第18話 神霊樹

「冒険者か、通れ。次っ」


国境の街を通過、巨大な樹木のある国に入国。冒険者はカードを見せるだけだから楽だな。見晴らしがいいお店で食事をする。街の外に不思議な物体が見える、皆もそちらを見る。まだかなりの距離があるのだが、薄っすらとこの大陸の象徴、超巨大な樹木「神霊樹」が見えている。


「この街から見えるのか」

「まるで山ですね」


地元の人からはその大きさと数多くの恵みをもたらすことから、畏敬の念を込めて大樹様と呼ばれているとか。街を散策しながら情報収集をする。ここからの移動は馬車にすることにした。馬車のほうが変化を感じ取れて面白いのだとか。それにたまには馬車の旅もいい。街の入口にある馬車乗り場から馬車に乗り込む。旅を続けて数日後、小高くなった場所から、その全貌が見えてきた。広大な森林に覆われている地域、森の中には村や街が多数存在する。付近の街は神霊樹の恩恵を受けていて、他の街とは環境がかなり違うと聞いている。神霊樹を囲む森林を馬車で走っていると、今までより衝撃と音が減ったことに気がつく。よほど整備された街道なんだろうなと馬車から顔を出して地面を見ると、逆に見た目は不揃いな石畳の上を走っていることがわかり困惑。これだけ形が不均一だと普通は衝撃が強くなったり音が発生したりするのではないか。特殊な加工法を施しているのだろうか。あるいは特別な石材を使用しているとか。森が開けた場所に入り、前方に街が見えてきた。おお、立派な城壁だ、茶色く塗装してある、独特の模様がある変わった石材だな。あの模様見たことあるような、まてよ、あれは木目か、まさか木材? 馬車の中で驚いていると、冒険者らしき男が話しかけてきた。


「はは、兄さん達、ここは初めてかい」


神霊樹の皮でできた城壁だそうだ。見た目は木材だが、鉄並みに硬く、火にも強い。他にも神霊樹から流れ出る水、流れ出る栄養で植物が育つなど、神霊樹は生活にも欠かせないと解説してくれた。そうか、この水がこの大陸の植物を育てているのだろう。場所によっては迷惑になってるとか、なかなか難しいね。冒険者は変わった鎧を身につけている。気になったから聞いてみた。


「これか? この鎧は神霊樹に住む魔獣から作られた鎧だよ」


昆虫系の魔獣の外皮はとても硬く、武器、防具、装具、建材にといろいろな用途があるようだ。馬車が街に入っていく。すべての建物が木材を使用し建てられている、ところどころ昆虫の外皮を使用している。石材がまるで使われていないのは珍しいかな。よく見ると街道も石じゃなくて木材だ。城壁と同じように木の皮を使っている。石材を並べたのではなく木の皮の模様だったのか。不揃いなのはそういうわけか。石を拾って叩くと分厚く硬いゴムを叩いているような音がした。道からは薄っすらと木々の良い香りがする。硬くてもそこは「木」なんだな。一泊して、朝食後、馬車に乗り旅を続ける。地図を広げて現在地の確認。後二つ街を越えた先か、まだ距離があるな。ただ、道が良いので非常に快適な旅ではある。馬車旅始めは揺れるため体のあちこちが痛かった。街を二つ越え、馬車は神霊樹が一望できる街道を走る。周りには神霊樹を囲むように木々と建物が立ち並んでいる。神霊樹から流れ出ている水分が川となって流れている。そこはとても幻想的な場所だった。そしてとんでもなく大きな街。聞いたところ世界でも三本の指には入る規模の街だそうだ。


「ここは神霊樹の街ユナコナだよ」


神霊樹の街に到着。せっかくだからと観光することに。お店には見たことのない食べ物や家具等が数多く置いてある。うまそうだと買って食べてみる。味わい豊かでとても美味しい。樹木から流れ出る栄養素が作物、家畜に行き渡るのだとか。エマがお店の人から情報を聞き出す。ここの食材が気に入ったようだ。


「変わった形だな」


武器や防具が置いてあり特殊な物が数多く並んでいた。昆虫の魔獣を利用した装備品が多い。ただ数が多すぎてどれがいいのかさっぱりわからないな。店員さんに聞いて購入するしかなさそうだ。5日間観光を堪能、まだまだ回りきれないがいつまでも遊んでいるわけにもいかない、観光はまた今度にしよう。情報収集をするためにギルドへ。大きな建物が見えてきた、看板には「第3ギルド」と書かれている。これだけ大きな街だ、ギルドが1つでは足りないのだろう。掲示板をゆっくり見る、仕事は基本同じ。周辺にいる魔獣退治、捜し物等。あれ、神霊樹関連の依頼がまったくないのは変だな。受付の人に聞いてみた。


「神霊樹関連の仕事は特殊でして、ギルドでは扱ってないんですよ。もし、その仕事に携わりたいのなら「神霊樹保護の会」を訪ねてください」


あくまで街のギルドは街のため、神霊樹は専用の組織があるわけだ。保護の会へ向かうことにした。根元の根が少し地上に飛び出していて、広がり自由に伸びている。特大の根が複雑に絡み合い、この場は迷路のようになっていた。


「滑りやすくなっているところがありますから、注意してついてきてください」

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