第17話 拠点

「ありがとう、おかげで今年は国に連絡しなくてもよさそうだ。それから何かあれば言ってくれ協力しよう」


さらに特別品として千年蔓の酒を貰う。この酒は蔓のくぼみに溜まった樹液が自然発酵してできた非常に希少なお酒。宿屋の食堂に移動、ありがたく頂き飲む。


「……」


正直味は微妙だった。珍しければ美味しいってわけではないからね。こういうこともあるさと皆悟っている顔をしているのが面白く思わずにやりとする。


「そうだ、ここを拠点にしてはどうだ」

「いい考えだ」


ここは大陸の中心部、港街も近い、さらに融通もききそう。ギルド長に相談、すると近くにある昔村だったところを使ってもいいと言ってくれた。おお、早くも拠点が手に入りそうだ。喜び勇んで村へいってみる。


「蔓の森だな」

「昔村だった、だからね」


蔓が自由に伸び、ほとんどの家を飲み込み潰していた。それでもいくつか残っていたからまずはそこを整理して使えるようにしよう。拠点予定地を確保しましたと魔獣博士に手紙を送る。家の整頓を行う。住めそうな家を探し、余計な蔓を切ってしまおう。


「任せて」


剣で蔓を切る。切り取った蔓を外に出す。パワーある女性陣のお陰で作業はすぐに終わった。次に火を使える場所を作ろう。蔓に埋まっていたが、地面に石が置かれ、昔使っていたと思われる場所を発見。木を切り、石を敷き、火を使えるようにした。他数軒住めるように片付けていく。村の整備をしていると、博士風の服を着た女の子とメイドの女性が村に訪れた。


「博士助手のルイだ。よろしく」

「メイドのシスです」


ルイは博士の考え方に賛同し彼の助手として動いている。今後の動きとしては、彼女ら二人に拠点にいてもらい、魔獣の管理をお願いする。他大陸に拠点を作った場合、移動してきてもらう。残った拠点は一旦閉鎖かな。


「変わった魔獣がいっぱいいそうだ、腕がなる」


気合が入っているルイ、心強いな。引き続き村の整備をしながらしばらく彼女らと生活。二人が街へ買い出しにった時、テラが思わぬことを口に出した。


「気がついたか? ルイは危険かもしれない」

「ああ、杞憂に終わるといいんだけどね」


三人ともどうもルイが怪しい動きをしていると感じているようだ。独り言をたまにし、支配だの右腕が疼くだのとつぶやいているとのこと。ルイはまだ若い、もしかしたらあの症状かもしれないが危険な思考を持っている可能性も実際ある、注意が必要だな。帰ってきた二人に普段と同じように接する俺達。数日後ルイだけいないときにシスが俺達を集め手紙を渡してきた。手紙にはこう書かれていた。私はルイの母です。我々は元魔王と呼ばれる種族の末裔。大昔魔族と人間は争っていましたが今では仲良くしています。争ったといっても魔族対人間はその一度きり。人間対人間のほうが数多く争っていますよ。現在ルイちゃんは若さゆえの症状が色濃く出てしまっています。本当は心の優しい子なんです、仲良くしてあげてください。ちなみに右腕は健康そのものです。魔王が右腕から発する必殺技みたいなやつがあったようです。


「何卒よろしくお願いします」


厨二病。赤裸々に語られる真実。母親は気がついていてあえて触れないようにしている状態。こんな時期、あったな。自分の身を切られるような思い。本人が聞いていたら泣きながら走って逃げ出すだろう。誰もが通るこの道、皆も心当たりがあるのだろう、ルイには優しくしようということになった。シスは監視役としてルイに付き添っている。実際力も持っていて間違った方向に行った場合危険だからだ。村の整備が終わり一息つく。盛大に宴会しその翌日、ここを彼女達に任せ拠点から出発、旅を再開する。


「くくく、ようやく世界に打って出る第一歩だ。ぐ、右腕が疼く、静まれ。お前の出番はまだ後だ。昔の魔王のように魔獣達を引き連れ世界を支配してやる。直接戦って怪我人は出したくない、あくまで交渉の材料だがな。はっはっは、こうして魔族が再び世界の頂点となるのだ! そして永遠に平和な世界を作り上げてやるぞ!」

「シン様達がいってしまわれましたね」

「あいつらは嫌いじゃない、この世界を支配したときは末席にでもいれてやるか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る