第9話 自衛隊

学校から来た学生諸君は、割と真面目に働いている。


偏差値的には割と良い方の学校らしく、大きないじめや不良などもいない、ほのぼのとした学校だったらしい。


教師陣も粒揃いで、新薬を開発して世に出した薬学の教授、外科医の先生なんかもいた。


車で、貴重な薬品や機材を運んだりなんだりして、その上で、空き家を改築して病院にしたりなどをする。


ただ、強くなりたいと希望するガキが弟子入りしたいとか言ってくるのは勘弁して欲しい。


俺は喫茶店のマスターでしかない。


面倒だからシーマにパス。


スパルタ剣術道場開催のお知らせである。


因みに昌巳の実家の道場も営業中。


昌巳が気功術(初級)を教えてくれるらしい。


他にも、洋館の一室では揚羽の回復魔法と光魔法の講座があるし、元本屋は改築して貸本屋兼羚の風魔法と生活魔法の講座ホールになった。


魔法が使えるようになるかもしれないと、連日色々な人が講座を聞きに行く。


すると、一週間もすれば落ち着いてきて、初級魔法を使いこなす魔法使いは五百人程に増えた。


しかし、剣術や格闘術などのスキルは中々身につかないようだ。


恐らくは、魔法は、きっかけさえあればコツを掴んで使えるようになるものだが、武術は繰り返し訓練して身に付けるものだからだろう。


実際、魔法の教え方は、相手に魔力を流して、魔力の操作感を掴ませてから、仕組みと詠唱を覚えさせるだけで良いみたいだ。


警備隊、鍛冶屋、電気屋、料理屋、肉屋、漁師、床屋、農家などは、高校生や大学生を弟子として迎えて、共同生活しているらしい。


もちろん、問題も起きた。


迎え入れた人間の中で、女性に乱暴狼藉を働いた者もいる。


そういうのは一律追放で。


自衛隊の基地とやらを目指して頑張ってね、と。


まあ、男同士の殴り合いの喧嘩くらいは別に良いけどさ、レイプはね。


許したら許したでめんどくさいことになるだろうし、なら手っ取り早く出ていってもらうのが一番よね。


もし殺人とかが起きたら、その時も追放にするらしい。盗みとかの小さな犯罪に対する罰は、まだ決まってないとのこと。


学生達はここでの生活が気に入ったらしく、自衛隊の基地に行こうとは思っていないらしい。


なんでも、俺達の強さを間近で見て、いつ来るか分からない自衛隊よりも頼りになると感じたんだとか。


複製で増やしたクローン乳牛を酪農家に提供して、チーズ作りも始める。


また、複製で増やした鶏や豚なんかの管理もさせる。


もちろん、俺のスキルについては誰にも教えてない。


動物を連れてきた時は、一旦街の外に出て、大型トラックで人目のつかないところに移動して、そこでアイテムボックスの動物を複製し、さも拾ってきましたみたいな雰囲気で持ち帰る。


……完全複製は生物も複製できるのだが、人間を複製することはやめておく。百パーセントややこしいことになるしな。俺がもう一人いて、俺同士のバトルなんかになったら世界がヤバイ。動植物なら複製しても困らないからな、やっちまえ。


柵もさらに広げて農地を確保し開墾させる。


下水はこっそりダンジョンにして、スライムを放流する。スライムはなんでも食うが故に、下水掃除にはぴったりだろう。


スライムは一応菌類のモンスターらしく、食べれば増殖するし、飢えれば死ぬ。


ダンジョン、というのも色々あって、元々ある洞窟や城なんかをダンジョンにすることも可能みたいだ。


あ、今のところ俺はレベル八十までのダンジョンが生成可能だな。


因みに、ダンジョンを作ると、俺自身がダンジョンコア扱いになって、俺か、ダンジョン外の生物がいないとダンジョンは消滅してしまう。モンスターでは駄目だ。


しかし、下水道や城、洞窟など、元からある建物をダンジョンとして利用する場合は消滅しないことも判明した。


これを利用して、下水道ダンジョンにはスライムを放流し、綺麗にしているという話だ。


そのうちダンジョンの土地を利用して農耕とかもしたいが……、ダンジョンが作れるなどとバレたら面倒だ。


街の適当な位置に「あ!ダンジョンができてたぞ!破壊した!」って言って破壊したと見せかけた後、ダンジョンの中にダンジョン外の生き物がいれば消滅しないことを説明して、農地や放牧地として使おうか。


そしてアーニーから魔導書を複製させてもらい、信頼できる女達に読ませる。更にダンジョンの攻略も進み。


揚羽が瞑想、水魔法(中級)、魔力増大(中)、生活魔法、回復魔法(上級)、鑑定を。


羚が銃創造と弾丸創造と銃操術、銃術(中級)、生活魔法、闇魔法(中級)、鑑定を。


昌巳が内頸と外頸、金剛体、断空拳、敏捷増大(中)、生活魔法、鑑定を。


それぞれ得た。




そして……、世界崩壊から一ヶ月が過ぎた。


「んー、今日もいい天気だコーヒーが美味い」


涼しい季節。温かなコーヒーを飲みつつ、シーマに押し付けられたロシア文学を嗜む。


……が、外がバタバタとうるさいな。


窓を開けて外を見る。


お、ありゃ自衛隊のヘリだな。


昔、SNSなんかで見たことがある。


ヘリは、天海街をぐるりと回って、東京の方へ飛んで行った。


ふむ、そう言えば、東京では立川と小平の駐屯地がメインになっているみたいだな。


用賀や練馬、三宿辺りは駐屯地を破棄したらしい。


まあ、東京にはレベル百のダンジョンがあるからなあ……。


究極地図は衛星写真のように世界を見ることも可能だから、見てみたところ、ひん曲がった東京タワーにサンダーバードが巣を作り、東京駅は程よく破壊されフェンリルの巣になっている。


まあ、他もヤバイけどね。


中国は……、軍閥ごとに分裂してるっぽい?核ミサイルを自国内にぶっ放した。でも、ダンジョンは一種の異次元空間、基本的に外部から破壊することはできない。俺も前に、空間破壊で無理矢理に入り口を破壊したことがあるけど、そうやって入り口を破壊すると、近くの別の場所に入り口が出てくるんだよね。ダンジョンは攻略する以外では消せないみたいだ。


てな訳で中国は修羅の国と化してるらしいね、究極地図で見た限りでは。


イギリスなんかは島国だからか、少ない土地が更に少なくなりピンチだそうだ。


ロシアはデーモンロードの街となったモスクワに爆撃しようとしたところ、デーモンロードの魔法でボコボコにされてる。と、シーマが言っていた。


ドイツも電力不足でヤバいらしい。何せドイツは他所の国から電気を買っているから、電気の売買どころじゃなくなったドイツは、色々と立ち行かなくなっているとのこと。ヴォルフが言ってた。


アメリカは案の定、シェルターに金持ちと大統領が籠って、貧しい軍人にモンスターを殺させているみたいだ。アーニーから聞いた。


ダンジョンの加速度的な増加は収まったが、それでも、増加そのものはまだまだ続いている。


しかし、ダンジョン急増期とは違い、新しく生まれるダンジョンはどれも小さいものだった。


俺の空間支配によるスキルからの情報だと、急増したダンジョンはまるで別の世界から『転移』してきたような形になっていたが、最近増えている小さなダンジョンは『誕生』している感じだと分かった。


そしてついでに言えば、誕生したダンジョンは、少しずつ成長することも分かっている。


まあつまり、最初の急増期のダンジョンは、異世界から転移してきたもの。


最近の誕生しているダンジョンは、地球そのものが産んでいる……のだろうか?よく分からんが。




それからまた一週間後。


またもや自衛隊のヘリが。


あ、降下してきた。


洋館の前の広場に何人か降りてきたな。


「すいませーん!誰かいませんかー!すいませーん!!!」


うわめんどくさ。


居留守しよ。


「何だ?」


「馬鹿テメエ出んじゃねえよこのクソアマ!!!」


シーマが勝手に出る。


「おはようございます!ああ、良かった、生存者のコミュニティがあって!……自分は、陸上自衛隊立川駐屯地所属、七瀬透一尉です!この街で一番大きな建物なので、責任者の方がいらっしゃるかと思いまして……」


「そうか」


シーマがドアを閉める。


「ちょ、まっ!ちょっと待ってください!」


自衛隊の男がドアに足を差し込む。


「お話を!お話を少し!」


「何だ」


シーマがドアを開ける。


「す、すいませんその、お話をお聞きしたいのですが!」


「そうか」


「それでその、この街の責任者のような方はどちらに?」


「あいつよ」


俺の方を顎でしゃくるシーマ。


うわあこいつクッソ態度悪いなー。


つーかなんで俺にパスするの?殺すぞテメー。


「違います、リーダーはあっちの温泉旅館の聖川っておっさんです。俺は一般的な喫茶店のマスターに過ぎません」


「は、はあ、そうですか。温泉旅館の聖川さんという年配の方ですね」


「そうですそうです」


「ご協力、ありがとうございます。では、失礼しました」


さて。


「あー、コーヒー美味え」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る