第9話 勇者
三人は旅を続け北東側最大の都市ミハセに到着する。ここは海に面していて貿易が盛んな街。大陸一の魚介の宝庫、数多くの漁船が海に繰り出している。街道を歩いているだけでも魚を調理するよい匂いが流れてくる。すでにテラの目の色が変わっている。冷凍庫の食品が尽きている、ここで補充していけばいいだろう。近くに多数の魔獣が住む場所があり、この街にいればカンストまで楽に進めることができる。私はここで上限まで上げたよとエマ。他、闘技場があり日々力を磨いている人達がいるとか。様々な施設、観光場所があるが、この街について最初にいく場所は決まっていた。
「美味しい魚介を食べられる場所がたくさんあるんだ」
そう、海の幸。晩御飯は魚介を出すお店へ。多数の料理が眼前に並ぶ。いただきます! こいつはうまい、料理人のエマが勧めるだけのことはある。どれを食べてもうまい。白ワインも一緒に味わいながらあっという間に平らげる。
「勉強になる」
エマはメモを取っている。テラも満足している。しばらくは食事観光しながら滞在することになりそうだ。その間、レベルが上がりそうだから魔獣討伐の仕事でもやっていこう。ゴブリン戦のおかげで結構経験値が入ったんだよね。翌日から三食海鮮料理を食べながら魔獣討伐をする。焼き魚や煮込みに刺し身。日本にいた頃を思い出すなぁ。この間にエマに搭乗した際に自由に動かし羽を飛ばす方法を話し合い決める。背骨の出っ張っているところを操縦桿、皮膚が見えているところをボタンのように押し羽を発射することに。戦闘を続け五日後レベルアップ。新しい能力を得た。契約した者の能力アップを習得。
「力が湧いてくる、限界を超え強くなったのか!」
調べるとテラはチャージ攻撃が可能になっていた。即発動は出来ないが、エネルギーを貯めることでいつもより高威力のブレス攻撃を放つことができる。エマは再発射速時間短縮、連射力が上がった。他圧縮玉3つ、魔獣玉2つを使用可能に。地上に降り休憩、それから乗っていない状態でも戦闘画面、ステータス画面を出せるようになった。これは地味に嬉しい追加。
「ん? 人になっても強くなっている」
「私も」
人形態にも効果が出るようだ。強くなったと喜ぶ彼女達。普通はカンスト以上能力が伸びるというのはありえない。俺は一般人のままだけど。さて、レベルが上ったことだし観光に切り替えようかな。翌日から船に乗り遊覧、見世物等観光を楽しむ。
「ここは格闘場だな」
数年に一度、最強の格闘家を決める大会が催されるとか。中では格闘家達が訓練をしていた。その中に一人、ずっと戦い続けているとてつもなく強い人物が。
「どうした、俺にかかってくる者はもういないのか」
彼女はこの地域では一番と言っていいほどの有名人。格闘家最強候補、特殊クラス勇者の格闘家、獣王サキア。ライオンのような髪、尾はヘビのキマイラ人という獣人の女性。勇者は貴重なクラス。しかも他のクラスよりレベル上限が高い。戦闘スタイルは格闘家。勇者は現在五人確認されていて、彼らは五勇者と呼ばれている。とにかく圧倒的な力を備えている。強そうだなとテラに声をかけたが彼女がいない。おいおいまさか。
「竜人を差し置いて獣王を名乗るのは気に入らないな」
「周りが勝手につけた二つ名さ。ははは、試しにやってみるかい」
二人共戦闘態勢に入る。もうこうなると止められないな。頑張れテラ!
「ふっ!」
テラがローキックを放つ。読んでいたのか足を膝に乗せ蹴りの発動を封じる。その反発力を利用し回転しながら尻尾のミドル。これを飛んでかわし、尻尾を起点に回転、ボディに拳を叩き込むテラ。が、すぐに拳を引っ込める。サキアの尻尾の噛みつき攻撃が空振りに。続けざま逆さの体勢から蹴りを放つ、それを後方に退きかわすテラ。着地するサキア。
「見えなかった……」
あまりの速さの攻防に周りの人には見えていなかったようだ。何故か俺は見えていた。能力の影響だろうな。高速の弾を避けているから。
「やるな」
「お前こそ。まだ先の話だが最強を決める武道大会があるんだ。出てみないか」
「考えておく」
駆け寄りサキアに声を掛ける。
「獣王サキア、よかったら仲間に」
「悪いね、俺は誰ともつるまない主義なんだ」
振られてしまったか、仕方がない。孤高の戦士とは聞いていたから難しいのはわかっていた。まあ会ったばかりというのもあるけど。帰り際、楽しかったと笑いながら闘技場を後にするサキア。お互い本気ではなかったが、強化されたテラを軽くあしらう強さを見せる。勇者、恐るべし。
(あの竜人、明らかに限界を超えている。強さは互角といったところか。それから連れの男、一般人にしか見えないが我々の攻防をしっかり見ていた。面白い奴らが世の中にはいるものだ)
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