第2話 心霊スーツ




 ようやくできたわ。

 女性研究者である御神みかみは、へろへろの身体で、完成品を手に取った。

 心霊スーツである。

 いくつもいくつもいくつも、失敗作を積み上げて、ようやく。ようやくだ。

 完成品を作り上げることができた。

 これを着ることによって、自ら心霊化できるのだ。

 どうしてこんなものを作ったかって。

 これもそれも、すべては。




「で?」

「はい!某漫画を読んでから鬼の世界に多大なる興味を持ちまして、死後は鬼の世界で働きたいと思ったのですが、死んでからでは、記憶障害などを引き起こして存分に自己アピールできない可能性もあるのではないかと危惧しまして、今、自己アピールをしに来た次第です」

「その情熱は買いますが」


 一本角の鬼は重い溜息を吐き出しては、牢屋の中にいる御神を恨めし気に見つめた。

 余計な仕事を増やしやがって。


「生者が死者の世界に意図的に来ることは犯罪。しかもとっても重い犯罪なのですよ」

「え!?」


 頬を紅で染めていた御神は顔を真っ青にさせた。


「えっ。えっ。つまり、犯罪人の私は、不採用ですか!?」

「いや今心配すべきことは、死後の就職の心配ではないでしょう。今のあなたの処遇でしょうが」

「えっ?ああ。えっと。私はどうなるんですか?」

「その心霊スーツは回収させていただきます。もちろん、その心霊スーツに関するすべての物品および情報、記憶すべてです」

「え?つまり。某漫画も。ですか?」

「流石にそれは回収できません」

「あ。よかった。なら、大丈夫です」

「………某漫画を読んだら、またすぐに心霊スーツを作りそうですね」

「はい作ります!」

「………堂々巡りは御免です。わかりました。採用します。あなたが死んだら、鬼の世界で働けますよ」

「ほ。本当ですか!!!」

「ええ。なので、生きている間はもう、心霊スーツを作って、こちらに来ないようにしてください。いいですね?破ったら、不採用にしますよ」

「はい!ありがとうございます!」


 土下座をする御神を見下しながら、鬼は極悪笑みを浮かべた。


(っふ。まあ。鬼の世界はいつでも鬼不足、働き手不足。もう嫌だと泣いて喚いても働いてもらいますよ)


 あはははは。

 ふふふふふ。


 御神も鬼もご機嫌に笑い合ったのであった。






 御神の死後。


「………あなた、元気ですねえ」

「はい!」


 泣いて喚く様子は皆無の御神に、まあいいことだと、鬼は次の開発を頼んだのであった。











(2024.2.15)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る