第3話
◇◇◇
王家の者として夜会の会場にいたライノ様。
彼は、粗野さを際立てる短髪に焼けた肌で、長身と言われるリュド様より背が高く、王子という身分に関わらず騎士団に交じり剣技の訓練をするからか、やけに厚みのある身体つきでした。
そんな彼が、私をかばうように前に立ちました。
「お前ッッ───」
リュド様の叱責の声が響きました。しかしそれを遮るようにライノ様が声を上げました。
「まずはこの場に来られた、多くの方に謝罪をしたい。
年に一度、それも卒業記念というめでたきハレの日の舞台で、この様なブサイクな茶番を見せられて、皆様もさぞや困惑されていることだろう。
しかし、彼ら学生最後の一日に起こったイベントの一つとして、この場の、私達の成り行きを、どうか静かに見守ってくだされば幸いだ」
ライノ様が周囲をぐるりと見渡して、堂々と言ってみせた。
彼の声はリュド様のそれとは異なり、敵意一つ感じさせず、それどころかそれまでの場にそぐわない穏やかなものでありました。
そのおかげか、先程までのこの場にいる貴族達の間に流れた『王子は何をしている!』というある種異様な空気が霧散したのを感じた。
私はライノ様から少し遅れて、周囲を見渡しました。
王様が腕を組んで愉快そうに笑っており、王妃様が厳しく目を細めておられます。その意図は恐らく───
「邪魔をするなライノ! ここはお前が出てくる場ではない! この場は私とクラリッサ、そして勇気ある証人達とで、悪女フランチェスカの罪を詳らかにし、断罪する場なのだ!!」
「ならば何も間違いではないな」
「何ィ?!」
「フランチェスカ嬢の罪を詳らかにするんだろ?
手伝ってやるよリュド兄さん。
まずは、そこのお前───」
ライノ様が指したのは、証人の一人である女性───卒業生の一人───でした。
「お前はさっきフランチェスカ嬢が、グランジェ令嬢の頬を打ったのを見たと言ったな」
彼に問われた女性は、自分が矢面に立つとは思ってなかったのか、青い顔をされていました。
「は、はい、私はフランチェスカ様がクラリッサ様の頬を打つのを目撃しました」
目撃者の女性の言葉に、ライノ様が溜め息を
「先に言っておくべきだったな。フェアでなかった。
この場が本来であればどういったものかわかるか?
王家主導で行われる卒業を祝う夜会だ。父上も母上もいらっしゃる王国を代表するイベントの一つとも言える。
私の言っていることの意味がわかるか?
そのような大事な場で、王や王妃を前にして、万が一にお前達の
先程までは、リュド王子の後ろ盾を得て、意気揚々と私を責め立てていた証人達の表情から一斉に色が抜け始めました。
「お前達自身が罪に問われるのみならず、お前達の家にも累が及ぶだろう。だってそうだろう? 大事な晴れ舞台を台無しにし、一人の女性を吊し上げ、王族を前にして平気な顔をして嘘を吐くということはそういうことだ」
「黙れ!! 私達の行いに一片たりとも瑕疵はない!!
王族に嫁ぐ者が、か弱き女性を虐める───その行いこそが邪悪であり、それを咎めることこそ正義だろう!!
お前に咎められるいわれはない!!」
ライノ様の言葉にリュド様が激昂されました。
しかし───
「リュドよ、」
王様がリュド様へと声を掛けられました。
「は、はっ! 父上どうされましたか!」
「しばらくはライノの好きなようにやらせてやれ」
「し、しかし───」
「ライノの好きにさせて、その結果、リュド───お前が正しいことが証明できれば、ライノにはそれ相応の罰を与える。それでいいだろう? それとも何か? この私の言うことが聞けぬというのか?」
「そ、そんな! 滅相もありません!!」
王様の言葉から圧を感じたのか、リュド様が頭を下げ、
「……この場はライノに任せます」
前言を撤回されたのでした。
「というわけで───」
再び場の主役がライノ様に移りました。
「俺が、先程の続きをさせてもらう。
ここから先は虚偽は絶対に許さん。
いいか? お前達の証言は王族が言質をとるのだ。
この場での発言は何があろうとも、精査し、真実を突き止める。何があっても絶対にだ」
ライノ様が証言者を見渡しました。
その様子は彼ら一人一人に語りかけるようでした。
「これは最後通告だ。これまで、虚偽の報告を挙げた者がいたのなら、これからする俺の質問に対し、真実を告げろ。そうすれば、お前達がさきほど嘘を
だから、とライノ様は続けた。
「もう一度、お前に問う」
先程質問された女生徒が、跳ね上がるようにビクリと震え上がりました。
「お前は見たんだな? フランチェスカ嬢が、グランジェ令嬢の頬を打ったのを」
一瞬逡巡した後、後には引けぬと判断したのか、彼女は頷きました。
「わかった……なら、お前はどうだ? お前は言ったな。フランチェスカ嬢が、グランジェ令嬢のドレスを切り裂いた場面を目撃したと」
ライノ様が証言者に次々とお声がけしましたが、誰一人として、自身の発言が虚偽であったと認められませんでした。
彼らには彼らで、ライノ様より王位継承権が高く次期国王と目されるリュド様が味方であられるという思惑があったことと、後からどれだけ精査したところで自分達が虚偽の報告をしたという証拠なぞ出てくるわけがない、という確信があったのでしょう。
「そうか……それがお前達の決断なのだな……」
ぽつりと漏らしたライノ様の言葉には、彼らに対する同情の色が込められておりました。そして彼は王様と王妃様に顔を向けると───
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