第32話 美少女は空から降ってくるもの

 :なんだぁ!?

 :女だ!?

 :空から美少女が降ってきた!

 :マジかよ!

 :00年代のラノベじゃねぇーんだぞw

 :10万3000冊の魔導書を記憶してるかもしれないから気をつけろよwww

 :武偵高校に通うトゥーハンド美少女かもしれないだろw

 :たらば蟹に出会って重さを失ったエキセントリック美少女かもな!

 :お前らどんだけラノベ好きなんだよwww

 :わかってるニキも中々だぞw

 :わろた

 :んっなのどうでもいいから顔を撮れ!


「ふぅー……」


 突然空から降ってくるんだもん、驚いて心臓が止まるかと思った。


「あの、大丈夫ですか?」


 膝をついて声をかけてみたけれど、頭から外套をすっぽり被った美少女は、全く反応せず、完全に気を失っているようだ。


 にしても……。


「すごい装備……というか、恰好だな」


 彼女は淡い緑色と白を基調とした服装に、漆黒の外套を身にまとっていた。腰には剣帯が巻かれていたのだけど、肝心の中身が空っぽだった。もしかしたら、モンスターとの戦闘で吹き飛ばされたのかもしれない。


「ん……?」


 よく見ると、口元に薄く吐血した痕がある。

 やはり、モンスターに襲われたのだろうか?


「ひぃっ!?」


 俺は驚くべきものを目にして、思わず立ち上がっていた。


 そしてすぐに、


「あっ、モンスターだ!」


 :え、どこ?

 :そんなの見えないけど?

 :気のせいじゃない?

 :それより美少女見せろ!

 :彼女、めっちゃ色白だよなww

 :ちらっと顔見えたけど外人ぽくないか?


 美少女に夢中の男性リスナーには申し訳ないが、俺は探索中のスライムを操り、カメラの死角から『釘』を放った。その『釘』はドローンカメラの背面に直撃した。

 狙い通り、カメラは完全に壊れてしまった。


「耐熱性を兼ね備えた高機能カメラ……高かったんだけどな」


 肩をがくっと落としながらも、落ち込んでいる場合ではないと首を横に振る。

 改めて美少女の外套に手を伸ばした。


「……」


 美しい銀髪が三つ編みに結われ、特徴的な耳に思わず息を呑んでしまう。


「どういうことだ」


 先ほど、俺は彼女の状態を確認するために、スキル『鑑定』を発動させていた。



 【エルミア】

 レベル:46/60 状態異常(怪我)

 HP:61/521

 MP:689/689

 SP:23

 経験値:69342/536809


 種族:エルフ

 腕力:198

 耐久力:196

 魔力:366

 敏捷性:302

 知性:412

 運:422



 鑑定結果を見て、俺は咄嗟にこの少女を隠さなければと思った。


「種族……エルフ」


 ダンジョン内ではさまざまなモンスターが出現するが、エルフの目撃報告は聞いたことがない。


「……本当に、エルフなのか?」


 もしかすると、俺と同じ境遇の探索者シーカーという線も否定できない。


「レベル46か」


 レベル44のみみちゃむと比べても、彼女のステータスはかなり高い。


 それに、


「エルミア」


 この名前はどう考えても日本人ではない。

 仮に彼女が探索者シーカーだった場合、彼女の容姿は【墳墓の迷宮】では相当目立つと思う。

 しかし、ギルド内で銀髪美少女や、遠征に来ている外国人の話など聞いたことがない。


「でもなぁ……」


 もしも彼女が七層に出現するモンスター――エルフだった場合、以前のドラゴン騒動の時と同じくらい話題になっているはずだ。

 七層の探索はかなり進んでいると羽川さんも言っていた。

 エルフを発見できないなんてことはまず考えられない。


 そうなると、やはり俺と同じ……そう考えるべきなのか?


「う〜ん……」


 ん……なんだこれ?


 彼女の持ち物を漁ることに抵抗はあったが、少しでも彼女に関する情報が欲しかった俺は、外套のポケットから見えていた茶封筒に手を伸ばした。


 手紙……?


「なんだこのデタラメな文字は?」


 気が引けるが、封書を開封して内容を確認してみると、見たこともない文字がびっしりと書かれていた。


「鑑定」


『鑑定』スキルを駆使して読み解こうと考えたが、結果は【手紙】としか表示されなかった。


「そりゃそうだよな」


 彼女が何者かわからない以上、ギルドに、地上に連れ帰ることはできない。

 もしも彼女が危険なモンスターだった場合、被害は甚大なものになってしまう。

 彼女が信頼できるエルフかどうかわかるまでは、ダンジョンから外に連れ出すわけにはいかなかった。


 ――ガサガサ!


「誰だッ!」


 茂みの奥に何かいる。

 そこからは、まるで周囲を黒く塗りつぶしたかのような、非常に不気味な気配が漂っていた。

 俺は無意識のうちに、スライムソードを手にしていた。


「!?」

「なんだ……てめぇ屍食鬼グールかぁ。けったいな服装してるから警戒しちまったじゃねぇかよ。……ったく」


 現れたのは、俺と同年代くらいの少年だった。

 襟足が長く、淡い紫色の髪を後ろで結んだ、細身の美少年だ。

 しかし、その少年は明らかに普通ではなかった。

 俺と同じように、悪魔のような漆黒の目をしていたのだ。


「ここはセルティアの森じゃねぇなぁ。おい、ここはどこだぁ? 素直に答えれば、そこの肉はてめぇにくれてやる」


 肉……このエルフのことか。

 俺がグールだから、この少女を食べようとしていたと思われたのか……ん?

  って、ちょっと待てっ!

 こいつ、なんで俺がグールだってわかったんだよ。

 今の俺はどこからどう見てもアンデッドマンだろ。


 ――鑑定!


 俺はすぐに『鑑定』スキルを発動させた。


 しかし、


【告:スキル『鑑定』はレジストされました】


「は?」


 鑑定できない。

 レジストってなんだよ!?


「おい、てめぇ……いま俺様を鑑定したかぁ?」

「!?」


 バレた!?

 なんなんだ、こいつ……。


「アンデッドのくそ虫がぁ、あんまし調子乗ってんじゃねぇぞ!」

「わ、悪かった。怒らせるつもりはなかったんだ」


 ここで敵対するのは得策ではないと判断し、とりあえず謝罪することにした。


「……まあいい。で、ここはどこだぁ?」

「どこって……【墳墓の迷宮】の七層だけど」

「迷宮……つーことはダンジョンかぁ。だが、墳墓の迷宮なんてダンジョンは聞いたこともねぇ。それにさっきのアレはなんだったんだぁ?」


 さっきのアレ……とは一体何のことだろう?


「あの、君の名前は?」

「……メフィストフェレスだぁ」

「メペスト……」

「メフィストフェレスだぁッ! 俺様の名前くらい一度で覚えやがれぇ」

「メ、フィスト……フェレスくんか」

「もっとちゃんと言えねぇのかぁ」

「横文字、慣れてなくて」


 めちゃくちゃ言いづらい。

 舌を噛んでしまいそうな名前だな。


 エルミアもメフィストフェレスも、明らかに日本人の名前ではない。

 メフィストフェレスくんの場合は、見た目がどちらかと言えば俺よりだし……。


 彼もやはりモンスターなのだろうか。

 だとしたら、俺と同じ元人間ってことになるのかな? 流暢な日本語を話すから、きっと日本生まれのアメリカ人とかなのだろう。


「あの、どこに?」

「てめぇには関係ねぇだろうがぁッ!」


 怒ってどこかに行ってしまった。

 それより、問題はこのエルフの少女だ。


「このままここに放置するわけにもいかないよな」


 状態異常(怪我)だし、放っておくと命を落としかねない。


「しょうがない」


 とりあえず、治療だけしておくか。

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