第25話 勇者ギリィ

「私がやりました。実験していたら魔獣が現れてしまって。怖くなり他国に逃げていました」


ここへ来て王都襲撃の犯人が捕まる。しかも自分が犯人と名乗り出た。その男は魔法使いの勇者ギリィ。魔獣が現れたのは事故だとのこと。古代魔法を研究していたら召喚できてしまったようだ。東の国、魔法大国のこの国からギリィが古代文明を研究していたことを知らされる。資料が届いたが誰にもその文字を読むことは出来なかった。魔法の国の人も読めないという。見たことがある魔法陣がある。王都を襲撃した魔獣を召喚した魔法陣だ。よくわからないまま召喚してしまったとギリィ。王都を襲ったことは重罪だが、事故ということもあり情状酌量の余地ありと判断、死罪にはせずとりあえず牢屋へという処置に。


(くくく、甘い奴らだ。事故なわけがなかろう。しかも古代魔獣の封印を解除して動かしたのは俺だよ。古代魔獣の調べが進めば魔法都市での行動から王都襲撃の犯人がオレであることがバレだろうから捕まりにいった。追手から逃れるのは簡単だがそうなると古代魔獣の研究は難しい。しかし古代魔獣があんな化け物だとはな。危うく世界が滅びるところだった。現在ヤツの残骸がここにある。オレにとって牢屋など宿屋と変わらん。研究し自由に扱えるようにする。いずれはオレが世界を統べてやる)


勇者ザデフが竜人の国に来ている。回収した古代魔獣を見学。ダボニは来ていない。調査が進み古代魔獣に関しての情報が流れてきた。魔獣は生体部品と金属の機械が半々ずつ使われ作られている。大気や土を吸い上げそこから空気や土に含まれる微量の魔力を取り出しエネルギー源としていた。同じように魔法弾も生成される。余りもので金属を生成し追尾弾を作っていたようだ。ほぼ無限だが、周りの空気が魔力を含んでいなければ当然エネルギーを作ることは出来ない。


「こんな物が古代に作られていたなんて」


とんでもない代物、現在のこの世界の技術では作ることは出来ない。どこから現れたかはこれから調べるところ。崩壊した海底の国へ各国の調査機関が派遣される予定。


「ご苦労だった」


竜人王からねぎらいの言葉をいただく。古代魔獣襲撃は一段落、お祭り騒ぎの派手な戦勝会が開かれた。各国の要人が集い酒を飲む。挨拶をしてまわる。会は終盤、周りを見渡すとエマの姿が見当たらない。まさかと思い彼女を探す。城の屋上で一人飲んでいた。


「心配したよ」

「倒しちゃうとはね、流石は神の眼を持つ者」


星を見上げお酒を飲みながら話を続ける。戦いが終わりこのまま去ろうとしたようだった。この時代の人間ではない自分がここにいては迷惑だろうと。しかし、去れなかった。一人になると思うと寂しく感じたとエマが言う。人類が滅んだ世界で一人だったのを思い出してしまったのだろう。慰めは彼女の深い悲しみには効果が薄いか。それなら。


「俺なんてこの世界の住人ですら無い。気にすることはないさ」

「さらっと重大なこと言った?」

「秘密な」

「二人だけの秘密ってやつ? ふふ、わかった。おおっと、熱烈な口づけを何度もしてあげたいところだけどテラに怒られちゃうな。ここまで」


俺の頬にキスをすると城の中へ戻っていくエマ。入る前に振り返りこちらに手を振る。


「ありがと」


宴会を終え翌日王と今後の相談をする。


「これからも世界を見て回るといい。主に観光目的でな」


四人そのまま旅に出ることになった。予定通り東の大陸、魔法都市へ向かうことにする。竜の国を出てグアナタの街に。久しぶりということで家族に挨拶していく。お店は順調のようだ。弟が後を継ぐ予定。俺は今後どうしようかな。旅をしながら身の振り方を考えていこう。世界が平和になってもそこで俺の物語が終わるわけじゃないからな。


「他国に支店を作ってもいいぜ兄さん」

「考えとくよ」


街を出て南東の港街へ。ここから東の大陸へ船が出ている。ここから南東は帝国。古代魔獣は倒したがまだきな臭い奴らが残っている。そこは各国も承知しており手は尽くしているだろう。我々は旅を続けるとしよう。

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