幕章

追憶の焦点

完章 別れの刻


 日本の情報番組は、モナクライナ皇族来日のことを連日取り上げていたが、皇女の暗殺、失踪、皇族のスキャンダルが公になり、世間を騒がせていた。モナクライナ大使館周辺にはマスコミ関係者が押し寄せて、大使館職員は対応に追われていたが…


 新室にむろの行きつけの喫茶店

 新室と藍井あおいは喫茶店に設置されたテレビで、モナクライナ皇族関連のニュース番組を観ていた。

「ひとまず一件落着かな?」

「主犯の皇族夫婦は強制送還後、モナクライナの法律で裁かれる、大使を含めて強制収容所は免れないだろう」

「今回の騒ぎで彼女の戴冠式に影響は?」

「特に問題は…国民はミーシャ皇女のことを信用しているからね」

「僕の役目は終わりだ、やっと重労働から解放される」

「助かったよ、お陰で国際指名手配犯もお縄についた…こっちに戻ってくる気はないか?」

「ごめんだね、今回限りだ」

 新室は藍井の誘いを断り、穏やかな表情で注文したコーヒーを口に含んだ。ミーシャの暗殺事件は新室たちの活躍で解決するのだが…


 実は、ミーシャには一つ秘密があった。彼女は優美ゆうみの実娘だが現皇帝と血は繋がっていなかった。

 ミーシャは母の死後、衝撃の事実を知った。そして、優美がミーシャに宛てた手紙が見つかり、彼女は自身の父親の正体を知ることになる。


 ミーシャの実父は新室であった。彼女は来日時が絶好の機会だと思い、生みの父親である新室と会うことを決意したが…


 結局、ミーシャは新室との父娘関係のことを言いだせなかった。ただ、新室のミーシャとの接し方は時折、異様さが見受けられる。彼は薄々感づいていたのか、それはベールに包まれることであった。


 ミーシャがモナクライナ女皇に即位することで、新室にとって、彼女は遠い存在になってしまったが…



「…本日、モナクライナ皇族は表敬訪問・視察を終えて帰国いたします、帰国後、ミーシャ皇女はモナクライナ国初の女皇に即位します…」


 モナクライナ皇族帰国当日。空港にはモナクライナ皇族を見送ろうと、大勢の日本国民が訪れていた。そんな中…


「…!!」

 ミーシャは搭乗ゲートで妙な視線を感じた。彼女はそっと視線を合わせると、そこには新室の姿があった。彼女は突然のことで感極まった。

「…どうした?」

「いえ…何も…行きましょう」

 皇帝に呼び止められたミーシャは我に返り、搭乗ゲートを進んだ。


 モナクライナ皇族を乗せた航空機が飛び立ち、青空へと消えていく。

「……達者でな」

 新室は心の中で呟き、空港展望デッキで実娘と別れた。お互い、もう会えないかもしれないが、父娘の絆が生まれたのは間違いなかった。


追憶の焦点 完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

追憶の焦点 小説家志望dai @daichans

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画