序章

追憶の焦点


〝生きている限り、封印した過去は舞い戻って来る―――〟



序章 苦い記憶


 ある夜のこと、古びたアパートの一室で男女が口論していた。それからしばらくすると、アパートの一室の扉が開き、〝女〟が出てきた。彼女は悲しげな表情を浮かべながら、そのままアパートを後にした。


 女は失恋したことが影響して、おぼつかない足取りだった。彼女は愛すべき男との結婚を望んでいたが、あっさりと打ち砕かれた。


 女の理想ゆめは崩壊しつつあったが、彼女は運があった。


 その一方で、別れを切り出した〝男〟はモテるタイプだが、恋愛に臆病な面があった。彼は愛した者が去って行くを抱えて、その場しのぎの快楽を求めてしまい、燃え上がる愛情はすぐに冷めていった。


 別れた男女はそれから会うことがなかったが、を残したことから完全に関係が断ち切られることはなかった。


 女には子が宿っていた。別れた男と接したことで授かり、一人で育てる覚悟をしていたが、彼女に転機が訪れた。

 

 女は日本こきょうから出て、異国そとで新たな生活を送る一途を辿ることに。そんなことを何も知らない男だが、時が流れて、過去が呼び起こされることになった。

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