第39話 厨二病だからダンジョンに潜りたい

「本日はリスナー諸君に新メンバーを紹介しよう! 記念すべきパーティメンバー第一号、エルミアだ!」


 :新メンバー!?

 :マジ!?

 :アンデッドマンパーティ組むの!?

 :つーか昨日はマジでビビった

 :っんなのどうでもいいからメンバー見せろ

 :どうせブ男だって

 :鬼助だったりしてww

 :ありえるw

 :うわ、萎えた……

 :お前らは何を期待してんのだ

 :男性メンバーの方が良いに決まってます!

 :天使ちゃん必死すぎww

 :ガチ恋勢死すwww

 :アンデッドマンにガチ恋とかいんの?w

 :いるんだな、これがww

 :うける


「ゴホンッ」


 一つの咳払いが響き渡り、俺は視線をフレーム外のエルミアに向けた(フルフェイスヘルメット着用中なので、俺の意図は彼女には伝わらないだろう)


 初めての配信でありながら、エルミアは驚くほど冷静な様子を見せていた。


 ダンジョンへ足を踏み入れる前、俺はエルミアといくつかの約束を交わしていた。


 1、アンデッドマンスーツを身につけている際は、俺をアンデッドマンと呼ぶこと。


 2、ダンジョン内では独断で行動しない。俺の指示に従うこと。


 3、状況報告や連絡を怠らないこと。


 そして、最も重要なのは、


 4、リスナーたちのコメントは拾わない。基本的には無視すること。


 リスナーたちと交流することで、彼らの巧みな話術によってエルミアの正体が暴かれる可能性がある。自ら危険を招くような行動は避けるべきだ。そのため、無視を強く推奨する。


「今日からそ……アンデッドマンとパーティを組むことになったエルミアだ!」


 :うそだろ!?

 :とんでもない美少女じゃねぇかよ!

 :しかも銀髪の外人!?

 :どこで引っ掛けたんだよ!

 :彼女とかいうオチじゃねぇだろうな!

 :ぐぬぉおおおあああああああああ

 :ガチ恋勢(一名)が発狂してるぞ!?

 :落ち着け天使ちゃん!?

 :つーか、この子って昨日の子じゃね?

 :転落少女だ!

 :え、まじ!?


 カメラの前でエルミアが挨拶をすると、かつてないくらいの勢いでコメントが流れ始めた。

 コボルトロードを討伐したとき以上の盛り上がりに、内心むっとしてしまう。


「これがLIVE配信というやつか。こちらの世界の人族は摩訶不思議なことを考えるのだな」


 :こちらの世界?

 :人族って……w

 :まるで異世界から来たみたいな言い方だな

 :異世界転移者とかラノベやんww

 :エルミアちゃん色白だし実はエルフだったりして

 :日本へようこそエルフさんじゃんwww

 :あれおもろいよなw

 :アニメ化楽しみw

 :宣伝やめぇwww


 ヤバい。

 異常に感の鋭いリスナーが存在することに改めて気付く。彼らの的確な洞察力は、まるで超能力者のようだ。警戒レベルを一段階引き上げる必要性を感じる。


「いやぁー、バレてしまってはしょうがない。そう! 何を隠そうエルミアは異世界からやって来たエルフさんなのだ!」

「ちょっ、アンデッドマン!?」


 話が違うじゃないかと慌てるエルミアに、俺はフルフェイスヘルメットの中で彼女と目を合わせ、話を合わせるように合図を送った。


「冥府からきた正義の使者アンデッドマンと、異世界から日本にやって来たエルフさんによる最強パーティなのである!」


 :あぁ〜なるほど

 :そういうコンセプトパーティか

 :差別化は必要だし、アリだな

 :そういうことか

 :ワイはてっきりアンデッドマンが頭おかしくなったのかと……w

 :ちょっと期待したよなww


 うまく誘導できたようだ。


 これで、万が一エルミアがボロを出してしまったとしても、俺はそれを設定の一部だと主張できるだろう。我ながら完璧な作戦だ。


 :エルミアちゃん歳は?


「86だ」


 :ばばあやんww

 :エルフなら200歳とかの方がよくね?

 :それよりパンツの色教エロw

 :おっぱいのサイズもよろww


「おい! センシティブなコメントはやめろ!」


 エルミアを隠すためにカメラの前に移動し、センシティブなコメントに厳しく警告する。次回、このチャンネルで同様の不適切な発言があれば、即座にブロックするつもりだ。


 そして、エルミアにも、


「約束その4はっ!」

「……リスナーたちのコメントは拾わない。基本的には無視すること……すまない」


 まったく、油断も隙もない。


 気を取り直し、これから七層まで向かうことを伝えると、リスナーからエルミアを心配する声が相次いだ。


 :エルミアちゃんの探索者ランクは?

 :いきなり七層は危なくないか?

 :というか、七層まで行けるのか?


 彼らが心配するのも当然だ。

 コボルトロードが支配する鉱山エリアがなくなったとはいえ、七層までの道のりは険しいし、出現するモンスターのレベルもかなり高い。


 しかし、エルミアのステータスを知っている俺からすれば、七層に出現するモンスター程度では、エルミアが危険な目に遭うとは考えにくかった。


「エルミアのランクはGだ」


 :は?

 :Gってマジ!?

 :登録したてじゃねぇかよ!

 :今日が初ダンジョンってマ!?

 :いくら何でも危険すぎるだろ

 :まずは一層で慣らしたほうがいいぞ

 :ん……? でも昨日ダンジョンいたよな?

 :人違いなんじゃねぇ?

 :顔見えなかったしな

 :そうかなぁ……


 視聴者が数千人にもなると、やはり鋭い洞察力を持つリスナーが現れる。

 彼らは危険だ。


「エルミアは最近まで海外に住んでいた。そこでは、探索者シーカー養成学校に通っており、成績は常に首席だったと聞いている。しかし、理由あってダンジョンには一度も挑んだことがないそうだ。そのためランクはGだという」


 :なんて学校?

 :どこの国の出身?

 :養成学校に通っていてダンジョンに入らなかった理由ってなに?

 :ダンジョン入らなかったのに首席は草

 :そんな奴おる?

 :なんか嘘くせぇー

 :だって嘘だもんww


 疑り深いリスナーだな。


「そこは、その……個人情報なので、秘密だ!」


 めんどくさそうなコメントは全部無視することにした。俺までボロが出そうだからな。


「百聞は一見にしかずというだろ? まあ黙って見ていてくれ」


 俺は前方に現れたゴブリン三体を指差し、エルミアに倒すよう指示を出した。


「ふえっ!?」


 すると、エルミアの手から火の玉が生まれ、瞬く間にゴブリンを灰に変えた。


 :すげぇえええ!?

 :さすが首席!

 :エルミアちゃん魔法使えるのかよ!

 :Gランクで魔法持ちとかマジかよ!

 :剣帯装備してるし、職業気になるわ

 :魔法剣士とかじゃねぇ?

 :レアジョブじゃん!

 :こりゃつえーは

 :みみちゃむの魔槍士とどっちが強いかな?

 :いない人の名前あんまり出さん方がいいぞ

 :スマン

 :つーか、なんでアンデッドマンが驚いてんだよwww

 :変な声出てたよなw


 てっきり剣で襲いかかると思っていたので、予想外の攻撃に驚いた。


 しかし、これでリスナーの不安も一掃されたはずだ。


「ど、どうだね諸君。これでもまだ、一層で肩慣らしが必要だと?」


 案の定、反対意見は出てこなかった。




 ◆◆◆




 七層に向かう途中、エルミアは現れたモンスターをすべて魔法で撃破した。そのたびにリスナーたちは歓喜し、コメントが凄まじい速度で流れていく。

 普段俺がモンスターを倒しても、ここまでコメントが盛り上がることはない。

 それゆえ、少し嫉妬を感じてしまう。



「たしか……この辺りだったはずだ」


 目的の場所を確認すると、周囲に昨日破壊したカメラの破片が散乱していた。

 間違いない。昨日、エルミアが降ってきたのはこの辺りだった。


「何か手がかりになるようなものがあればいいのだが…」

「とにかく、手分けして調べよう」


 約一時間ほど周辺を捜索したが、異世界への手がかりにつながりそうなものは見つからなかった。


「ダメか……」


 諦めかけたそのとき、


 ――ピッピッピピピピピピピピピピピ!


 警報音が頭の中で鳴り響いた。


「な、なんだ!?」


 驚きながらも身構えた瞬間、脳内にスライム探索隊から送られてきた映像が映し出された。


 その場には、白と黒のツートーンでハーフツインテールにセットされた少女がいた。可愛らしい髪型とは対照的に、左眼には眼帯をしており、背中には身の丈ほどの黄金の剣を持っていた。


 そして、彼女の周りには、とんがり帽子を被った魔法使い風の女性や、くノ一、猫耳に全身包帯の少女、短いスカートのギャル看護師など、どこを見てもハロウィンパーティーの帰りのような格好をした女性たちが歩いていた。


「う、うぅっ」


 突然、先頭を歩いていた少女が眼帯を押さえながらしゃがみ込んだ。


「大丈夫でござるか、リーダー!」


 軽やかな動きで駆けつけたくノ一少女が声をかけると、


「う、疼く……間違いないのじや。アマテラスの時代より、盟約を交わした奴の気配を近くに感じる」


 と言いながら、なぜか眼帯をしている少女はスライムこちらを一瞥した。


「本当ですの!?」

「間違いないかにゃ?」

「なぎちゃんの魔眼の探知能力、マジでぱなくないっすか!」


 一番年上に見える魔法使いが驚いた様子で声を上げると、猫耳に包帯を巻いた少女や、ギャルな看護師もそれに呼応して次々に反応を示した。


「わかっておるぞ、そこで見ているのじゃろ……アンデッドマン!」

「!?」


 突然名前を呼ばれ、心臓が喉から飛び出そうになるほど驚いた。


「迎えに来たぞ! さあ、アマテラスの時代に立てた我らの盟約を果たす時が来た! アンデッドマン、天空の楽園エデンに入れ!」


 意味がわからない。

 というか、これは勧誘なのか?

 だとすれば、先程の「疼く……」あれは何だったのだ?


 ……そういえば、聞いたことがある。


 日本には聖剣の二つ名を持つSランク探索者シーカーがリーダーを務める、厨二病パーティがあると。


 まさか!

 彼女が剣聖か……。


 そういえば、コボルトロードの一件で、何かと問題になっている【墳墓の迷宮】を調査するため、天空の楽園エデンがやって来ると羽川さんが言っていたことを思い出す。


 実力は申し分ないが、如何せん彼女はトラブルメーカー、極力関わらないようにと言われている。


 こうしてはいられない。


「エルミア! すぐに帰るぞ!」

「なぜだ? もう少し調べるべきだろ」


 そんな悠長なことを言っている場合ではない。非常に面倒くさい事態が目前に迫っているのだ。

 その証拠に、ずっと前からスライムたちが耳障りな警報音で危険を知らせている。


 今日のところは彼女に見つかる前に帰るべきだ。


「いいから、早く!」

「あっ、こら、引っ張るなっ!?」



 俺はエルミアの手を掴んで駆け出した。

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