第29話 魔族

「帰ってきたぞ」


ルイが里帰りをしていた。彼女の親族が暮らす森の情報を本人から入手。彼女のお母さんがぜひお会いしたいとのこと。ここから近いようだ。そういえば手紙のやり取りだけだったな。近くに来たことだし挨拶しておこう。


「私が同行しましょう」


シスが案内役を買って出てくれた。普通に行こうとしても入れないような場所にあるとか。魔法列車に乗り、森を目指す。それにしてもへんぴなところに住んでいるな。魔族には知がありその昔魔法の国を作り出している。権力争いがあり、争いを虚しく思った魔族達は魔法都市を譲り隠居。魔王が発生したときも似たように話がこじれ争いが広がっていったようだ。魔王の発生を恐れ強引に隠居したとの噂も。


「我々魔族はその力ゆえ、争いが起きると世界を巻き込む可能性があります」


一人対一人にならず、どうしても多数の人を巻き込むことになる。知があり腕力もある。こうして担ぎ上げられ大昔に魔王となり争いを起こしてしまった。その一度だけで止めてるんだから立派だ。人間なんて何度争いを繰り返していることやら。


「入口に着きました」


道はない、木々が生い茂っている。シアが特殊な液体を取り出し、辺りに撒き始める。すると木々がまるで生きているかのように動き、道を作り出した。街では迷いの森と呼ばれている場所。俺が一人で来た場合は迷う自信がある。しばらく歩いていると複数の建物が立ち並ぶ集落が見えてきた。魔族達が暮らす隠れ里。こうした集落が他にもいくつかあるようだ。三階建ての大きな建物に入っていくシア。客室に通され座って待つ。


「これはこれは、遠路はるばるお越しいただきまして、ルイの母でございます」

「初めまして、シンです」


ルイの母親が部屋へ。物腰柔らかくおっとり口調。しかしたまに目の奥がギラリと光ることがある。只者ではなさそうだ。その夜宴会を開いてくれた。アイエスが珍しく元気がない。外に連れ出し話を聞いてみる。


「皆さんの優しいですよね。ここに限らずですけと」


彼女の性格は粗野で短気、本人もずっと気にしている。


「もう気がついていると思うんですけど、私の一族の村の人達は本当はいい人たちで、粗野で短気なのは私だけなんですよ」

「へ、へぇそうなんだ」


村の人達は演技だというアイエス。全く気がついてなかった。俺も万能じゃない。むしろ操縦能力が高いだけで他は一般人だから。村長からお前が一番血を濃く受け継いでいると言われている。今回の旅に同行した本当の理由はその血の濃さのため。粗野で短気ほど強い力を得る種族。遺伝的なものなんだな。


「仲間とはうまくやってるいるし問題ないさ。いつも助かってるよ」

「ありがとうございます。良い仲間がいて、私恵まれてます」


たまに気が立っているときはテラやエマが相手をして紛らわせているようだった。俺は全然気にならない。テラがいるから! そんなにかわらないからね!


「ちょっと魔獣退治をお願いできる?」


頼まれた魔獣を退治しに向かう。ギルドは当然無い、お店もない。全てを自分達の手で行わないといけないのは大変そうだ。自給自足、好きな人は好きかもしれない。相手はカニ型、水属性の魔獣。アイエスと相性がいい、電撃を放ちながら倒していく。後ろに非戦闘員の魔族がついてくる。この蟹はかなり美味しいらしく、可食部を回収しながら移動していた。夜はそのカニが大量にテーブルに並ぶ。カニを食べるときはみんな無口になるのは現代も異世界も共通だな。皆一心不乱にカニを食べる。翌日隠れ里を出発。


「ルイをよろしくお願いします」


拠点の整備が終わり、次の大陸に向け準備を進める。今度は氷の大地。中央大陸から真北に存在する。魔獣すら沿岸部や陸地の一部にしか生息しないという不毛の大地。大量の防寒具を買い込む。シーズは大人しいから連れ歩こうと思っていたが氷の土地に連れて行くのはやめ、一足先にゴールの竜人の国に送ることにした。北西にある港街から出港、氷の大陸へ。北へ進むにつれ徐々に寒くなる。同時に着る防寒具が増えていく。年中温暖な他の場所とは違い非常に寒い地域。そのためお酒が欠かせないのだとか。たまに出てくる魔獣は痩せていて元気がないな。寒さに強ければ一番楽な護衛だろうと冒険者から楽をして金を稼げる金策情報をゲット。氷の大陸の港街に到着。大陸の南側に港街がいくつかあるくらいで残り八割は氷山。


「う~、さむい!」


特にエマはきつそうだ。火属性だからね、そりゃつらいか。


「はっは、鍛え方が足りん」

「属性なだけでしょ」


逆に元気なテラ。凍てつくブレスを吐くから当然寒さには耐性がある。長袖一枚はやりすぎな気はするが。


「きれいなお粉ですね」

「わー、これが雪か」


同じく元気なアリエスとカトナ、雪を手にしまじまじと見つめる。雪を始めてみたならたしかに珍しいだろうな。白い息を出しながら雪の積もる街を散策。そろそろ夜、晩御飯はみんなで鍋をつつく。いつも食べているが寒いときに食べる鍋は本当にうまいし心にしみる。冬の現代を思い出すね。温かい料理はみなうまい。それでも美味しそうに刺し身を食べるテラは豪の者だな。宿屋もいつもと違う。暖炉がある、その分高い。翌日、朝から街をぶらつく。

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