第20話 木登り

「新人かい、道に迷わないようにな。強さに関係なく慣れるまでは街の近くで戦うんだぞ」


神霊樹は地図が意味をなさない。ここに生息する樹木が道を変えてしまったり無くなったりすることがある。朝出かけて帰ってきた頃には道が変わるなんてことは日常茶飯事。もし迷って枝の先端まで行ってしまうと落下する可能性が出てくる。足場が悪く、魔獣に襲われ落下という事故もよくあるようだ。まずはここに慣れていこう。魔獣討伐の依頼を受け街を出る。それにしても不思議な空間だ。まるで森の中、いやまた違う雰囲気かな、上も下も、右も左も木々、葉。まだ朝だというのに薄暗い。出っ張った木に腰掛け水分補給をしている冒険者がいる。ここだけで採れる食べ物、皮が風船のようになっていて中身がほぼ水分という、変わった果物。お前らも飲めよと気さくな冒険者が果物に指を指す。俺達も真似して果物の中身を飲む。ほんのり甘い水分だ、おいしい。食べ物も豊富にある。長期戦になっても食料を用意しなくていいのはここの狩り場ならでは。聞いた話では食料の情報さえ覚えておけば道に迷って餓死で死ぬことは稀のようだ。


「毒には気をつけろ」


中には毒持ちの植物がある。食用の植物に似ていたりするから、慣れないうちは図鑑を使えと助言をくれた。図鑑は会員になるときに貰った。絵付きの厚みのある図鑑、詳しく植物の説明が載っている。


「この葉を強く叩くのか、蹴ってみよう」


テラが葉を蹴ると、ゆっくり地面に倒れ、道ができた。特殊な葉でたまに起き上がり壁のようになるのだとか。このように移動は大変。蔓をロープにして登ったり、葉を見極めたりと、覚えることが多い。先輩冒険者の話通り、慣れるまでは街付近で戦うべきだ。近くの冒険者が火の魔法を魔獣に向かって放つ。一見危ないように見えるが、ここは非常に湿気が多く、神霊樹は火に耐性があることから火の取り扱いは特に禁止されていない。ただ煙がこもりやすいため焚き火は風通しがいいところ推奨。迷わないよう周りを確認しながら移動していると目的の魔獣を発見、戦闘を開始。流石に余裕だな。あっという間に目標を達成、試し狩りを終え、ギルドに戻って、また狩りへ。何日か繰り返し樹木の迷路に慣れてきた。そういえばSTG画面はどうなっているのかな。余裕が出てきたところで画面を見てみる。


「これは! 隠し部屋、隠し通路がすべてわかるぞ」


通常は迷路だが、STG画面なら輪切りにされて見放題。特に横画面は便利だ。流石に近づかないと隠しはわからないけど。それにしても見ていると攻略が不可能なんじゃないかと思うくらい複雑な作りなのがわかる。しかも道は常に変わり続けるわけだからな。もしかしたらこの視点用のマップという可能性も? 正直伝説の話しは半信半疑だったが、この視点が活用できることを知った時何かありそうだと思うようになる。挑戦してみようか。一つ上の階層の街に移動。慣れたら上への繰り返し。そして最終階層に到達。ここには街はない。家を建てると破壊される、木が動いて飛ばされると街を作ることがそもそも不可能。まるで生き物だ。こうして俺達は神霊樹登頂に挑んだ。挑戦は過酷を極める。魔獣の強さよりも頂きへと続く道があまりにも複雑怪奇だからだ。この画面があっても大変。そりゃここまで攻略者0なわけだ。難易度が上がりすぎて俺の身体能力では対応できなくなる。テラに背負ってもらい登頂を続行。少しずつ上り、開けた場所に出た、ついに神霊樹の頂に到着。皆と喜ぶも、周りを見ると何もなし。あちゃー、やられた。すでに飛んでいって何も無いと答えは出ているようなものだったけど。皆がっかりし、どうやって降りようかと相談していると、神霊樹の先端が光りだし、二つに割れる。そして中から女の子が。


「んー、よく寝た。ということはついに登頂者が現れたわけだね」


女の子が神霊樹の中から出てきてこちらに話かけてきた。聞くと昔コールドスリープされた人間なのだとか。神からの依頼によりここで待ち続けていたようだ。神霊樹を正攻法で登頂し攻略した者にしか彼女は現れない仕組みになっていた。飛んできてもコールドスリープは解けない。


「ボクはフレースヴェルグ人のカトナ。世界の滅亡を防ぐために力を貸してくれと神様に言われちゃってね。当時最強だったボクが選ばれたというわけさ」


フレースヴェルグ人は最強の種族と呼ばれたが、なかなか子宝に恵まれず滅亡寸前まで来ていた。このままだと恐らく消滅するだろうと神は考えてコールドスリープを使い無理やり送り込んだとのこと。実際フレースベルク人なる獣人は聞いたことはない。しかしいよいよ世界滅亡というものが現実化してきたな。竜人の伝承だけでは確証は得られなかったが、神から直接話しをされた種族が出てはな。どうしたものかと考えていると、下部から凄まじい破壊音が聞こえてきた。横画面で見ると得体のしれないものが近づいてくるのがわかった。


「全員後方へ飛べ!」

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