第38話 名古屋の朝食といえば小倉トースト

『昨夜、警察官二名が殺害された事件で、警視庁は二名の男の行方を追っています。遺体の状況と、防犯カメラの映像が乱れていたことから、犯人が探索者シーカーである可能性を考慮して捜査が進められています』


 昨日のエルミアとの出来事がまだ影響しており、今朝の食事は少し緊張感が漂っていた。

 オートミール代わりに豚ミンチを食べる俺の向かいで、エルミアは羽川さんが作ったハムエッグと食パンを食べていた。


 彼女がサクッと食パンにかぶりつくと、驚きの表情で瞳が開かれていく。


「な、なんだこのパンは!? やわらかい上にすごくもちもちしているぞ! 千尋、もしかしてお前天才なのではないかっ!」

「普通の食パンよ。褒められても嬉しくないわ。それより、物騒な事件ね。現場もすぐ近くじゃない」


 事件の遭った現場は、ギルドから目と鼻の先だった。

 逃走した犯人は、殺害された警察官が到着するまでの間、書店で強盗をしていたようだが、その店のシャッターはロケットランチャーで撃ち抜かれたかのように、ひどい壊され方をしていた。


「映像、ずいぶん乱れていますね」


 防犯カメラの映像は、かろうじて人らしきものが確認できる程度のものしか映っておらず、犯人の容姿は黒いマジックで塗りつぶされていた。そのため、識別することができなかった。


「阻害魔法だな」

「阻害魔法……?」


 横目でテレビを観ながらエルミアが呟く。

 彼女を見ると、嬉しそうな顔で食パンにマーガリンを塗っていた。

 塗りすぎだと思う。

 それに、たった一日で現代日本に適応しすぎているように感じる。

 彼女の環境適応能力はどうなっているのだろう。


「防犯カメラの映像を阻害しているってこと? あんこチューブ使う?」

「おおっ! うまいのか!」

「名古屋人と言えば小倉トースト。名古屋の定番の朝食スタイルのひとつよ」

「へぇー、羽川さんて名古屋出身だったんですね。初めて知りました」

「ううん、あたし東京」

「……」


 今の名古屋のくだりはなんだったんだよ。まるで自分が名古屋人であるかのような言い方だったじゃないか。紛らわしい。


「あんことやらは黒いのだな」


 瞳を輝かせながら、エルミアはあんこチューブを食パンに塗っている。そんな彼女を、羽川さんは母親のように見守っていた。


「こう言っては何だが……見た目は正直微妙だな」


 と言っていたエルミアだったが、ぱくっと小倉トーストにかぶりついた途端、彼女の瞳が猫のように一瞬で大きくなった。まるで彼女の瞳からはスペシウム光線が放たれるかのように、強烈な光が輝いた。


「まぶしっ!?」


 さすが光の民。

 リアクションがやたらと眩しい。


「くぅ〜〜〜〜〜っ!」


 エルミアが自身の太ももをペチペチと叩きながら唸っている。


 そして、


「うまいっ!!」


 叫ばずにはいられないほど、小倉トーストが好みの味だったようだ。


 彼女のリアクションに満足げな羽川さんが、


「で、阻害魔法に関してだけど、魔法は人、つまり意識のある存在に限らず効果があるってこと?」


 と問いかけると、エルミアは再びあんこチューブを手に取り、追いあんこをしている。

 どうやら相当気に入ったようだ。


「あれは防犯カメラの映像に魔法をかけているわけではない」

「?」


 疑問符を浮かべる羽川さんに、エルミアは話を続けた。


「要は、自分自身に魔法をかけ、認識を阻害しているのだ」

「つまり、映像の中の人物が黒く塗りつぶされているわけではなく、もしあの場にあたしが居合わせたら、あたしの目にも二人の姿は黒く塗りつぶされて見えていたってこと?」


 エルミアは笑顔で小倉トーストを頬張りながら、その通りだと頷く。


「にしても、たった一日で防犯カメラやその仕組みを理解するのはすごいわね。エルミアの世界にはそういう技術はなかったでしょ?」

「昨日宗介とアニメを観たからな。あと、部屋にあった漫画を読みあさって知識を得た」


 部屋に入ってから全く出てこないと思ったら、漫画を読むのに夢中だったのか。

 って、待てよ。


「日本語、読めるのか?」


 というのも、言語についてはなぜか共通しているのだが、俺にはエルミアの手紙が読めなかった。それなのに、エルミアは日本語が書かれた漫画を読んでいたという。

 気にならないわけがなかった。


「ああ、それならこれだ」


 エルミアの左手の小指には、シンプルな銀色の指輪がはめられていた。

 また指輪か……。


魔道具アーティファクトか」


 エルミアは鷹揚と頷いた。


「言語の指輪と言ってな。これを身に付けるだけで、あらゆる言語が理解できるようになるのだ。私と宗介が会話できるのも、私がこれを身に付けているためだ」


 そういうことだったのか。


「じゃあ、メフィストフェレスも同じようなものを持っているのか?」

「あんな奴のことは知らんっ!」


 メフィストフェレスの話になると、エルミアはすぐに癇癪を引き起こす。

 目の前で友人を殺されているので無理もない。


「ただ、やつは上位悪魔グレーターデーモンだ。生きとし生けるすべてのものを誘惑するため、言語理解のパシッブスキルを持っていても不思議ではない」


 なるほど。悪魔の特権か……。





「あたしはそろそろ行くけど、君の今日の予定は?」


 食事を終えると、羽川さんは急いで朝の準備を始めた。今日は祝日だが、ギルドの職員には関係がないようだ。

 羽川さんは、ギルドの職員の仕事が意外にもブラックなことを愚痴っていた。


「配信用のカメラを買った後、少しだけダンジョンに潜ろうと思います」


 昨日エルミアが降ってきた場所を、じっくり調べたいと思っている。もしかしたら、異世界への手がかりが見つかるかもしれない。


「それはいいけど、配信して大丈夫なの?」


 連れて行くんでしょ? と羽川さんの視線がエルミアに向けられた。彼女は食べ過ぎたようで、ソファの上でふくれたお腹を撫でていた。


「エルミアには、よく言い聞かせるつもりです」

「そう。まー頭は悪くないみたいだし、その辺は上手くやってもらうしかないわね」

「ですね」



 羽川さんを玄関先まで見送った後、俺も家電量販店に行くための準備をすることにした。





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