第18話 決断
:ソルジャーアントを一撃かよ!?
:コイツの敏捷どうなってんの?
:速すぎワロタ
:あれは疾風というスキルで素早さを上げているんです
:自分にバフも掛けれんのかよ!?
:マジでスキル何個持ってんだ?
下層に進むほどモンスターの強さが増していくのだが、俺のステータスも着実に上昇している。結果として、これまで通り倒すことができていた。
「これはさすがに持っていけないな」
ソルジャーアントの武器はギルドで売却可能だが、それをダンジョン内で持ち運ぶとなると難しい。収入も大切だが、最優先すべきは【女神のなみだ】を見つけること。昨日の探索で収入が得られたので、しばらくは雪菜の入院費には困らないだろう。
:捨てるのか?
:結構な額になるぞ?
:もったいねぇー
:やっぱりソロだとそうなるよな
リスナーの指摘通り、やはりソロだと何かと不便に感じる。これまでパーティメンバーを募集することもあったが、最弱王として知られていた俺と、パーティを組みたがる者などいなかった。ただし、今の俺の実力ならパーティを組むことは可能かもしれない。問題は、俺がスケルトンであるということだ。
パーティを組むとなると、ダンジョン内では常にメンバーと行動を共にすることになり、正体を隠し続けるのは難しいだろう。正体を明かせない限り、これからも俺はソロでダンジョンに挑むしかない。
「やっぱりないか……」
どれだけ探し回っても、目当てのものはどこにも見当たらない。
「どうしようかな」
時刻は午前0時を過ぎていた。これ以上探索を続けるとなると、五層に下りることになる。リスナー達からは、五層は危険だから行くなと止められている。
「……仕方ない、帰るか」
引き返そうと身をひるがえしたその時、病室から窓の外を見つめる妹の顔が浮かんだ。
『もう、ダンジョン……潜らなくてもいいよ?』
『わたし……少しでも長く、お兄ちゃんと一緒にいたい。もっとたくさんお喋りがしたいの。……ダメ?』
まるで走馬灯のように、この間の出来事が頭の中を駆けめぐる。
『――雪菜ちゃん、もう長くないと思うの。もう少し一緒にいてあげられない?』
「……っ」
看護師の言葉が頭の中を駆け抜けた途端、俺の足は止まり、自然と五層へ続く階段に体を向けていた。
四層になければ五層に行くしかない。行かないという選択肢がない以上、明日行くより今日行ったほうがいいに決まっている。
俺たちには時間がないのだ。
:おい、アンデッドマン!
:とまれ!
:まさか行く気ですか!?
:五層はヤバいって言っただろ!
:一旦止まれ!
:帰ってこれなくなるぞ!
:なんか答えろ!
五層へ続く階段手前で足を止めた俺は、カメラに、リスナーたちに向き合った。
「リスナー諸君、この先に進むなという君たちの意見はもっともだ。しかし、私はどうしても【女神のなみだ】を見つけなければならない。そのために、私は
:死ぬかもしれないぞ?
:Bランクすら帰ってこれないのに?
:マジで行くのか?
:アンデッドマンのランクは?
「……Fだ」
一瞬躊躇したが、新しいリスナーに対して誠実であるべきだと考え、素直に自分のランクを告げることにした。
:F……マジか
:尚更オススメしない
:死にに行くようなもんだぞ
:二窓で【黄昏の空】の配信見てるんだけど、マジで行くのやめた方がいいぞ
:同感。すでに死人が出てる
:【黄昏の空】死んだの!?
:全員じゃない
:二人死んだっぽい
:響も必死に逃げてる
:引き返すべきだろ!
:帰れねぇんだよ!
:どういうこと?
:四層に引き返すことすらできなくなってる
:???
:解説頼む
:観に行け
:階段下りた先で空間がねじ曲がっていて、四層に上がるための階段が消える
:は?
:マ?
:それどうやって帰るの?
:響いわく、行きと帰りで階段の場所が違うらしい
:四層に戻るためには、四層に繋がる階段を探さなくちゃいけない
五層はこれまでの層とは異なり、ダンジョンそのものの構造が複雑になっているとの情報がある。加えて、通常ではありえないモンスターが五層に存在しているという。
:五層にいるのはコボルトキングだ!
「!?」
危険度Aに分類される魔物だ。以前、カナダ最強とされたAクラスのチームが38層で討伐したモンスターがコボルトキングだった。しかし、その勝利には高い代償が伴い、数名の有望な探索者が犠牲になった。ダンジョン協会の発表によれば、コボルトキングの推定レベルは驚異の60だった。
探索者のランクをレベル別に分けると、以下のようになる。
Gランク︰レベル1
Fランク:レベル1〜10
Eランク:レベル11〜20
Dランク:レベル21〜30
Cランク:レベル31〜40
Bランク:レベル41〜50
Aランク:レベル51〜60
Sランク:レベル61〜∞
レベルアップ時のステータス上昇値は人によって異なり、以前の俺のように極端に悪い上昇率や、逆に優れた上昇率を持つ者も存在する。ダンジョン協会が発表しているのはあくまで基準値であり、個々の探索者の成長には個別の要因が影響している。
「コボルトキングか……確かにヤバいな」
現在の俺のレベルが8なので、ダンジョン協会の基準ではFランク相当の
【不死川宗介】
レベル:8/10
HP:242/268
MP:201/251
SP:88
経験値:3950/5760
種族:スケルトン
腕力:98
耐久力:102
魔力:103
敏捷性:111
知性:88
運:67
スキル:『ボーンアタック』『ボーンブーメラン』『スライム生成』『強度調整』『操作範囲拡大』『素早い逃走』『造形技術』『性質変化』『擬態』『探知』『スライムカプセル』『ためる』『疾風』『粘糸』――etc
魔法:なし
墓荒らしの簒奪者:貴方は死者から力を奪い取る
強さは以前と比べものにならないほど向上しているが、相手がコボルトキングとなると、このステータスで自分がどこまで戦えるかは不透明だ。特にAランク探索者の平均ステータスが分からないため、判断に迷ってしまう。
コメント欄が荒れている。引き返すべきだというリスナーが多い。
しかし、【女神のなみだ】を手に入れたいなら進むべきだと主張するリスナーも一定数いる。個人的には、その意見に同意だ。このような浅い層に、なぜ上位種のコボルトキングが現れるのかは分からないが、通常存在しないモンスターがいるということは、レアアイテムが見つかる可能性もあるということだ。
命を懸けるだけの価値は、十二分にあった。
:本当に行くんですか?
:気持ちはわかるけど……
:死んじまったら元も子もねぇだろ?
:考え直すつもりはないのか?
:【女神のなみだ】があるとは限らないんだぞ
:私たちが何を言っても、無駄のようだな
危険は承知している。
それでも可能性があるのなら、賭けずにはいられなかった。
「ひどい配信になるかもしれない。観るのをやめる人は、今のうちに頼む」
:そんな奴いねぇよ
:俺たちを見くびんな
:最後までついてくぜ
:コメントはできる限り見ろ!
:全力でサポートします!
:お前を信じる!
誰一人として、視聴をやめるリスナーはいなかった。
「!」
それどころか、40、46……51と、どんどん視聴者数が増えていく。
「なんで?」
:俺たちにできることは応援くらいだからな
:未知に挑まんとする勇敢な探索者に敬意を!
:皆さん、SNSでこのチャンネルのことを発信してくれているみたいです
:五層に行くと聞いて観に来ました!
:頑張ってください!
:誰でもいい、みみちゃむを助けてくれ!
:彼女はきっと生きている!
:黄昏の空でも死にかけてるから無理ww
:すでに死んでるに一票www
:死ぬところ観に来ましたw
:タイトルにグロ注意書いとけww
:自殺配信と聞いて来ました!
:わくわく
:探索者なんて調子乗ってるヤンキーと同じだから死んでくれて構いませーんww
:何か探索者に恨みでもあるん?
:人が増えるとアンチは付きものだから
:アンチ許さん
:暇人まで誘導しちまった……すまん
:気にすんな
:今はマジでアンチやめろ
:ブロックするので大丈夫です!
:モデレーターいたのか!
:いるぜ!
:さすが一日古参!
:みんな、アンデッドマンはあんまり知識がないんだ。全力アドバイス頼む!
:任せろ!
今日ほどリスナーが頼もしいと感じたことはない。配信者になって本当に良かった。
「みんな、ありがとう!」
リスナーたちに礼を言い、俺は五層へと足を踏み入れた。
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