第20話 コボルトの巣
【小日向由佳の死骸を確認致しました。スキル:墓荒らしの簒奪者が発動されました】
「えっ!?」
まさかのアナウンスが脳内に鳴り響き、
嘘だろ!?
と心拍数が跳ね上がった(骨なのに)。
――
︰大丈夫か?
︰アンデッドマンがフリーズしてる
︰さすがに女の子のは……きついよな
︰女じゃなくてもきついって
︰トラウマレベルだよな
こんなのリスナーに、誰かに知られたら人として完全に終わってしまう。いや、もう人ではないんだけど……って、そんなことを言っている場合じゃない。とにかく、今はリスナーたちに悟られないよう、平常心を保つんだ。
「ふぅー……よし。――――げっ!?」
深呼吸してからステータス画面を開くと、スキル一覧に目が留まってしまう。見覚えのないスキル、『鑑定』が増えていたのだ。
これって……。
小日向由佳さんのスキルだったら最悪だ。どうか違ってくれと願ったのだけど、すぐに職業別能力解放画面と書かれた項目が視界に入る。これまでは種族別能力解放画面しかなかったのに、新たに職業別能力解放画面が追加されていたのだ。
マジかよ……。
試しに職業別能力解放画面をタップしてみると、【小日向由佳】と書かれたスキルツリーが表示されてしまった。
その瞬間、禁忌を犯すような感覚が漂い、背中を覆うように寒気が走った。
俺の中に彼女の一部が流れ込んでいる……スケルトンじゃなかったら吐いていたかもしれない。それくらい、気持ち悪かった。
︰マジで大丈夫か?
︰さすがに精神的にくるよな
︰休憩してもいいけど、警戒は怠るなよ
︰スライム探知は続けろよ
︰一旦外に引き返すのもありだぞ
落ち着くんだ。
今はこの五層をできるだけ早く探索して、四層に引き返す、それだけを考えろ。
「縦穴……?」
通路から約200メートル進んだ先に、謎の縦穴が現れた。コボルトの姿がないことを確認し、慎重にその方向に移動する。
「これで鉱山内を移動しているのか」
縦穴にしっかりと結ばれた縄が垂れ下がっており、その先に降りることのできる道が広がっていた。
︰探索者たちが通った跡だと思うぞ
︰黄昏の空が降りて行ったの配信で見た!
︰鉱山内は何層にも分かれているのかよ
︰まるで蟻の巣だな
スライム探知で安全を確認した後、俺も縄を伝って下降する決断をする。7メートルほど下りた先には、上と変わらぬ広がりを持つ洞窟が広がっていた。
「ん?」
足下に落ちていたヘアピンを拾い上げると、
︰あっ、みみちゃむのヘアピンだ!
リスナーたちが次々に反応している。
︰その辺りでみみちゃむはハイコボルトの群れに襲われたんだ!
︰近くにみみちゃむがいるかもしれない
︰アンデッドマン頼む! みみちゃむを探してくれ!
︰俺からも頼む!
層の上で放っていたスライムを解放し、新たなスライム探索隊を生成する。慎重かつ迅速に、俺は鉱山の第二層への探索を始めた。
「妙だな」
探索を開始してからすぐ、俺は違和感を覚えていた。
︰どうかしたか?
︰何かあったのか?
︰些細なことでも共有しろ
︰一人で悩むな
︰相談しろ
︰これだけの人間がいれば文殊の知恵だ
リスナーたちの意見に従い、俺はスライムを使って探知した結果を伝えることにした。
︰コボルトの数が少ない?
︰多いよりいいじゃん
︰少なすぎるのはおかしいってことだろ?
︰なんで?
︰知らん
「一層には遺体があった。ということは、コボルトたちは
︰それがなに?
︰探索者はこの層では死んでないってこと
︰みみちゃむはハイコボルトの群れに襲われたんだろ?
︰なら、その群れとみみちゃむはどこに行った?
︰みみちゃむだけなら兎も角、ハイコボルトまで消えている
︰確かにヤバいな
ここでは、少なくとも
ハイコボルトの群れを引き連れて更に深みに進んでいったと考えるべきだろう。最悪のケースとしては、下層にもハイコボルトが存在する場合だ。群れが増えれば、Bランクの探索者でさえ手に負えなくなる。
実際、【黄昏の空】のメンバーは全員がBランクで構成されている。
小日向由佳さんも例外ではない。
たとえ彼女が戦闘タイプの
その彼女が命を落としているとすれば、例えBランク探索者であっても、ハイコボルトの群れに襲われればただでは済まないということだ。
︰下に行くのか?
︰この下は地獄なのでは?
︰ハイコボルトの群れに遭遇したらアウトだぞ
︰これ……詰んでね?
︰縁起でもないことを言わないでください!
︰わりぃ……
︰いや、でもマジでやばいぞ
︰それでも帰るためには行くしかない
︰スライム探知で避けながら行けばワンチャンある!
︰だな
︰アンデッドマンは斥候としてはトップクラスだぜ
︰間違いない
︰ここを出られたらスカウト来るかもな
︰100%くる
︰すでに剣聖が目をつけてるっぽい
︰マ!?
︰Twitterで優秀な斥候見つけたって呟いてる
︰これアンデッドマンのことじゃね? って一部で言われてる
︰Xな
︰どっちでもいい
︰マジか!
︰すげぇ!!
︰つーか細かっ!
︰たぶんROM専の中に探索者かなりいるぞ
︰だな
︰そりゃ五層の放送となれば同業は観るだろ
︰ROM専って死語じゃね?ww
︰同接1万キター!!!
︰鬼バズりかましてますwww
今更考えても仕方がない。引き返すことができない以上、今は前に進むしかない。
先程同様、まずはスライムで安全を確かめてから下りることにしよう。
「なんだよ……あれ!」
周辺の様子を確認するためにスライムを移動させていると、開けた空間に驚きの光景が広がっていた。これまでの洞窟とはまったく異なり、まるで町工場のような施設がそこにはあった。
急いでその場まで移動し、肉眼で確認することにした。
「製鉄所……?」
暗く細い通路を抜けた先には、コボルトたちが働く製鉄所が広がっていた。
︰え、なにこれ!?
︰モンスターが武器を作ってる!?
︰モンスターってこんなことまでするの!?
︰文明があるってこと?
︰まるで人間やん
︰普通にやばくね?
︰Is that really the fifth floor of the dungeon?
︰遂に外人まできたww
︰It may not be the fifth floor. It is dangerous. Please return immediately
︰誰か訳して
︰そこは本当に五層かって聞いてる。
︰五層じゃない可能性がある。危険だから引き返せって言ってる
︰五層じゃない可能性ってなに?
︰いや、普通に五層だろw
︰何言ってんのww
︰Five years ago, the same phenomenon occurred in a Nevada dungeon. At that time, the 12th and 38th layers were connected.
︰日本語で書け!
︰無茶言うなww
︰わろた
︰↑5年前、ネバダ州のダンジョンでも同じ現象が起きた。この時、12層と38層は繋がっていました。
︰は?
︰どういうこと?
︰アメリカの探索者?
︰In the first place, a dungeon is something that was transported from another world by someone. However, there are rare dungeons where transfer fails. Those dungeons may still be connected to another world.
︰?
︰通訳はよ!
︰↑そもそもダンジョンとは何者かによって異世界から転送されてきたものである。ただし、まれに転送に失敗するダンジョンが存在する。そのダンジョンはまだ異世界と繋がっているのかもしれない。
︰すまん海外ニキ、わかるように言ってくれ
︰ネキかもしれんだろ!
︰そこ重要か?
︰重要!
︰右に同じく
︰I'm a woman
︰↑私は女です
︰さすがに読めるわww
︰馬鹿にされてて草
︰Dungeons that may still be connected to another world are unstable and may lead to different floors. This is thought to be the reason why dragons appeared in shallow layers before.
︰↑別の世界とつながっている可能性のあるダンジョンは不安定で、別のフロアにつながる可能性があります。これが、以前にドラゴンが浅い地層に現れた理由であると考えられています。
︰マジかよ
︰海外ネキ何者!?
つまり、ここは五層であって、五層ではないということか。
通りでモンスターの強さが突然跳ね上がったわけだ。
試しにここからコボルトを『鑑定』してみたのだが、なんとレベル35と表記された。
「35……か」
コボルトでレベル35前後だとするなら、ハイコボルトのレベルは……考えただけで恐ろしい。
海外ネキは進むなと言っているけど、そもそも帰れないんだよな。
「――って、ぷぎぇっ!?」
同接1.6万!?
登録者数も3000に増えている。
一体何がどうなっているんだよ。
「あっ!」
︰どうかした?
︰何かあったのか?
︰でかい声出すな!
︰コボルトに気づかれるぞ
︰( ̄b ̄)シーッ!
スライム探索隊に三層を探索させていたところ、派手な桃色の髪の少女が脳内に映し出された。
「みみちゃむだ!」
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