第30話 テラ

「あった、野宿用品を置いてある道具屋」


ここへ来たら一つやってみたいことがあった。雪中キャンプ、他の大陸では味わえないキャンプが出来ることだろう。道具屋に入り商品を見る。雪中キャンプ用の道具が多数揃っている。ただここではキャンプはあまりしないのだとか。距離がある狩り場で使うくらい。店員さんに雪中キャンプのコツを教わる。稀に死人も出るとか、怖すぎる。今回のキャンプは危険、俺のわがままなので希望者を募ることにした。


「もちろん行くぞ」

「何事も経験だからやってみ……、やっぱやめとく」

「寒そうですね私は遠慮しておきます」

「おもしろそー、モガモガ、やめとこ!」


希望者はテラだけか。耐性はあるが一応テラの分も防寒対策を。魔獣が現れず水辺がある場所を教えてもらう。天気が良い日を選び、キャンプを実行。街から出発、目的地に到着。


「手伝うことはあるか?」

「全部やって経験しておきたいから今日はゆっくりしていてくれ」

「わかった。そこらをぶらついてくる」


まずシャベルを使い雪を片付けながら地面をならす。テントをたて杭を打っていく。杭は雪用の特殊な物。薪ストーブをテントの中に。煙突は外に出す。薪を探しに行く。水辺の近くに林がある。ここに落ちている枯れ枝を集める。水辺付近で木の枝を探していると、水の中に人影が、そこにはテラがいた。水浴びをしている様子だった。持っている木の枝をすべて落とし目を奪われる。澄んだ空気にきれいな水、そこにはとても美しい竜の王女がいた。


「誰だ? シンか、見ないでくれ……」


とっさに肩を隠すテラ。肩には出会ったときに負った傷があった。残ってしまったのか。そういえば常に肩を隠す服装だった。この時頭をハンマーで叩かれたような衝撃が走る。ダメージ半減の際わざわざ攻撃を受けさせてしまった。もっとよく考えれば他の方法があったのでは。つくづく気が利かない男だ。


「昔なら戦いの証だと強がっていただろう。どうやら私にも乙女心が残っていたらしい」


テラを愛おしく感じる。流石に俺も馬鹿じゃない。これだけ長い間一緒に旅をしている、彼女の気持ちはわかっている。そして俺も。凍えつく寒さの湖の中へ入っていく。


「この中に入ってくるなんて、下手すると死ぬぞ?」

「構わないさ」

「それは私が困る」

「竜の王女様を手に入れるためだ」

「シン……」


彼女に近づき抱き寄せる。彼女もまた俺の気持ちに気がついている。目をつむる彼女に口づけを。氷のように冷たい唇だが、心は熱くなる。


「好きだ」

「うれしい」


また唇を重ねる二人。日の光が二人を祝福するかのようにあたりを照らす。


「流石に冷えてきた」

「任せろ」


女子が夢見るお姫様抱っこを経験。逆じゃねえかなと頬を赤らめながら心のなかで突っ込みつつテラが嬉しそうだからまあいいかという結論に。背負うとよごれるしね! 薪を集め焚き火をする。そういえば二人きりだな。旅の初めの頃を思い出す。まさかこんな関係になるなんてな、当時は考えもしなかった。食事をし談笑して就寝。毛布を何枚も巻き付けて眠る。


「シン、一緒になれば忙しくなる。体力はつけておけ」

「わかった」


彼女は王族だ。様々なところへ行くだけでも疲労するから体力をつけておけってことだろうな。貴族たちに挨拶をするなんて精神的にも体力的にも大変そうだ。


「それから我が国は一夫多妻だ。あの三人を迎い入れても構わんぞ」

「しかし」

「エマの口づけを受けていたろう。私より先だが、頬だから許してやるがな」

「ええっ」


あのときは二人しかいなかったはず。竜の国の情報網はどうなってるんだ。これは尻に引かれそうだ。一夜明け朝。当然だが中にストーブを入れているから煙たかった。焚き火で煙離れているけれど。テントを片付け街に帰る。


「あれー、いつもと変わらなくない?」


エマの企みには気がついていた。それに乗る形にはなった。テラと見交す、彼女が微笑む。距離感はいつもと変わらないが、心はつながっていた。

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