第12話 浮島航海

浮島の航海は特に問題なく順調に進む。いい匂いがあたりに立ち込める、そろそろ昼飯の時間。料理が広間に運ばれてきた。一食付きの航海、朝から出発して夕方になる前には着く予定、もう半分以上進んだ計算になるかな。焼き魚にパン、スープをいただく。食後軽く昼寝をする。


「ふぁーっと、じきに到着か」


目覚めてあとは到着を待つだけと上陸準備を始める。近くに居た男の子が広間から出ようと走っていった。男の子の母親はうたた寝をしている。このくらいの歳の子は元気が有り余っているからな。それにこれだけ不思議なものに囲まれていたら探検したくなるのは当然だろう。だが残念ながら、冒険は冒険者に止められて即終了してしまう。男の子が走っていく先を見ると誰もいない。あれ、そこは隙間があるから冒険者が配備されていたはず。それでも魔獣が襲ってくるのはたまにってことだから大丈夫だろう。現にここまで戦闘は一回もなかった。念の為にSTG画面に切り替え見ておこうか。横画面にする、こうすることで下から魔獣が近づいてきてもわかりやすい。見ると魔獣が近づいてきたことがわかった。誰も気がついている様子はない。慌てて飛び道具が使えるエマに、男の子を追ってくれと頼む。彼女が走っていくと魔獣が重気の海から這い上がってきた。


「ギ、ギィ」


巨大ななまこのような魔獣が浮島に乗り込んできた。そうなんだよ、こういうときに限って、いつもは来ないのに。トラブルってのは重なるものだ。男の子は魔獣を見て腰を抜かし動けなくなっている。魔獣は子供を視認し、前傾姿勢になり今にも子供に襲いかかりそう、そこにエマが羽攻撃、割り込み成功、怯んだ隙に近づくき剣で攻撃、魔獣を撃破。


「ゲェー!?」


断末魔を上げ後方の海に落ちていった。間に合った。魔獣の悲鳴を聞きお客さん達が何事かとエマの方を見る。口笛を吹きながら冒険者が戻ってきた。周りを見渡し体が硬直する。その場の雰囲気を感じ何が起こったのかを察知したようだ、徐々に顔色が悪くなる。島の船首にいた管理者が騒ぎを聞きつけこちらに来て彼と話をする。しどろもどろになりながら説明をする冒険者。


「馬鹿野郎! あれだけ配置場所から動くなって言っただろう!」

「し、小の方を」

「仲間に連絡しろって説明しただろう!」


顔を真っ赤にして怒り狂う管理者さん。何もそこまでとちょっとおもったが今回は危なかったからな。俺がたまたま見ていなかったら男の子は死んでいた可能性が高い。彼が怒るのも無理はないか。


「ありがとうございました」


男の子の親御さんからお礼を。何事も起きなくてよかった。管理者が謝り再出発。


「到着します、降りる準備をお願いします」


陸が見えてきた。陸と言っても浮島が大量に重なっている場所。ここから見ると空中に浮いているようにしか見えない。やはり不思議な場所だなここは。


「いらっしゃい、変わったところだろう。楽しんでいってくれ、歓迎するよ」


陸地に上陸。そろそろ夕方、今日はここまでにしておこう。一泊して、朝起き皆と街を散策する。建物が多数あり、ギルドもある。数多くの樹木が生えている以外は普通の街と変わらないかな、街道は石を敷いているし。観光しながらギルドに寄ってみる。変わった依頼が多い。面白そうだからやってみようと、討伐依頼を受け、街の外へ。移動用浮島に乗り、目的の魔獣が現れる浮島へ移動。狩り用浮島は移動用と違い、樹木が中央に寄っている。わざわざ魔獣が上陸しやすいようにしているわけだな。浮島に乗り込み準備をする。重気の海にいる魔獣を狙う場合は特殊な方法でおびき寄せる必要がある。食べ物を使って魔物を釣り上げるのだ。餌となる魚や果物を縄で縛って、海に投げる。そして、獲物が近づいてきたら掛かる前に餌を引っ張り上げる。こうして陸に上がった魔獣を退治する。


「うわっ、餌だけを持っていかれた」

「もっと速く引っ張らなくては。次は私がやる」


重気は透明なので、普通の釣りとは違い、かなり下の方へ落としても餌に寄ってくる魔物をしっかり視認できる。だが意外と難しい。コツは食べられないよう早めに餌を引っ張り上げること。口をつけられてしまうと持っていかれる可能性がある。餌代もばかにならないからね。テラがうまく誘い、一気に引っ張った。しかし今度は速すぎたため、魔獣が諦めて帰っていった。残念そうに肩を落とすテラ。しかしまさかここで魔物相手に釣りをすることになるとは思わなかった。続けて釣りをしていると雨が降ってきた。雨は重気より重く、重気に触れると落ちる速度が遅くなり、下に落ちていく。重気の海を見ると大量の雨粒が下に落ちていく様子が観察できる。幻想的で不思議な光景が広がる。雨音が激しくなってきた、結構降ってきたな、狩りは一旦やめ、樹木の下で雨宿りをすることに。

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