第19話 伝説
案内の人はゆっくりと歩く。苔が生えている部分は滑る、高低差があり、怪我人が多数出ているようだ。転ぶことなくなんとか保護の会がある街までたどり着いた。根が絡み合っている不安定な場所に、多数の建物が建っている。根と合体している家、吊る下がった家等、不思議な光景が広がっている。保護の会の建物をみつけ中に入る。
「ここは保護の会受付になる。神霊樹に登るには保護の会に入る必要がある。少々のお金を頂いて、説明をして会員証を発行するだけだから身構えなくていい。今日の説明会は終わったから、手続きだけしてまた明日来るといい」
4人分の手続きを終え、入会金を支払い保護の会の建物から出て宿に入り一泊。朝から保護の会へ行き、説明会の会場へ。結構な数の人達が来ている。
「主な仕事は神霊樹に害を及ぼす魔獣の退治、輸送です。ギルドと同じように掲示板から仕事を選んでください。幹の部分は空を飛んで登ることを禁止しています。必ず歩いて登ってください」
説明が終わり、会員になって世界樹に入る許可を得た。幹の部分まで移動する。幹は短めだが、木の周りを歩いて登っていくので、街のある枝が伸びている場所までは数日かかる。時間がかかるのを嫌い、空を飛んで登った者がよく滑落や魔獣に襲われ死亡していたため交通手段は歩くだけになったようだ。皮は硬く脂分とはまた違う滑る液体を含んでいるため滑る。休む場所を探すけど無くて力尽きて死ぬわけだ。数日分の食料と水、キャンプ用品を準備。特に水は途中購入することが出来ないため必須。登木入口にいる係員に会員証を見せ、神霊樹の木登りを開始した。階段のようになっており、幅もあることから登るのは楽。ただ落下防止柵はないため落ちないように細心の注意を払う必要がある。人の通行が多くすれ違うときは注意。荷物を見ると、昆虫の外皮や木材を持っている。戦利品なのか輸送が商売の人なのか。途中広場になっている場所に入り休憩、こういった休憩所は複数ある。宿泊しながら木登りを続けていく。休憩しながら神霊樹の枝を見ていたら、伸びた枝部の先から巨大な木の枝が落下していく様子が見えた。おいおい、大丈夫か。
「巨大な木工用素材はああやって下に落としているんだ。あの高さから落としても頑丈だから壊れないのさ」
下を見るとそこには建物はない。決まった場所に落としているんだな。落とすことが輸送手段なわけか。だとしても豪快な輸送法だ。木登りから五日、街になっている場所に到着。活動は明日からにしよう、宿を取ってご飯を食べることにした。景色が良い場所なのだろうが、あいにく霧が出ていてほぼ周りが見えない状況だった。
「おまたせしました。ここでしか食べられない食べ物も多いんですよ。存分に味わっていってください」
鮮度がすぐに落ちるため、神霊樹でしか食べられない物が多いとのこと。ゼリーのような野菜、小さな泡の集合体の木の実、口の中で弾ける果物。不思議な食べ物がテーブルに並ぶ。味も非常に良い。ここで暮らしたいくらいだ。弱点は肉の種類が少ないことだと、店員さんが教えてくれる。鳥系の魔獣くらいしか食べられる肉はない。地上の食べ物も一応あるが非常に高く希少。輸送するにしても徒歩だけだから量が限られるからね。なかなかの肉体労働だけど徒歩輸送が意外と儲かるとか。食事を楽しんだ後宿で眠る。朝起き保護の会へ、中はほぼギルドと変わらない。同じテーブルについたベテラン冒険者と会話を交わす。
「初めて見る顔だな。神霊樹の伝説を求めてここへ来たのかな?」
「伝説?」
「その顔は知らないって顔だな。いいぜ教えてやろう」
力の強い者が好きな神様が神霊樹の頂上に登った者に褒美を授けるという伝説があるという。長い歴史のうち、褒美を貰った者はいまだに0。登頂は非常に難度が高い。魔獣が強く、隠し通路に隠し部屋、トラップまであるそうだ。飛んで到達するのはルール違反になり何も貰えないらしい。ちゃんと攻略しているのを見ているのだとか。実は飛んで頂上まで行った者がいた。その時は何も起きなかった。本当は何もないのではと笑いながら語る冒険者。そのため今では挑戦する人間はいない。
「面白そうな話だが実際何もなさそうだな」
「一般の冒険者よりも強くなっているし試してみる?」
「攻略できそうならやってみてもいいが」
ここはまだ神霊樹の入り口、説明によると上にいくほどに魔獣が強くなる。これは魔獣達の食料となる若く新鮮な芽や葉が上ほど美味しく大量にあるからだとか。食料を取り合い、弱い者は古くまずいとされる下階層へ追いやられる。強い者がおいしい食べ物にありつけるという弱肉強食の世界なわけだ。
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