのがアーニーの仕事らしく、普段はゆっくりしているのだとか。
まあ、本当は、出かけると見せかけて、魔法で作った物品を渡しているだけだが。
こいつが持ってきた(本当はこいつ自身が作った)魔法のスクロールや魔導書は大層喜ばれるので、楽な仕事だとコメントしている。
スクロールとは、開いて魔力を込めると一度だけ魔法が発動する羊皮紙で、魔導書は読んだ者に魔法を習得させる本のこと。
スクロールや魔導書は色々作ったらしいが、材料の関係で今作れるのは上級までらしい。
俺も複製した資材や食料と引き換えにスクロールや魔導書を貰っているが中々便利だ。スクロールも魔導書も、例えタンクやメレーであっても使えると言うのが魅力的過ぎる。
俺も回復魔法の魔導書を貰った。使えるからな。
しかし、街の人に渡すスクロールは下級まで、魔導書は初級まで、しかも魔導書は生活魔法と火魔法、風魔法鍛治魔法の魔導書一冊ずつだけを、信頼できるメンバーにだけ渡したそうだな。
因みにスクロールや魔導書はダンジョンで見つかるアイテムの一つだ。こいつが持ってきても不思議がられることはない。
ステータス偽装(中級)も持っているから、ステータスバレもしない、抜かりはない。
「それに、アメリカは土地があるから畑も作れるし、近くには牛みたいなモンスターが出るダンジョンも確保しているからね」
「確かにアメ公は牛肉食わせておけばいいみたいなところはあるよな」
「うーん!割と合ってるから言い返せないなあ!」
それで、街の人の数は、住人を受け入れ続けて一万人にも膨れ上がっているらしい。
今のアメリカでは中々の大きさのコミュニティだそうだ。
「大丈夫なのかよ」
「何が?」
「まとまるのか?」
「ははは、人をまとめるのは僕の役目じゃないよ!そういうのはローラがやるさ」
「あー、お前の秘書だっけ?」
「ああ、ついでに言えば、彼女は僕にぞっこん」
「ハッ」
「鼻で笑ったな?!本当だよ、何度もデートしたしね?!」
「あー、思い出した、愛人秘書だっけ?裏でめちゃくちゃ言われてたよな」
「彼女の名誉の為に言っておくが、見た目だけじゃなく能力も込みで気に入っているから側に置いているのさ。後腐れなくセックスを楽しむなら、そこらの頭が軽そうな女を適当に口説いているよ。君こそどうなんだい?あの女学生達に手は出した?ロリコン?それともシーマか?」
「女学生達には倫理の問題で手は出せないね。シーマの話はするな、学生時代、あいつに三日間監禁されてレイプされまくったのを思い出すだろうが!」
「またまた、それでも身体の相性は良かったとか言ってたじゃないか!」
「えー、いつ言ったそんなこと?」
「会社立ち上げで四人で飲みに行った時にだよ。酔った君が確かにそう言った!」
「まあねまあね、身体の相性は良かった、それは認めるさ。けどな、お前、三日もレイプされ続けるんだぞ?!本気で訴えるかと思ったわ!!」
「むしろなんで訴えなかったのさ?」
「……まあ、なんだかんだ言って、シーマのことは嫌いじゃない。強引なところは嫌いだがな」
そんな話をしながら一日過ごす。
「あー、楽しいね!君は全く、見下げ果てたクズだけど面白い奴だよ!」
「おう、お前も心底感心するクズだなからな」
さて、明日はヴォルフのところに行こうか。
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