第6話 スキルの使い方

【新スキル:『強度調整』を習得しました】


 SP3を消費して、新たなスキルを手に入れた瞬間、再びあの機械音が脳内に響いた。


「なるほど、これが女神の声なのか」


 さっきは気づかなかったが、スキルを獲得すると神の声が聞こえるという話を聞いたことがある。世界中でダンジョンが出現して以来、女神信仰者が急増したのもこれに起因しているらしい。


「とうとう俺にも聞こえるようになったのか」


 嫌というわけではないが、これまで散々無視されてきたので、少し今更感はある。

 それに、スケルトンになる前にも聞こえたような……。


「にしても、スケルトンになってから女神の声が聞こえるとか、ある意味すごい皮肉だよな」


 噂では女神の声はハープのような美声だと聞いていたが、実際には不気味な機械音声にしか聞こえなかった。


「おっ」


 スキルツリーにも新たに習得可能なスキルが表示されていた。

 『操作範囲拡大』と『造形技術』。

 習得に必要なSPはともに5だが、問題は枝分かれしているということ。ここから何通りにも分かれていくとなると、習得するスキルの選択はかなり慎重に行うべきだろう。


「先のことはその時に考えればいいか」


 それよりも、今はスキル『強度調整』を試してみよう。


「うーん、なんか微妙だよな」


 『強度調整』を習得したことで、確かにスライムの硬さを自在に変えられるようになったのだが、出来上がった剣はひどく不格好。まるで小学生が作った粘土細工のようだ。

 これがゲームの世界なら、いびつな剣として安値で取引されていることだろう。

 売れないと思うが……。


「まあ、使えなくはないんだよな」


 試しにその場で振ってみた。

 鉄の剣と違って、スライムソードは軽く、俺の腕力5でも簡単に振れた。伸縮自在のこの剣は鞭のようにも扱えるが、俺から2メートル離れると、途端に溶けた飴のようになってしまう。


 切り離したスライムを俺から遠ざけてみるが、やはり2メートルほど離れたところで動きを止める。

 剣として使う分には問題ないが、色々と不便なことに変わりはない。


「さすがに岩は斬れないか」


 試しに岩を斬ってみたが、スキル『強度調整』で強度が増したとはいえ、さすがに刃物のようにはいかないようだ。どちらかと言うと木刀に近く、見た目もすごくかっこ悪い。


 しかし、それらを除けば、伸縮自在の剣は俺の理想を具現化したような武器だった。ちなみに『強度調整』は一分間の使用で1MPを消費する。

 今の俺のMPだと、長期戦になれば相当不利になるだろう。

 幸い、ここは【墳墓の迷宮】なので、その心配はなさそうだ。


「さてと、まずはレベル上げだな」


 新たに現れた通路の奥も気になるが、またドラゴンのような化け物と出くわさない保証もない。今は慣れ親しんだダンジョン内で、少しでもモンスターを倒して力をつけるとしよう。

 俺の目標はただ一つ、進化なのだ。

 今は人間に近づくことを、第一に考えねば。




 ◆◆◆




【スケルトンの死骸を確認致しました。スキル:墓荒らしの簒奪者が発動されました】


 やはりモンスターを倒すたびに、俺は少しずつ強くなっていくようだ。

 あれから数体のモンスター、スケルトンやゴブリンなどを倒したが、倒した後に、最初のときのようにアナウンスが脳内に流れ、ステータス値が変動していた。


 これまでステータス値が変動しても、まったく違いを感じなかったが、今は体の動きが明らかに向上している。

 成長している。そう実感できることが何よりも嬉しかった。



 そして、ここまでモンスターを倒してきて、新たに判明したことが幾つかある。


 1、ステータスの上昇値はランダムである可能性が高い。

 スケルトンを倒して『HP』が5上がったケースと、スケルトンを倒しても『HP』が上がらなかったケースがある。

 このことから、『墓荒らしの簒奪者』によって死者から奪える力には規則性はない。


 2、スキル&スキルツリーの獲得もランダムである可能性が高い。

 ゴブリンを倒した際、新たなスキル&スキルツリーを得られるものとばかりに思っていたのだが、残念ながらどちらも増えていなかった。

 しかし、2体目を倒した際にはスキルが、3体目を倒した際にはゴブリン専用スキルツリーが増えていた。


 はっきりとは分からないが、この出来事からも『墓荒らしの簒奪者』で得られる力はランダムである可能性がある。



  スキル:『素早い逃走』

 効果:危険を感じると敏捷性が(小)向上します。※MP消費0。


 これは2体目のゴブリンを倒した際に習得したスキルなのだが、『ボーンアタック』や『スライム生成』とは異なりMPを必要としない。いわゆるパシッブスキルというやつだ。



 モンスターとの戦闘を繰り返し、ダンジョン内を歩きまわっても、この体は一切の疲労を感じない。 空腹や眠気もない。

 やはり、俺がスケルトンだからだろうか。

 しばらくは地上に上がれないので有り難いが、複雑な感情であることに変わらない。


 俺は『墓荒らしの簒奪者』で得た『SP』とレベルアップで得た『SP』を活かし、新たなスキルの習得に踏み切ることにした。

 俺がスキルツリーを辿り、習得したスキルは以下の3つだ。



『操作範囲拡大』『造形技術』『性質変化』。



 以下はスキルの詳細である。


 スキル:『操作範囲拡大』

 効果:スライム生成によって生成したスライムの操作範囲が拡大します。※MP消費0。


 スキル:『造形技術』

 効果:スライム創作が苦手な方でも、イメージに近いものが作れるようになります。※MP消費0。


 スキル:『性質変化』

 効果:透明化、鉄化など、スライムの性質を変化することが可能となります。※毒などは不可。



 スキル習得には相応に高いSPが必要だった。

『操作範囲拡大』と『造形技術』はともにSP5を要し、『造形技術』から派生した『性質変化』はなんとSPが7も必要だった。


 残りSPがわずか4になってしまったが、強くなるためにはこれが必要な経費だと割り切るしかない。

 本当はゴブリンのスキルツリーから『ためる』を習得したかったが、今は我慢することにした。


 というのも、スキル『性質変化』から派生したスキルの中に、俺は『擬態』というスキルを発見していた。


 もしもこれが俺の考えているスキルなら、できるかわからない進化を目指すよりもずっと現実的だと思う。

 そういった理由から、SP3を消費して『ためる』を習得するのは一旦保留にする。

 ちなみに、『操作範囲拡大』から派生したスキルは『索敵』だった。ダンジョンにいると探索者シーカーに出くわす危険もあるので、できればこちらも習得したいと考えている。


 両方を習得するには、合計で14SPが必要になる。


 残りSPが4なので、あと10SP。モンスターを倒しても確実にSPが手に入るわけではないので、かなりキツい。

 とはいえ、レベルアップして、なおかつ運が良くなければSPが手に入らない探索者シーカーとは違い、俺には『墓荒らしの簒奪者』がある。


 頑張れば、今日中に習得することも夢ではない。


 ちなみに、現在のステータスはこうなっている。



【不死川宗介】

 レベル:3/10

 HP:41/46

 MP:19/26

 SP:4

 経験値:5/180


 種族:スケルトン

 腕力:12

 耐久力:14

 魔力:11

 敏捷性:10

 知性:12

 運:4

 スキル:『ボーンアタック』『スライム生成』『強度調整』『素早い逃走』『操作範囲拡大』『造形技術』『性質変化』

 魔法:なし


 唯一才能ユニーク・タレント

 墓荒らしの簒奪者:貴方は死者から力を奪い取る。



 6体のモンスターを討伐したのに、未だにレベル3というのは厳しい。レベルが上がるごとに必要な経験値が増えていくのは仕方がないが、それにしても辛い。


 と思ったが、意外とそうでもないかもしれない。


 『操作範囲拡大』『造形技術』そして『性質変化』、この3つのスキルを巧みに組み合わせ、遠くにひそむモンスターを安全な地点から撃破することに成功したのだ。


 手順は極めてシンプル。

 まず、『スライム生成』で生成したスライムを、『造形技術』を駆使して大きな釘に変え、次に『強度調整』でその形を保ちつつ、『性質変化』を駆使して鉄へと変化させる。最後は『操作範囲拡大』を巧みに使って遠くの標的に投げつけるだけ。


 その際、


 ――当たれ!


 と、強く念じることが重要だ。


 あとは『操作範囲拡大』のスキルが自動的に調整してくれるので、ノーコンでも鉄の釘をゴブリンの頭部に命中させることができる。

 ちなみに『操作範囲拡大』で操作可能となったスライムの範囲は、大体30メートルほどだった。


 スキルは組み合わせと使い方次第で、その強さが無限に変化する。

 改めて、スキルを所有していなかった今までの自分が不憫で仕方ない。


「こりゃ便利でいいや」


 相手が低レベルということもあり、一撃でサクサク倒すことができた。しかも『性質変化』と『操作範囲拡大』はMPを消費しないので、わずかMP消費3でこれが使えるのだ。

 スキル『ボーンアタック』よりも消費MPが少なく、しかも同時に安全までも確保できるという優れもの。


 誰だよ、スライム(緑色)が最弱モンスターだって言ったやつ。

 むしろ最強とさえ思った。


「よし、ガンガン倒してSPを稼ぐぞ!」

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