第8話 決断
「MP0って……さっきまでMAX41あったはずだろ!」
まさかと思い、ステータスを確認したところ、休息してMPを貯めたにも関わらず、30分と経たずに0になっていた。
「どうして……?」
考えられる可能性は一つ。
スキル『擬態』のMP消費率が極端に悪いということだ。
スキル『性質変化』は発動に1MPを消費するが、一度性質を変えればその後はMPを必要としない。それに対して、スキル『強度調整』は1分間の使用で1MPを消費する。
つまり、スライムの強度を5分間維持するためには5MPが必要となる。
スキル『擬態』も『強度調整』同様、能力を維持させるためにはMPが必要となるのだろう。
問題は、そのMPが予想以上に早く枯渇してしまったということ。
俺がスキル『擬態』を発動してから解除されるまでの時間はおおよそ15分。枯渇するにしてもあまりにも早すぎる。
初めにスケルトンボディを包み込むため、50リットルのスライムを生成した。ここで消費したMPは5だ。この時点で俺の残りMPは36。その後、スキル『擬態』を発動して、更に10リットルのスライムを生成し、『性質変化』で服を製作した。
『擬態』分を除いたMP消費量は7だ。
つまり、34MPがたったの15分程で消費された計算になる。
「これは検証する必要があるな」
もしもダンジョンの外で擬態化が解けてしまったら……洒落にならない。
◆◆◆
あれから、何度か擬態化を試して検証した結果、スキル『擬態』に必要なMPを算出することができた。このスキルは約30秒ほどで1MPを消費し、なおかつ発動中はMPが回復しないことが判明した。正確な時間を計りたかったが、スマホも時計もなかったため、これが精一杯だった。
「まいったな」
36MPではMAX18分しか人間の姿に戻ることができない。これではどうにも短すぎる。18分では自宅に帰ることすら不可能だ。
「さすがに18分は短すぎるよな」
仮にコンビニのトイレからコンビニのトイレに移動しながら進むとしても、都合よく18分以内に次のコンビニにたどり着けるとは限らない。しかも、到着しても先客がいれば即ゲームオーバー。人前で白骨化してしまうことになる。
そうなれば、コンビニにたむろしている不良たちに写真や動画を撮られ、SNSで晒される未来が待っている。コンビニでトイレ待ちをする世にも奇妙なスケルトンとして、またたく間に拡散されてしまうだろう。
すでに一部の間では最弱の
「やっぱりスケルトンはヤバイよな」
モンスターだし、絶対退治されるよな。
仮に人間であることを信じてもらえたとしても、最悪な未来しか想像できない。
政府の秘密機関に捕まり、人体実験を繰り返された末、世の摂理に反しているとされ、最終的に浄化される――そういう運命が待ち受けているんだ。
「でもなぁ……」
MPを増やすにしても、相当な時間がかかるんだよな。
MPを41にするのにだって、相当な労力が必要だった。正確な時間は計っていないけど、おそらくスケルトンになってから丸1日は経っていると思う。
ここから更に1日かけてMPを倍の82に増やせたとしても、擬態化を維持できるのはせいぜい40分程度。
家に帰る分には問題ないかもしれないけど、普段の生活はとてもじゃないけど送れそうにない。
今はうだうだ考えててもしょうがない。
「やるしかないよな」
◆◆◆
MP最大値を上げるため、モンスターを倒し続けていたんだが、ここで新たな事実が判明した。
『墓荒らしの簒奪者』によるステータス上昇値が、どんどん悪くなっているのだ。
以前は大きな上昇があったステータス値も、今ではゴブリンを討伐しても、『HP』『MP』『腕力』『耐久力』『魔力』『敏捷性』『知性』『運』これらの中から1しか上昇しなくなっていた。場合によっては、モンスターを討伐してもステータスに変動が見られないことも増えている。
「やっぱりレベルが離れ過ぎたせいなのかな?」
【墳墓の迷宮】に潜むモンスターは通常、レベル3から4の範囲に収束しており、まれにレベル5が現れるとされている。一方で、疲れ知らずで寝る必要もなかった俺がモンスターを狩り続けた結果、非常に速いペースでレベル6に到達してしまっていた。
【不死川宗介】
レベル:6/10
HP:96/96
MP:48/78
SP:29
経験値:326/1440
種族:スケルトン
腕力:39
耐久力:42
魔力:40
敏捷性:38
知性:39
運:22
スキル:『ボーンアタック』『スライム生成』『強度調整』『操作範囲拡大』『素早い逃走』『造形技術』『性質変化』『擬態』
魔法:なし
墓荒らしの簒奪者:貴方は死者から力を奪い取る
信じられないスピードでレベルが上昇し、ステータス値も驚異的に増加しているが、『墓荒らしの簒奪者』の効果が薄れている現実に頭を抱えたくなる。
他のステータス値が上昇しなくても問題はないが、MP値が上昇しなくなるのは困る。
長時間の擬態化ができないとなれば、妹の病院はもちろん、高校にだって行けなくなってしまう。
1時間と擬態化できないようでは、到底授業なんて受けられない。このままだと留年か退学のどちらかを選ばざるを得ない。
「他に何か手はないのか……」
もしもの場合を想定し、俺はモンスターを討伐しながら計画を練っていた。
そして思いついた方法が、これだ。
オーバーサイズのパーカーに目深くかぶったフード、そしてガリガリの骨体型を隠すダウン。太めのパンツと手袋も用意し、サングラスとマスクで顔を隠す。首元はネックウォーマーで覆い、念のためカツラも装着しておく。
フードから前髪が見えていなかったらおかしいもんな。
それにしたってめちゃくちゃ怪しい――が、骨よりかはずっとマシだ。
ただし、問題は今が5月だということ。
「いつまでもダンジョンに引きこもっているわけにもいかないし、覚悟を決めるか」
俺は意を決して、【墳墓の迷宮】から出ることにした。
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