第11話 特殊作戦群

シーマは天海街に置いてきて、俺は揚羽、羚、昌巳の三人を連れて立川駐屯地に出向く。


ヘリに乗るのは生まれて初めてだな。


このぶっ壊れた世界では何気に貴重な体験ではないだろうか。


ん?あのおっさんは……?


ああ、思い出した。


「どうも、羽佐間義辰さん。総理大臣の跡部雄三です」


総理大臣じゃん。




いやあ、総理大臣か。


この国の総理大臣っつったら、何か変な団体に足引っ張られたり、ネットでバカにされたり、海外ミームで国民に子作りを命じる人扱いされたりと、可哀想な人ってイメージが強いが……。


まず、一目で見て分かるけど、寝てねえなこいつ。顔色が悪い。


はー日本はクソブラックだからなー。


真面目に働いた奴が損する国っておかしいよなあ。


「俺の出迎えなんかせずに休んだ方が良いんじゃないですかね?」


「ははは、いえ……、民間人の羽佐間さんが頑張ってくれると言うのに、私が休む訳には……」


上が休まないと下も休みにくいからそう言うのはやめた方が良いんだがな。


まあ、今の状況じゃ休めねえのかね。


そんなことは知らんし、俺には関係ないんだが……。


「こんな状況じゃ政治家も民間人も関係ないのでは?」


「その通りですね。今こそ、一丸となって戦わなければいけない時です」


「一丸になってるんですか?」


「……いえ、それは」


「野党とか、活動家とか」


「……彼らも、日本を想う民の一員ですから」


ほー!


さっすが総理大臣!


ちゃんと綺麗事言えるじゃん!


俺がこの状況で総理大臣なら独裁してるけどな。その方が百パーセント楽だ。


「それで?誰を鍛えますか?どこを攻めますか?話は早く済ませましょう。その方が俺は楽だし、総理も寝れる。違いますか?」


「ええ、その通りです。……羽佐間さんは、特殊作戦群という部隊をご存知ですか?」


特殊作戦群……、日本の特殊部隊だな。


「ええ、知っています」


「特殊作戦群は、我が国の優秀な自衛隊でしたが……、モンスターとの戦闘で既に半分以下になってしまっています」


「半分そこらも残っている辺り、優秀だと思いますよ。東京付近のダンジョンは人間では太刀打ちできませんからね。じゃあ、特殊作戦群を鍛え直すついでに、それなりの難易度のダンジョンを攻略するという方針でよろしいですか?」


「は……?その、低いレベルのダンジョンから攻略するのでは?」


「いえ、低いレベルのダンジョンは訓練や資源採掘に残した方が良いですよ」


「はあ……?」


「モンスターを倒せばレベルが上がる、強くなれるのです。手頃な難易度なダンジョンを残しておいて、一般の自衛隊にそこで訓練させるんですよ。そうすれば自衛隊の平均レベルが上がる」


「……成る程」


「それに、肉が食えるモンスターが出るダンジョンなんかは、今の日本では宝の山では?」


「確かにそうですね……」


「取り敢えず、攻略予定地は赤のマーカー、維持するダンジョンは青のマーカーで色を塗っておきました」


地図を見せる。


「……分かりました、ではそのように」


「おや即決。お得意の会議は?」


「今は会議をしている場合じゃありませんから。私が全責任を負います」


ほー。


責任取れって言われた時に何ができるのか不明だが、その意気や良し。


と言う訳で特殊作戦群に会いに行く。




「羽佐間さんに、敬礼!!!」


おー!


凄えな、マジもんだよ。


やっぱりカッコいいね、軍隊。


ああいや、自衛隊は軍隊じゃないってことになってるんだったかな?そういう詭弁好きだよね日本人は。


「取り敢えず……」


天海街製……、と言いながら俺が鍛治魔法とダンジョン産の鉱物や骨、牙などで作った武器を出す。


「選んで下さい」


「は……?あ、あの、銃は……?」


「その銃なら、レベル二十そこらまでしか通用しませんよ」


俺は、自衛官から素早くライフルを奪い取って、銃口に手を当て、引き金を引く。


「なっ……?!!!」


弾が発射されるが、弾丸は俺が掴み取った。


「へえ、弾丸ってこんな形してるんだ……。と、まあ、こんな感じで、レベルが上がれば銃なんてこんなもんです」


「「「「………………」」」」


唖然とする特殊作戦群の皆さん。


「それと、防具も変えましょう。選んで下さい」


天海街製……、と見せかけた俺作の防具集。


「あ、その目出し帽みたいなのはそのままでいいですよ。チャームポイントですもんね。ただ、その服やヘルメットはいけないですね」


素早くヘルメットを剥ぐ。


「ちょ、また……!」


「こんなものはここにある剣でほら、こんなもんです」


適当な剣を手に取り、ヘルメットを宙に放り投げてから真っ二つに斬った。実際、レベル三十〜四十代のダンジョンの素材なら、人間の科学で作れる程度の防具は紙切れに等しい。


大層な名前のなんたらケプラーでもなんたらファイバーでも、レベル四十のダンジョンでとれるメギドライト鉱石製の剣ならほら、安っぽい通販番組みたいなノリで真っ二つだ。


特殊作戦群の人達が息を飲む音が聞こえる。


「ああ、因みに言っておきますが……、俺はヌーカー型……、後衛です。それでも、レベルの差により、選び抜かれた素晴らしい国防の戦士達である貴方達より遥かに……、強い。そう言う訳です」


特殊作戦群の人達は、静かに話を聞く。


「レベルアップによるステータスの増え方やスキルの習得の法則から、タンク、ヒーラー、メレー、ヌーカー、サポーターが存在することは、資料を渡しましたから、当然知ってますね?」


頷かれる。


「俺はヌーカー、ウィザードタイプです。つまりは魔法使いなんですよ。前衛じゃありません。ですが、銃弾を掴み取ることも、この剣でフル装備の貴方方を真っ二つにすることも、とても簡単にできます。あまり、舐めてかからないようにしましょう」


凄く頷かれる。


「ああ、こちらの三人の女の子も、貴方方よりも強いですから、手を出して酷い目にあった、なんて言わないように。聖川がヒーラー、風道がヌーカー、日野がメレーです。……さあ、早く武器と防具を選んで下さい」


一斉に動き出す特殊作戦群の皆さん。


……因みに、タンク、ヒーラー、メレー、ヌーカー、サポーターとあるが、俺とその親友達は全部伸びる特殊タイプだ。


欲張りセットだな。お腹いっぱいだ。


さて、バラバラの装備を個人の趣味で選んだな。


「はい、それで良いんです。軍隊では統一された装備が大切かもしれませんが……、先ほど言った五つの分類がありますからね。どの道、方向性は分かれますから、下手に統一しちゃ駄目ですよ」


そんなこんなで、一日目は武器や防具に慣れさせる為、装備したまま訓練させた。




二日目からは、近くのダンジョンを攻める。


百十四人の特殊作戦群の生き残り全員を連れて、レベル十五相当のダンジョンを攻略。


まだ訓練が十分じゃない的なことを言われたが強行。


知らん。早く帰りたい。


揚羽がいるから、最悪死ななけりゃどうにかなる。


それに、特殊作戦群の人達の平均レベルは十八くらい、二十に達している人も多い。


元から強い訳だ。恐らく、市民を逃すためにモンスターと戦ったんだろう。


なので心配は要らないな。


さあ行け。


最寄りの十五レベルダンジョンは主に虫系のモンスターが出たな。


1.5メートルくらいのカマキリとか出たが、その辺は流石は特殊作戦群。


上手い具合に殺していった。


そして最初のスキル獲得。


ここで五つのタイプに分かれる。


特殊作戦群の皆さんは、メレー、タンク、ヌーカーが多かった。サポーターとヒーラーは少し少な目。


どうやら、攻略する人数に手に入るスキルのレア度は反比例するようだ。


それでも、中級までの武器術……、刀術が多く、次いで槍術、弓術が多い。元から武器術を身につけていた人はランクアップしたみたいだ。


あ、言ってなかったけど、既に持っているスキルを習得した場合、スキルが統合されたり進化したりする。


例えば、元から剣術(下級)を持っていて、新たに剣術(初級)を得た場合、ワンランク上がって剣術(中級)になるみたいな。


まあでも、中々最上級にはならないね、そう上手くはいかないんだよ世の中はな。


メレーは主に武器術だったが、タンクは中級から下級の盾術や障壁を習得した。


ヌーカーは火魔法の下級などが多かった。まさか、火=破壊と思っている人が多いからだろうか?次いで光魔法や風魔法も多かった。割と習得できる魔法は本人のイメージによるのかもしれない。


ヒーラーは回復魔法の下級を、サポーターは色々細々としたスキルを……、テイムなんかを覚えた人もいるな。


平均レベルは二十三程に。


レベルは上がれば上がるほど、上がりづらくなる。体感だが、四十くらいまでは割とすぐに上がる。事実、揚羽達も既に五十レベルを超えてるからな。


さて、特殊作戦群の皆さんもレベル四十代、スキル五つくらいを目指すか。

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