第10話 クズの話は品がない

自衛隊が来て三時間後。


「やっぱり貴方がリーダーじゃないですか!!!」


なんか自衛隊が戻ってきた。


「あのヘリ、洋館の景観を損ねるなあ。レジデントでイービルなゲームでは、ヘリはラスト以外では墜落するから良くない。持って帰ってくれない?」


「え?は?」


「やめてくれよー、面倒事提げてさあ。俺は関係ないよね」


「兎に角、この街の現状などについてのお話を……」


「嫌だ」


「くっ、あ、貴方は……!!」


「逆に聞くが何を話す?お互いの身の上話か?ジュニアスクールの頃好きだった女の子の話?それとも美味いパンケーキの焼き方について?そんなものお互いに興味ないだろ?そっちが聞きたいことは大体予想できる。ああそうとも、俺は色々と知っているさ。だが何でタダで教えてやらにゃならんのかね?学校だってタダじゃないだろ、知識は有料ってことさ」


「な、何を要求するんですか?」


「別に何も」


「へ?」


「何も要らないんだよな、今のところ。食料は二、三年保つし、モンスターの肉もある。農地も広くなったし、街の住民も問題なく働いている。さて、そんな俺達に何をくれるんだ?」


「……情報に対して、お渡しできる対価がない、と?」


「そうだ」


「……それはっ、ごもっともです。お渡しできるものは何もありません。しかし、国防の為に、何か役に立つ情報だけでも、何卒……!!」


ふーむ。


どうすっかなー?


んー、敵になっても困るし、反政府組織とか言われたら面倒だよなー。


でも、俺より強い奴が現れて、ステータスとか見られたら不味いよな。


空間支配と完全複製、ダンジョン生成はどれも非常に使える能力だし、バレれば政府で一生飼い殺しだよなあ。


その場合俺は政府を皆殺しにしなきゃならなくなる。


ある程度スキル持ちが分散するように工作するべきだな、これは。


自衛隊が俺より強くなっちゃ困るって訳だ。


よし、適当にだまくらかそう。


「そうですね、国防の為とまで言われれば仕方ない。情報を少しだけなら提供しますよ。幕僚長だか大臣だか、話がわかる人を呼んできてください」


「あ、ありがとうございます!」




次の日、マジで陸の幕僚長と防衛大臣呼んできやがったよあいつ。




「防衛大臣の佐々木丈二です」


「陸幕長の竹中直哉です」


うわめんどくさ。


隣には俺が複製したキューバ産の高級葉巻を吹かすシーマと緊張で真っ青の揚羽の親父。それと署長と学長。


俺も咥えているアメスピの火を消して、挨拶する。


「喫茶店『ディメンション』のマスター、羽佐間です」


「「……は?」」


「い、いえその、元の職業の話ですよ。彼は、今はこの天海街のリーダーです」


必死にフォローする揚羽の親父。


「いや、今も喫茶店のマスターのつもりですがね。さて、取り敢えず、渡した書類は読みましたかね?」


「ええ、資料の方はコピーして各地の駐屯地に送りました」


「へえ、日本はどんなもんですかね?」


「厳しい……、と言うのは、言わずともお分かりいただけるでしょうが……、特に北海道がまずいですね。あそこは日本最大の農業地区でして、北海道を占拠されると……」


「北方領土はどうなりました?」


「領地問題どころじゃありませんよ。けど、中国や韓国、一部ロシアからも難民が押し寄せています。もちろん、今の日本に難民を受け入れる余裕などありませんから、全て断っていますが……、一部の国がそれに反発し、軍艦を日本海で動かしていたりなどしますね。もう、経済水域であろうと侵入してきますから、国際法も何もない状況です」


はあ。


そりゃ大変そうだなー。


「大変ですね」


だがまあ、他人事だしなあ。


「ええ、大変です……」


そこで黙るのかよ。


「で?何が聞きたいんで?正直、資料に大抵のことは書きましたよ?」


「その、この資料はどれほどの確度ですか?」


「……ああ、レベル三十を超えるモンスターは現行兵器が無効である点や、日本のダンジョンの大まかな位置とそのレベルについてですか?」


「はい」


「レベル三十を超えるモンスターの強さ、と言うのは、まあそうですね、アメリカの軍用のグレネードランチャー、対物ライフル、フルオートショットガン、重機関銃を試したところ、回避される、若しくは防御、反射されると言った対応を取られるボーダーラインが、大体、レベル三十台という話です」


「何故、米軍の武器を所有しているのですか?」


「そこはお話しできませんね。カードゲームで自分の手札を見せる馬鹿はいないでしょう?」


「……分かりました。しかし、モンスターのレベル、と言うのは、どこを見て判断するのでしょうか?」


「鑑定のスキルがないと見れません」


「え?」


「鑑定のスキルがないと見れません」


「……成る程、どの道、ダンジョンを攻略しなければならないのですね」


「そうですねえ。こんな時のために仲良くしていたアメリカさんはどうです?」


「アメリカは、安保を一方的に破棄して、日本から引き上げました」


はーん。


まあ、大体予想通りだよねえ。


昨日、アーニーと話したな、安保はもう駄目だろうなーって。


「米軍基地は現在、総理の指示で避難所になっています」


ふーむ?となると?


「人間、結構生き延びてません?」


「……確かに、滅亡と言う程ではありませんが」


何だ、割と生きてるじゃん。


各地の自衛隊の駐屯地や元米軍基地、島地なんかに避難してて……、んー、何百、何千万人くらいは生きてる、か?


「じゃあ頑張ってください。コツは弱いモンスターを倒してレベルを上げてから強いモンスターに挑むことと、何人かでダンジョンを攻略し、スキルを習得させ、スキル保有者を中心に戦っていくことですかねー」


「ま、待ってください!」


「まだ何か?」


「その、羽佐間さんは仲間とダンジョンを攻略し、多くのスキルを得たそうですね。そのスキルとは?」


「ふむ……、俺が思うに、今後この世界で所有しているスキルを無遠慮に聞く、と言うのは、初対面の相手に陰茎のサイズを聞くかのようなことになっていくと思いますよ」


「……えっ?あ、あー、その、すみません?」


「先程も自分の手札を見せる馬鹿はいないと言ったじゃないですかー、嫌だなー、もう」


「あっ、その、そうですね、すみません。それでは、どれくらいのレベルのダンジョンを攻略した経験があるかと言うのは……?」


確か九十二だったかな、最高は。


「それは初対面の他人に、抱いた女の数を教えろと言っているようなものですね。喜んで武勇伝を語る男もいれば、多めに申告する奴もいるでしょう。因みに俺は恥ずかしくてそんなことは言えないですよ」


「は、はあ、ええと、すみません……?」


「まあ、大方、そちらの言いたいことは分かってますがねー」


俺はコーヒーを飲む。


んー、料理スキルが最上級になってから、俺のオリジナルブレンドも神の領域に達したな。んまい。


「で、では……?」


「お断りします」


「な、何故、でしょうか?」


「俺の本質は商売人でしてね。メリットがないと動きたくないんですよ」


まあ、今回は行くつもりだけど、ただじゃ動かねえぞとアピールしておく必要があるよね。


「では……、石油や天然ガスと引き換えでどうでしょうか?」


ほう?


「あるんですか?そんなもの」


「アジアの一部や、難を逃れた石油産出国などから、一部を何とか確保できました。天海街の人口は現在四千人程ですよね?四千人分の燃料なら、切り詰めれば何とか……」


「ふむ、確かに、天海街は食料と水、薪はあっても、エネルギー資源はありませんからね」


と、話に乗ったふりをしておく。


もちろん、資源は無限に複製できるから必要ない。


でも、無限に資源があると街の人に思われても困る。


俺が頑張って資源もらってきたんですよー、みたいな形にしなきゃならない。


俺は、世の中の社会が終わらない程度に、生かさず殺さずで維持されてほしいと思うが、それはそれとして社会の上層に留まらなくては困る。


あの人何もやってないよねー、とか噂されるのは恥ずかしいし……。


ここいらでちょっと功績点を稼いで、この街の名士となり、統治には関わらないが意見だけは通せるような都合のいい立場になりたい!


そんな訳で俺は、国への協力を申し出て、自衛隊駐屯地へ行くこととなった……。

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