第13話 初配信【アンデッドマン】

「やっぱり中も人が多いんだな」


 予想通り、新層へ繋がる通路が解放されたことで、【墳墓の迷宮】には多くの探索者シーカーが押し寄せていた。


「とりあえず、人のいないエリアまで移動するか」


 新層に繋がる通路は二層の東側から行くことができるようになっていた。したがって西側エリアには相変わらず人の気配はなかった。


「この辺りでいいかな?」


 俺はスキル『スライム生成』で生み出したスライムを駆使し、昨夜一晩かけて考えた【アンデッドマンスーツ】を作製する。スキル『造形技術』のおかげで、イメージ通りにスライムが変形してくれる。形を整えたら、スキル『特質変化』で素材を変化させて完璧に仕上げていく。スーツが完成したら、次は最も重要なフルフェイスヘルメットの製作に取り掛かる。手順は先程と同じだ。


「できた!」


『特質変化』でスライムを鏡に変えてみたら、成功したので姿見を使って最終チェックを行う。


 ダークヒーローをイメージしたスーツに、戦隊物のヒーローを彷彿とさせるヘルメット。お気に入りポイントは正義の味方には欠かせないマントだ。

 どこからどう見ても、これが不死川宗介だとは誰も思わないだろう。


「とう! 私は正義の使者、アンデッドマン!」


 やはりヒーローにはかっこいい決めポーズが必要だ。


「こっちの方がいいかな? いや、もう少し手の位置が上の方がかっこいよな」


 うん、完璧だ。

 本格的に探索を始める前に、今あるSPを使って新しいスキルを習得しておくか。


 俺は新たに4つのスキルを習得することに成功した。


 スキル『ボーンブーメラン』

 効果:骨を生み出し、対象に投擲します。


 スキル『ためる』

 効果:『ためる』使用すると攻撃力(小)が上がります。※ためている間は3秒間動けなくなります。


 スキル『探知』

 効果:スライムの周囲数メートルの範囲を認識し、情報を得ることが可能となります。これにより、敵や目標の位置を正確に把握できます。


 スキル『スライムカプセル』

 効果:スライムの中に一定時間留まることで、怪我の治療を行います。※軽中症のみ治療可能となります。



 残りSPが4になってしまったが、新たな階層に挑むための準備を怠るわけにはいかなかった。


「【アンデッドマン】としての初配信か、少し緊張するな」


 俺は雪菜の病院に向かう前に購入しておいた自動型追尾カメラを起動させ、新しく作っておいたチャンネルからLIVE配信を行う。

 配信画面ライブウィンドウにはまだコメントが0件。視聴数も0人と表示されている。


「ここから登録者を増やすのは骨が折れるな」


 前回の【不死みんチャンネル】は2年かけても登録者数が数十人と、まったく伸びなかった。配信を行うたびに観に来てくれるリスナーが6人もいたことが、そもそもありえないようなことだった。


 サマーさん、黒い天使さん、戦隊マニアさん、熱海の男さん、サザエの壺焼きさん、華の独身貴族さん。

【不死みん】時代のリスナー達のことを思い出すと、少しだけ切なくなる。存在しないはずの心臓が、チクリと痛んだような気がした。


 あれ?


 まだ一度も配信していないのに、【アンデッドマンチャンネル】の登録者数が6人になっていた。

 かっこいいチャンネル名に釣られて登録したのだろうかと思ったその時、視聴数が突然増えた。


 :おっ! 通知が来たから来てみたけど、マジで【アンデッドマン】配信してる!

 :心機一転というやつですね

 :その恰好はなんだ? まだフードにサングラスのほうがマシだぞ

 :何かのコスプレじゃねえ? 知ってるやついる?

 :知らん

 :くそダサくて死ぬww

 :まあとにかく元気そうでよかったわ

 :サザエの壺焼きさんは相変わらずの暴言厨ですね

 :あれが彼なりの応援スタイルなんだよ

 :だな

 :それより我々の楽しみが帰ってきましたね

 :また不屈のド根性、見せてくれよ!


「……なんで?」


 コメント欄には、【不死みん】時代のリスナー達の名前があった。


 :皆さん、不死みんさんのX(Twitter)から流れてきたみたいですよ

 :そうそう、アンデッドマンの正体が不死みんだなんて思ってないから安心してくれ

 :いや、こいつ絶対不死みんだろ

 :空気読めよおっさん!

 :相変わらずサザエの壺焼きさんはクラッシャーですね

 :もうこいつブロックでいいんじゃね?

 :冗談だってマジになんなよ。

 :【不死みんチャンネル】が復活するまでの暇つぶしで見てやる。感謝しろ


 間違いない。この人のコメ欄で会話する感じ、【不死みん】時代のリスナー達だ。

【不死みん】のXから、おすすめチャンネルとしてポストしておいて正解だった。


「そうか! あの人気配信者【不死みん】さんが私のチャンネルを宣伝してくれていたのか」


 :不死みんが人気配信者だってww

 :それはさすがに草生える

 :キャラ作る感じか?

 :これからその喋り方でいくんですか? 慣れない事をすると大変ではありませんか?

 :好きにやらせてやれ


「……///」


 人気配信者はさすがに盛りすぎたかな。ちょっと恥ずかしい。


 :あー、言ったあとに後悔するパターンのやつか

 :ヘルメット越しでも赤面してるのがわかって草

 :羞恥心あるのにその恰好できるのがww

 :彼は厨二病を発症しましたw

 :今まで違ったのがむしろ奇跡では?

 :おい、やめたれwww

 :つーか、そのくそダサ衣装どこで買った?

 :ドンキだろ

 :激安通販じゃねぇ?

 :それにしてはしっかりした作りのように見えますが……

 :謎の高級感あるよな

 :今年のコミケそれで参戦よろ

 :もうやめてあげてください


 そんなにダサいかな? きっとこの人達はセンスがないんだろうな、可哀想に。


「これは私の自作だ!」


 :まさかの自作www

 :力作過ぎて草

 :意外なスキル持ちだったw

 :頭おかしくて好き

 :そんな暇あるなら勉強しろ!

 :ドンマイ、です


 何がドンマイなのかわからない。


「えーと、とりあえず今日の配信では新層に行ってみようと思います」


 まずは配信の趣旨を伝える。配信の基本だ。一応配信歴2年のベテランなので、その辺は抜かりない。


 :早くもキャラ崩壊に草

 :アンデッドマンさん、口調が戻っていますよ

 :一言で最弱感出せるのすげぇわ

 :新層なんて行って大丈夫なのか?

 :他の探索者の配信をちらっと見たんだが、出現するモンスターがかなり強くなっているみたいだぞ。


「そうなのか?」


 :探索者なのに下調べなしか? そんな心構えだから古文で赤点を取るんだ

 :これまでの【墳墓の迷宮】とは一味違うらしいぞ

 :でもそれって5層からじゃなかったです?

 :アンデッドマン古文で赤点だったの草

 :大丈夫、私も英語は赤点でした

 :フォローになってねぇww

 :3層も出るモンスター変わってるぞ。5層程強くはないと思うけど。ちな俺は赤点取ったことない☆

 :問題はゴブリン一匹に苦戦するアンデッドマンが3層でやっていけるのかってこと


 相変わらず遠慮がないな。

 というか、なんで俺が古文で赤点取ったこと知っているんだよ。


「私にかかればゴブリン程度、手を使わずとも倒せるのだよ」


 :虚偽申告乙

 :アンデッドマンには悪いが3層はまだ早い

 :行くならせめてゴブリンを一撃で屠れるようになってからにしろ

 :結構な数の未帰還者が出ているようですから、私も賛成しかねます

 :それでも行くというなら、まずは私の試験を受けてもらう。今から30分以内にゴブリン、スケルトン、スライム、何れか5体を撃破せよ。できなければ3層に向かうのは禁止だ。

 :華の独身貴族に賛成!

 :俺っちも賛成だな

 :異議なし

 :流石に死ぬところは見たくねぇわ。独身に一票

 :ごめんなさい。私も賛成します


 なぜリスナーに配信内容を決められなければならないのかという疑問は残るが、ここで無視してしまえばせっかくの登録者を失ってしまうかもしれない。それだけは避けたかった。

 面倒だが仕方ないか……。


「了解した。では、私の実力を諸君に披露しようではないか!」

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