第1話ー1

追憶の焦点

第1章 現場復帰


1.還ってきた伝説


 東京 夜の繁華街。夜が更けていっても、その街は眠ることを知らなかった。密会を果たす場所は多岐にわたり、ホテル街もその一つである。


 一棟のホテル付近で潜む者が一人いて…


 男は愛用しているカメラを構えて、何かを待っていた。それから、しばらくすると…


 ホテルから出てくる男女の姿があった。潜んでいる男はすかさず男女を捉えてシャッターを押した。そして、男は目的を達成すると何処かに去って行くのであった。

 男女カップル、男の方は政治家で、日本の政界で幅を利かせる存在であった。女の方は彼の愛人でお騒がせ芸能人タレントであった。大物政治家の不倫現場はばっちり撮られたわけで…


 撮影者は五十代前半、年齢より若く見えて、甘いマスクが印象的な男性であった。彼は愛車、ダークブルーのマセラティに乗り込んで、車内で一服した後、発進させて夜の煌びやかな世界から消えた。


 彼の名は新室 零にむろ れい。職業はフリーカメラマン。担当する撮影写真は、政財界や芸能界のスクープ、戦争や紛争地の現場、自然界や野生動物、スポーツ関連と、ジャンルは実に幅広い。彼の写真展は人気を博しており、各界から撮影依頼が殺到していたが…


 新室には特殊な前歴かこがあった。


 それから数日後、休暇を取っている新室の携帯電話に着信が入り…


「もしもし…」

 新室は不愛想な口調こえで電話に出た。

「よう、久しぶりだな」

「その声は…何で番号を知っている?」

だからな、早速だが会わないか?」

 新室は急な誘いであったが、特に断る理由がなく、自宅から行きつけのバーへ向かった。

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