セブンデイズチャレンジ
藤泉都理
第1話 砂の王国の砂
(ひいぃぃぃぃぃぃぃ)
顔を真っ青にしながら、心中で悲鳴を上げていた会社員の
行先は不明だった。
けれど、高木には、行先に心当たりがあった。
砂の国だ。
何でも即座に分解するという砂がある、砂の国。
成績の悪かった者は、砂の国の砂に埋められて、この世から跡形もなく消されるという。
(ひいぃぃぃぃぃぃぃ)
この現代日本においてそんな成績が悪かったから抹殺なんて。
しかも社長手ずから。
ないないないないないな。
笑い飛ばしたかった。
でも無理だ笑い飛ばせない。
成績の良し悪しを表立って発表されることはないけれど、そんなものがなくたって、みんな誰が成績がいいか悪いかなんて、会社にいたらわかる。
何より自分がよくわかっている。
成績が悪いって、一番。
自分は会社のお荷物だ。
誰かに責められたわけではない。
誰かに陰口を言われているわけでもない。
みんな、何も言わない。
けど、思うんだ。
みんな、心の中で、思っているんじゃないかって。
(ううううう。このまま、砂に埋もれて、すぐに分解されて、いなくなった方が、)
「え?」
着いたよ。
プライベートジェットから降ろされて、さらに窓を黒のシールで貼られて外が見えないようにしている車に乗せられること、数十分。
歯を煌めかせながら、爽やかな笑顔を向けてくる社長に、砂の上に横になるように言われた高木は、抗うことなく、素直に横になった。
社長は横になった高木の上に、どんどんどんどん、砂を乗せて行った。
ああ、父さん、母さん、不出来な息子で、ごめんよ。
高木の目には、真っ青な空と、キラキラと輝いている社長が映っていた。
「どうだい?ここの砂風呂は?」
「え。あ。はい。とっても。気持ちいいです」
高木の横に寝転がって、車の運転手に顔を除いて砂をかぶせてもらった社長は、だろうと言って笑った。
「疲れているみたいだったからね。少しドッキリを仕掛けさせてもらったよ」
「あ。とても。びっくりしました」
「はは。それはよかった」
「はは」
「ここの砂風呂は、とある砂の王国が管理している秘湯中の秘湯でね。ふふ。一時間もすれば、疲労もなくなるよ」
「ありがとうございます。社長」
ずびずびと、高木は涙も鼻水も流した。
社長の優しさ、多分優しさ、きっと優しさ、に触れて、今まで溜めていたものが決壊したのだ。
「一人で背負わないで。一緒にどうすればいいか、考えて行こう」
高木の返事はなく、代わりに、豪快な寝息が聞こえてきた。
よっぽど疲労を溜めていたのだろう。
そこまで追いつめさせていたことに胸を痛めた社長は、僕もまだまだだと顔を険しくさせたのであった。
「帰ったら、全員集めて、意見会を開こう。場所は、カラオケがいいだろうか。それとも。サウナがいいかな。いや、遊園地がいいかな。う~ん。よし。高木君が起きたら聞いてみよう」
社長は運転手に一時間経ったら起こしてくれと頼んで、眠りに就いたのであった。
(2024.2.15)
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