第32話 竜人王
中央大陸北西の港街オデニに移動。
「空が黒い」
「魔獣かな?」
オデニ付近で魔獣が大量発生。しかし今回は焦る必要はない。彼らは近づかなければ襲ってこない。必ず発生する時期があり、予定通りの大量発生。街からでも見える、蜂の魔獣の大群が森の上空を覆い尽くす。
「いつもの蜂ですね」
恒例行事にギルドの冒険者達が黒い上空を見ながら蜂について話をしている。パートナーを見つけると地上に卵を産み付け彼らは死ぬ。そしてその死骸が森の栄養になる。
「ちょっと数が多くないか?」
「ここ最近魔獣の数が増えたからね」
どこも魔獣の数が増加している、暮らしづらい世界になってしまっている。
「ありゃあ違う魔獣も混ざっているぞ!」
目の良い冒険者が気がつく。そして徐々に魔獣の数が増加していく。蝶の魔獣じゃないかと冒険者が言う。蝶の魔獣が大量発生する時期がある。彼らも近づかなければ襲ってこない。ここからは結構距離がある、この街は大丈夫だろう。
「この中で速度に自身がある冒険者はいないか!」
ギルド長が突然の呼びかけ。オデニは大丈夫だが、森の近くの街が魔獣に襲われる可能性があるという。手を上げ名乗り出る。4つの煙球を手渡された。これを街の四方に置き煙を出すことで魔獣の侵入を防ぐことが出来る。魔獣博士が最近作り出した品物のようだ。その街にはまだ送られてなかった。魔獣の特徴を聞く。どちらも基本上空にとどまっている。高速で地上を走るかすれすれを飛ぶと、襲われる前に逃げ切れるようだ。もう時間がなく、一直線に進んで間に合うかどうかくらいの状況。魔獣を避けるように回り込んでいては街は壊滅。上空は魔獣が多すぎて倒しながら進んでいては時間切れ。説明を聞くとすぐにギルドを出てカトナに乗り街へ向かう。3D画面の出番だな。森に侵入、木々を避けながら突っ込む。次々に現れる障害物をかわしながら進む。
「ひえーぶつかりそう」
基本は上空だが少しは魔獣もいる。攻撃をして倒しながら進む。後ろを振り返る。上空で俺達を視認して襲おうとしても速くて追いつけないとわかると、そのまま上へ戻っていった。森を抜けたがまだ魔獣が上空にいる。岩や木々を避けながら魔獣の大群を抜けた。よかった、まだ街は無事だ。街の4つ門に煙玉を設置、煙を炊く。しばらくして魔獣達の群れは勢力を増して街を包みこんでいったが、煙玉のお陰で内部は無事。
「助かりました。逃げるにしても勢力の増加が早すぎて逃げ切れるかわからなくて」
死を覚悟したと街の長。この後はオデニの冒険者とともに街の人達を救出。街は魔獣の群れに飲まれたが人々は助かった。褒めてくれとカトナが言うから頭をなでた。
「子供扱いしなーい」
「これは失礼」
「ま、まあ今日だけはいいけど」
嬉しそうにはしているカトナ。ふむ、女の子の難しい時期か。そろそろレディとして扱わなくてはな。オデニからそのまま南下して竜の街に到着。世界一周達成! 王が宴を開いてくれた。
「ご苦労だった。その知を今後活かしていくといい」
王がねぎらいの言葉を。長旅を終えた達成感で食事がうまい。翌日、王にテラとの仲を報告する。仲良くしてくれているとはいえ、緊張する。
「ついにこの日が来たか」
目をつむり天を仰ぐ竜人王。
「よかろう!」
王の許しを得る。辛いが先に旅に出したお陰で我慢ができると苦笑いする王。婚約が成立、竜人の国に広まることに。この後は、親族間で将来誰が竜人王になるかを相談。その相談方法はわかりやすく力。強い竜人が王になる、それがこの国の昔からの掟。腕力で決める! しかしそれは表向きの話、基本は竜人王の子供がそのまま引き継ぐ。たくさんの祝福の手紙が届く中、一つだけ挑戦状ともとれる手紙が。王は手紙を手に取り内容を確認するとため息をついた。
「力自慢のドミトフか、奴ならこう来るだろう」
竜人ドミトフ。野心家でその実力は竜人一と噂される若い竜人の男。金集めがうまく、装備を買い集めかなり強力な武具を身につけている。その彼が難癖をつけてきた。そして戦いを大々的に開催し民に見てもらおうと提案。内々で戦った場合、テラが負けても知らぬ存ぜぬと押し通しテラをそのまま王にすることが出来る。実際昔は何度かあったそうだ。勝った側としてはそれで満足、正直統治は面倒という者が多かった。実際腕力と知能じゃ違うものだからな。民の前で戦えば証人は多数、結果を隠し闇に葬ることは出来ない。ドミトフは国の実権を握ろうと企んでいる。個人的には道具屋の嫁になってもらったほうが楽かなという考えもあるが、彼女の立場ではそれはできないか。なら勝って竜人王になってもらおう。お互い納得の元、10日後試合が開催されることになった。格闘が得意な兵と訓練をするテラ。そこへ客人が。獣王サキアが話を聞きつけ仲間とともに竜の国に来た。
「俺が手伝ってやろう」
「助かる、身の入った修練になる」
激しい打撃音があたりに響く。もはや人間同士がぶつかり合う音じゃない。俺が間に挟まれたら即死だろう。
「相変わらず強いな」
「そっちこそ」
お互いを健闘し合う。時は過ぎ決戦の日。重装備の竜人と軽装な竜人の二人が向かい合う。観客からはテラに声援が飛ぶ。人気は圧倒的に彼女。まあ力で決めるわけだから人気は関係ないけど。
「丸腰で弱そうだ。格闘大会で優勝したそうだな。フン、所詮は武器を使わぬおままごとのクラスよ。いいだろう一発殴らせてやろう。記念に一撃入れておけ。これから王になる男だ。将来語り草に出来るぞ、あーっはっは」
挑発をするドミトフ。将来大物になるからサインくれてやろうみたいなこといいやがって。気に入らないやつに身内をいじられると腹が立つね。
「軽装のか弱い竜人に対して鎧を着るのか?」
「ああ? いいだろう、脱いでやる」
「ドミトフ殿、くれぐれも」
「わかっている。反撃はしない」
「そうではなく、テラとドミトフ殿では力の差が歴然です。どうぞ鎧を着てください」
「ぐ、揃って減らず口を」
「あはは」
「いいぞー!」
挑発合戦。見ている聴衆から笑いが起きる。俺達の連携にふてくされ気味なドミトフ。脱ぎかけたが結局鎧を着る、意外と冷静だ。いくらなんでも格闘家の突きを生身で受けるのはな。待っている間立ち位置を気にするテラ。ああそういうことか。近くの兵にテラのやってもらいたいことを説明、動いてもらう。ようやく落ち着きお互い攻撃準備。俺も彼女から離れる。
(恋する乙女は無限の力を得るのだ)
(なに?)
距離があり二人の会話は聞こえない。テラが不敵な笑みを浮かべる。凄まじい速さで近づき、ドミトフの腹部に蹴りを入れる。あまりの威力に鎧が凹み、苦悶の表情を浮かべた彼は後方へ勢いよく吹っ飛んでいく。何回も回転、地面に叩きつけられながら広場の壁に激突しようやく止まる。一応動いている。死んでいなければ大丈夫。
「殴りって言ったじゃ……ない」
手を震わせ大きなダメージを受けながらも苦情を訴えるドミトフ。なかなか肝が据わった男だ。テラが近づき話しかける。
「それはすまなかった、では後日もう一度戦おうか。今度は手加減抜きで」
「あ、あれで手加減」
湧く観客。豪快にぶっ飛ばして俺はスッキリしたけ。ドミトフの顔が青ざめる。彼の心が折れた音が聞こえた気がした。
「わかった認めよう。あんたが竜人王だ」
策略家にして実力もあるドミトフが陥落。こうして名実ともに次期竜人王の地位を確立。その日は盛大な宴が催された。
「あのお転婆がな。人間変わるものだ」
「テラさん、美しくなりましたね」
親族や貴族と会話。皆しみじみとしている。いまだにやんちゃではあるけどね。一夜明け、仲間達と相談を。世界旅行は終わり、エマ、アイエス、カトナに今後どうするか話をする。
「行くとこないしね、置いてよ」
「私は自由にして良いと村長さんから手紙をいただきました。しばらくはここにいます」
「同じくいくとこなし。それにシン、ボクがいないとさみしいでしょ。拠点で暮らすねー」
拠点住まいをすることにした三人。たまに城へ遊びに来る。
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