第11話 重い空気
この先は山脈に囲まれ、独自の自然を保っている特殊な地域。岩山も含め大陸の三分の一ほどの広さを誇る。入国審査がある。冒険者カードを持っている我々は特に問題なく通過できた。それにしても混んでいるな。この国は入口が三箇所しかない。どうしても人が集中するため混んでいる。そしてもう一つ、他の国にはない大きな特徴がある。
「見えてきたぞ」
「わぁ、本当に空洞だ」
「島が宙に浮いて、奇妙な光景になっている」
空中に不自然に浮く島々が見えてきた。浮島は、木々の根本がくっつき重なり出来ている小島。近くに寄って見ると下部の透明な部分では魚や魔獣が水の中を泳ぐように体を動かしながら自由に移動している。この不思議な空間の正体は「重気」と呼ばれる特殊な気体。重気は水と似た性質を持っている。山脈の地下から生み出されている物ではと現地ではいわれているようだが詳細は不明。空気より重く、中に入って泳ぐ事ができる。大きく違うのは呼吸ができること。試しに手を突っ込んでみる。感触は水、服に重気が染み込んだ。顔をつけて、恐る恐る呼吸をする。
「水の中にいる感覚なのに呼吸ができる。不思議な空間だな」
彼女達も重気に顔を突っ込みはしゃいでいる。重気の海を眺めながら街に入る。街の中も混みあっていた。前の街の宿屋の店主からこの街の動き方を先に決めておくといいぞと聞いていた。街の地図を手に入れ準備をしておいてよかった。まさかここまで混んでいるとは思わなかったけど。街の半分以上は宿屋。宿の店員さんが整理券を配っている。配り終わり合図をすると、旗が上がった。満員になったら旗を掲げるのがここの習わし。旗の上がっていない宿屋を探す。何とか宿を取り、食堂でご飯を食べる。魚料理がでてきた。重気の海産。ここの魚は普通の魚と比べて、少しヒレが大きい。魔獣から逃げるため発達したのかな?
「変わった味~」
エマが興味津々といった様子。味わって食べている。筋肉が発達しているのか少し歯ごたえがある。そのため味は魚というよりも肉に近い味。うまいね! ようやく一休みできた。この街を越えれば渋滞は解消されるようだ。とにかく異様に人が集中している。翌日乗船券を買いに行った。当日分は買えず。五日後の乗船券を予約する。
「初めての方ですね、重気の海を歩けるよう訓練しておいてください」
受付から安全のために各自練習しておくようにと言われ、海へ。浜辺に到着、透明だから波は見えないが砂は動いている奇妙な光景が広がる。下部に綿のようなものがついている変わった靴を履いてゆっくりと海に進入。体を靴に預ける、見事に浮いた。動きづらいな、重量がある靴を履いて歩いている感覚。バランスが悪いと滑っていく。歩くのに少々コツが必要だ。その後練習して、ゆっくりではあるが重気の海を歩くことが出来た。慣れれば意外と安定感がある。飛んだり跳ねたりは難しいな。最悪、歩けなくても浮き輪を使えば沈むことはない。ただ、魔獣が襲ってくる可能性を考えると、靴の方が安全、と説明していた。テラとエマは問題なく歩いている。まあもしもの場合は彼女達は空を飛んで逃げられるけど。なかなか面白い体験が出来た。まだ時間がある、その間観光かな。
「何を作っているんだ」
街の片隅に重気を吸い上げている工場があった。中では重気を燃焼させ固め、特殊な箱に詰める作業をしている。固めた重気はすぐに空気に溶け込んでしまうため箱にいれる必要があるとか。出来上がった重気入箱は非常に重い、鉄以上の重さだ。使い道あるのかと思っていたが、場所を取らない錨やトレーニング用品など様々な商品になっているようだった。重いってのも商売になるんだな。
「ご予約の三名様ですね、どうぞ」
ここでの乗船券、浮島移動券を購入。その名の通り浮島を船代わりにして移動する。この国では一般的な移動方法だ。他にも普通の手漕ぎ船、帆船等に乗って移動という方法もある。どちらも高価、船はお金持ちや貴族が好んで乗る。船だと通常の警備と船体の警備も必要になるから高くなるのだとか。混んでいなければ高くてもと確認してみたが、こちらはもっと混んでいたためやめた。貴族達はかなり前から予約している。
「こちらになります」
重気の海に浮かぶ木々の塊、浮島に乗り込む。浮島の管理者らしき人が乗客に挨拶をする。
「皆さん、浮遊靴、浮き綿は購入しましたね。ちなみにこれらに使わっる綿は浮島の根から採れる物なんですよ」
半裸の若い男が重気の海に飛び込む。少しして白いワタの塊を取ってきた。重気の海に放り投げるとワタが浮いた。この物体のお陰で浮島は浮いているわけか。浮島は高額だが一般でも購入し手にいれることができる。ただ、魔獣が出現したり、移動が意外と大変なので購入はおすすめしませんと管理者が言う。お金持ちが気に入って購入、渋滞を嫌って購入した際に事故が起きることが稀にあるそうだ。
「この広間から出ないようにしてくださいね。航海中は魔獣が現れます」
屈強な冒険者が持ち場に立つ。たまに魔獣が乗り込んできて襲うこともあるとか。
「では出発します」
島の後方に座っていた筋骨隆々の男たちが係留索を外し、定位置に座る。取り付けられている櫂を手に取り、漕ぎ始めた。手漕ぎなんだな。動き始める浮島、大変そうに見えるが意外と楽に漕げると管理者の人。風が強い日は大変ですがと苦笑いをする。木に囲まれているから、その隙間から少しだけしか景色が見えないのは残念なところだ。まあ魔獣の侵入防止になるようだから仕方がないか。移動用浮島は魔獣対策として木が島を覆うようにして成長している。密集が薄く、隙間が開いているところに冒険者が配備されている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます