第二章・復讐なんてどうでも良くなってきた、逆TSの男の体
第5話・生徒会長の続投、姫生徒会長から王子生徒会長に……ルチエ女子生徒にモテまくる
ルチエは、キザムとアスナルの部屋で全裸になると、全身を映す鏡の前に立って、念入りなボディチェックをしていた。
鏡の前でヌードモデルでもしているように、さまざまなポーズをする男ルチエを、アスナルは口の端からヨダレを垂らしながら両目に焼きつけていた。
キザムがルチエに訊ねる。
「さっきから、いったい何をやっているんですか?」
「明日から生徒会長の仕事がはじまりますから、その前のボディチェックですわ」
ルチエは、失踪した姉が後任の生徒会長として生き別れのセイを指名したコトにして。
学園生徒会長の役目を続ける段取りになっていた。
「女性の体の時も、鏡の前で裸になって。重要な日の生徒会室に向かう前日には、ボディチェックをしてきましたわ……よし、完璧なボディですわ」
椅子に座って頬杖をしたキザムは少し呆れた表情で内心、ルチエさまは自分では気づいていないナルシストな露出狂の嗜好があるのでは? そう思いながら。
「そうですか」と、だけ呟いた。
着衣したルチエが、キザムに質問してきた。
「ところで、男の人のアレはどんな味がするのでしょうか?」
少し考えてからキザムがルチエに逆質問する。
「この間、口まで飛んで味の確認をしたのでは無いのですか?」
「あの時は、頬を汚しただけでしたわ」
キザムは、あぁ曲がり具合の関係で飛ぶ方向が違うのかと、納得した。
「匂いとか色は、なんとなくわかりましたけれど、まだ味の確認はできていません……これでは、ザマさまとの社交辞令の会話にも支障が生じます……どんな味がするのか教えてください、男の体のコトは熟知しておかないと」
「ご自分で口にして、味を確かめてみては?」
「そんな変態なコト、できませんわ!」
何が変態行為なのかわからないまま、キザムは棚の上に置いてあった、拳くらいの恐竜の卵を手にしてルチエに向かって訊ねた。
「生卵は食べられますか?」
「大丈夫ですわ」
キザムは卵を割ると白身だけを皿に入れて、ルチエの前に差し出した。
「どうぞ、その白身だけの恐竜の卵を飲み込んでください」
言われた通りに皿を持って、白身をすするルチエ。
「ごちそうさま……全部、飲み干しましたけれど、卵の白身が何か?」
「その食感と味が、ルチエさまが求めているアレの味覚と食感に近いモノです」
驚くルチエ。
「えぇぇぇぇ⁉ わたくし殿方のアレを飲んでしまったのですか?」
「アレは卵の白身と同じタンパク質ですからね、どちらも熱を加えると凝固します」
「でも、噂で聞いていた味と違いましたわ……最初に聞いていたのは苦い味だと」
「体調や食べ物で味とか、濃度は変わってくるみたいですよ……酸味や苦味や甘味や、無味な時も」
「勉強になりましたわ……アレは呑み込んでも大丈夫ですの?」
「さっきも言いましたが、タンパク質ですから胃の中で栄養に変わるだけです。ちなみに、一番近い匂いは『栗の花』の匂いですかね」
男姿のルチエが、口の端から垂れた白身を手の甲で拭っていると、アスナルが嬉しそうな顔でルチエに言ってきた。
「ルチエさま、どうでしたか? あたしの初卵のお味は?」
「アスナルの初卵?」
「はいな、今朝生まれて初めて卵を産んでしまいました……あっ、無精卵ですから安心してください。これからは毎朝、産卵した無精卵をルチエさまに提供できます」
「そ、そうでしたか」
ルチエは複雑な表情で、下腹部をさすっているアスナルを眺めた。
◇◇◇◇◇◇
翌日──前姫生徒会長不在のまま、無事にバキャロ・ウ・セイへの王子生徒会長の引き継ぎが終わり、学園の談話室で紅茶を飲みながら休憩していたセイ〈ルチエ〉のところに次々と訪れて、あるモノをテーブルの上に置いていく女子生徒の集団があった。
「あのぅ、セイさまこれ手作りのチョコレートなんですけれど……召し上がってください」
「あたしも、ナッツ入りの手作り焼き菓子作りました、お口に合えば」
異世界惑星『エンヴィー』では女性が、好意を持った男性にいつでも、甘い食べ物をプレゼントする行為が普通に行なわれていた。
甘い食べ物をプレゼントされた男性は、倍返しの対価のプレゼントを返すか。
本命の女性には愛を告白して、ハート型の食べ物をプレゼントしなければならないのが常識になっていた。
山盛りになった甘い食べ物を、どうしたら良いものかと思案しているルチエのところに、ルチエが大嫌いな女が現れた。
「セイさまは、おモテになりますのね……本当に顔立ちは失踪した、姉のルチエにそっくり」
ハラグロ家の令嬢──ハラグロ・カレンだった。
カレンは、ズカズカとルチエに近づいて来ると、テーブルの上に置かれていた焼き菓子を一つ手にする。
「あらっ、この焼き菓子は、下級生の子からの贈り物ですわね……腐っていますわね、あたくしが処分して差し上げましょう」
そう言い放って、カレンは後ろのゴミ箱に焼き菓子を背中越しに放り投げた。
この行為はエンヴィーでは、宣戦布告の意思表示だった。
頬を引き攣らせたルチエは思った。
(この、腹黒い泥棒ネコ女! その時々で男に媚を売って)
男体のルチエがそんなコトを考えているとは思わないカレンは、遠慮なくルチエ〈セイ〉に聞いてきた。
「失踪してしまった、セイさまのお姉さまって、身内から見てどんな方でしたか?」
「さあ、わた……オレは、幼い頃に姉上から離されて親戚の家に預けられましたから……あまり、姉上とは会ったことがなくて……聞いた話しではルチエ姉上は、才色兼備の素晴しい女性だと」
「才色兼備……モノは言いようですわね」
ルチエは怒りを必死に抑えながら、腹黒なカレンに聞いてみた。
「なんでも、ルチエ姉上の婚約者だった、ネトラレ・ザマさまを奪ったとか……どうして、そんなコトをしたのですか?」
「特に意味はありませんわ、人が持っているモノが欲しくなっただけですわ……ザマさまは遊び飽きたら捨てて、ルチエに
ブチッ! ルチエの中で何かがキレた。かろうじて理性で抑止しているルチエに、カレンは無神経に近づいてきて、甘い声で囁きはじめた。
「あたくし、どうやらセイさまを、好きになってしまったようです」
そう言うと、いきなりルチエに抱きついてきたカレンは、ルチエの唇を奪った。
「ち、ちょっと……いきなり何を⁉ うぐッぐッぐッ」
カレンは、離れようともがく、ルチエを強引に床に押さえつけて逃さないようにしてキスを続ける。
最初は復讐しようと考えている嫌な女に、男としてのファーストキスを奪われて、反抗心が湧いてきたルチエだったが。
キスを続けているうちに、頭の中が真っ白くなってきて、恍惚とした表情で反対にカレンを抱き締めていた。
ルチエの頭の中に、この状態からの復讐計画が完成した。
(この状況を利用して、カレンがわたくしから離れられなくなるほど惚れさせてやりますわ……そして、思いっきり捨てて。ザマァしてやりますわ)
ルチエは、自分の方から強く抱擁して、カレンの口の中で舌を絡める。
一瞬、驚いた様子のカレンはトロンとした目で、逆TSの男体化したルチエに夢中で抱きついてきた。
「うぐッ、んぐッ……セイさま、あたくし本気でセイさまのコトが好きになってしまったみたいです……んッ、んくッ」
この瞬間──ハラグロ・カレンは、ルチエの策中にハマり……恋に堕ちた。
(やりましたわ……ハラグロ・カレンを、わたくしに惚れさせるコトに成功しましたわ……後は、より深みの恋に落として……)
ルチエの視界の隅に、開け放った暖話室のドアの所に立っているネトラレ・ザマの姿が映った。
ザマは無言で談話室のドアを閉める。
動揺する、バキャロ・ウ・ルチエ。
(ち、ちがいます! これはザマさまぁぁ、誤解ですぅぅぅ!)
ルチエの心の叫びは、談話室に無言の叫び声として虚しくルチエの心の中で反響した。
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