ダンジョン婚活有限会社『マリッジ・アリア』にて
小花ソルト(一話四千字内を標準に執筆中)
第1話 辺境の地より、どっこいしょ!
「ふうわあああ、これが王都かぁ……すげえなぁ、どうやったらあんなでっかい建物さ建てられんべや〜」
人混みが海のように割れてゆくド真ん中で、簡易テント含めて調理器具やらモンスター各種の餌やらを詰め込んだ巨大すぎる荷物を背負う、異質な風体の青年が棒立ちしていた。人目も憚らず真上を見上げて、ほへぇ〜、と感嘆し続けている。
「あん建物さ、鳥系のモンスターが室内で翼さ伸び伸び広げられて、ええな〜。こん石畳も、なんの素材さ使うてるんだろ、蹄が生えたモンスターでも足首さ痛めない、ちょうどいい柔らかさで、もう感動だべや〜!!」
街中で一人、全部声に出している。完全に自分の世界にどぶり込んでいる青年に、にやにや笑いながら近づいてくるのは、上等な制服に一寸のシワも汚れもない、少々気取った青年たちだった。
「こんにちは、お兄さん。この街は初めてなの?」
自分より歳五つほど離れていそうな少年たちに話しかけられて、辺りをきょろきょろしていた青年が振り向いた。
「あ、はい! ここから山五つ離れた所から来ました」
「誰の領土から?」
「え? エーゲルン伯爵の、ですけど……」
なんでそんなこと聞くんだろうかと、きょとんとした顔で小首を傾げる純朴な青年。目の前でけらけら嗤われて、ますます混乱する。
「あのぉ、オラは何かおかしいことでも言ったんだべか?」
「ああいや、失礼。久々に聞いた名前なもので。そう言えばそんな人が、僕の親類にいたなぁ」
「へえ!? 伯爵様の親戚の方でしたかぁ。いや~、こげな広い王都で、こげにいっぺぇ人っこがいるのに、こんな縁があるんだなぁ」
重い荷物をものともせずに、片腕を上げて後頭部をわしわしかき混ぜて歯を見せる。
「あ、そうだそうだ、お近づきの印に受け取ってくだせえ! うちで作ってる名物ですだ!」
「え? いや、いいよ、要らないよ」
本気で嫌がる青年たちの目の前で、背中から鞄を下ろして中身をがさがさ、「あったあった」と取り出したるは、革袋に入った大きな魚の干物だった。人目も気にせずに取り出して、自慢げにニカッと笑いながら片手に持って振ってみせる。
「おっきな川魚さ、毎日獲れるんだ~。オラの故郷は海っこさ遠いから、こうやって魚を保存して……あれ?」
遠ざかる制服の背中たち。
「はぁ~、暇だからちょっとからかってやろうと思ったのに、なんなんだ、あいつ。相手すんじゃなかったぜ」
「でっかい声でモンスターがどうのとか言ってたから、あいつも試験を受けに来たテイマーだろ。やだなぁ、魚臭いのが移っちまう」
「なあ、あいつ受かると思うか?」
「無理じゃね、だってエーゲルン辺境伯んとこの領民だろ? 出身地で落選だよ」
「そりゃそうか、アハハハ!」
笑いながら小さくなってゆく彼らに、一人残された青年は、行き場のない片手の魚を、ムシャリと齧って食べた。骨でも筋でもなんでも食べて鍛えた顎で、むしゃむしゃ咀嚼し、飲み下す。
「魚っこ、嫌いだったのかなぁ……」
もう一口齧ってから、袋に戻した。
「こんなに美味えのになぁ」
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