第27話 王子

血気盛んすぎて手に負えない。おまけに実力も高く誰も止められないため益々つけ上がっていく。俺に懲らしめてもらいたいという話をする王。


「勝負方法は?」

「あんたは戦闘能力はなく搭乗して力を発揮するんだったな。なら魔獣の数を多く倒したほうが勝ちというのはどうだ」


スコア勝負か。勝負の内容はまずアスラが制限時間内に魔獣を倒す。その後二日置き俺が彼に乗り魔獣を倒す。彼らはウィルム人という種族。竜人の近縁で獣人の姿は手足のないドラゴンと言った見た目。羽のついたヘビと言ったほうがわかりやすいか。この世界では最強クラスの獣人と言われている。機動力があり魔法弾も数多く放てる。王子が先行部隊に入りたがっていたが王族ということで入れず怒っていたと聞いたな。鬱憤が溜まっているわけだ。本来なら争いはしないところだが王の頼みとあっては断るのも悪い。


「受けましょう」


勝負を受け戦いは三日後に決まる。当日、戦いの日。魔獣が多数現れる森の入口に移動。王子が兵を引き連れ森に来る。準備体操をして気合を入れるアスラ。


「俺からだ!」


勢いよく森に突っ込んでいく。近くにいる魔獣を片っ端から片付けていく。カトナほどではないが動きが速いな。


「どうだ、あの男の動きは」

「言うだけのことはある、強いね。だけど無駄な動きが多い」


力があり余っているのだろう、動きすぎている。これなら勝てそうだ。それにしても明らかに俺に有利な条件で勝負を挑んでくるとは。ただ乗っかっている人扱いなのか。ああ、場所はよくわからんからそのハンデかな? 彼は慣れてそうだし。王子を休ませ俺の番の日、テラ達を圧縮玉に入れ王子に乗り勝負をする。


「はっは、下手な操縦で俺に怪我させるんじゃねえぞ」

「なんだと?」


キレるテラ。俺よりも先に反応している。あまり喧嘩はしたくないが王にこらしてめてくれと言われているし当たりを強めにしておくか。


「逆です、足を引っ張らないようにしてくださいね」

「なっ! やってみろ!」

「いいぞー!」

「スカッとしました!」

「みんな子供だねー」


一番落ち着いているのが最年少のカトナという恥ずかしい状況ではあるが勝負スタート! 攻撃方法は翼の先の尖った部分から魔法弾を発射。いい機動力だ、暴れたりはしない。勝負に関しては真面目なんだな。魔獣が見えてきた。動きを読んで最小限の動きで魔獣を倒す。スコア狙いをしていたときを思い出す。自機潰しとかはさすがにやれないな。


(初めての場所なのに的確に動いていやがる)


徐々に魔獣を倒した数が離れていく。このままいけば勝ちか。画面を見ていると異変が発生、地面が隆起する。巨大魔獣が地下から飛び出してきた。


「ギュォーー!」


放っておくのは危険だ、討伐してしまおう、勝負はお預けだな。画面に魔獣ではないものが映る。子供が地上を走っていた。こんなところに子供だと。ここは魔獣が生息する地域、一般人は普通は入ってこないはず。考えるまでもない子供を助けに行こう。こちらが声をかけ動かす前に王子が急降下を始める。巨大魔獣が魔法弾を放ってきた。子供上空から抱き上げ飛び去る。子供がいた場所に魔法弾がぶつかり地面をえぐる。一旦距離を取り、地面に降りる。


「大丈夫かボウス」

「う、うん」

「最後までやれなかったが勝負は俺の負けだ、変に絡んで悪かったな」

「いや勝負は王子の勝ちですよ。民を守る王が負けなワケがない。根性を鍛え直す必要がある王子はいませんでした。こちらこそ非礼をお許しください」


ひざまずきアスラに敬意を払う。なんだ、勝負するまでもなかったか。会ったばかりではやはりどんな人間かわからないものだ。人は見かけによらず。それにしても誰かさんに似ている。こらえていたが思わず吹き出してしまった。


「わっはっは」

「何故笑う?」

「いや、王族は子育てがうまいなと思いまして」

「は?」

「あ?」


子供を王子に任せ、カトナに乗り巨大魔獣討伐へ。かなり接近してきている。巨大なハサミを振り下ろしこちらを攻撃、難なく後方へかわす俺達。口から巨大な魔法弾を発射。上空に逃げかわす。右前足がハサミ、口から魔法弾、前からの接近戦は危険。一気に攻めず様子を見る、ハサミはあまりにも重いためかハサミ攻撃後は体勢を整えるのに時間がかかるようだ。敵の前方を飛びハサミ攻撃を誘発、回避後テラに変わってチャージをしながら後方に回り込む。後ろを取ったところでチャージが完了。


「コキュートスブレス!」


高威力の氷のブレスが魔獣を襲う。凍りつきながらあまりの威力にお尻が浮き上がり前方に回転。魔獣は泡を吹きながら動きを止め絶命した。


(あれが古代魔獣を倒したシンか。仲間達はありえないほどの機動力に攻撃力、そしてあいつ自身は彼女らを精密に操作。俺では勝てんな)


戦闘終了。子供はどうやら病気の母親のために、ここだけに咲く薬草を取りに危険地帯に入ってきたようだった。子供の行動を叱り、もう入らないと約束させ薬草を採集し戻っていく王子。この国の将来は安泰だな。俺達も街へ戻った。


「どうだったシン殿?」

「王子はそのままでいいと思いますよ」

「えー、そうかな……」


王は納得できないといった様子ではあるが放っておいても大丈夫だろう。

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