第7話 キャンプ

しばらく歩き日が落ちてきた。そろそろキャンプの準備をしよう。まずは寝る場所。縦長な小さめのテントを二つ張る。耐水性のある魔獣の革製、強度もなかなか。中にマットと毛布を入れる。寝る場所の感触をテラに確かめてもらう。


「こ、これは!」


気に入ってもらえたようだ。最近開発したキャンプ用のマット。ある魔獣の皮を加工して袋に詰めた、低反発マットのような物。ふふ、これから冒険者達の間で流行るかもね。さてキャンプの準備を進めていこう。石を囲うように並べその中に拾ってきた木の枝を入れる。ナイフを使い木材を削りおがくずとフェザースティックを作る。袋から取り出したある魔獣の牙、この牙はファイヤースターターと同じ、とがった金属を使い擦ると火花が飛び散る。ナイフの裏で擦り火花を発生させる。燃え移り、今度は焚き火の枝へ火を移す。魔獣の角でできた火吹き棒を使い火力を上げる。


「魔獣製品がたくさんあるな」


このように魔獣の加工品は生活と密接に関わっている。人類の敵だが彼らのお陰で生活が豊かになっている。最近増えすぎてるけどね。火がつくのを見ていた近くにテントを張っている冒険者が、チーズと鍋を持ってこちらに近づいてきた。


「火を貸してくれ」

「いいとも」


御駄賃とばかりにチーズをこちらへ。鍋を焚き火の上に置く。豆のスープか。火の管理は結構面倒。燃える物が常に欲しいからね。火の貸し借りは日常的にある。さて、こちらもそろそろ調理を始めるか。テラが持ってきた荷物はいうなれば冷凍庫。中にはなんと生の魚の切り身等の魚介類が入っている。子供の頃沿岸部で食べた生魚を大層気に入り、それを見ていた王が内陸部でも生魚を食べられないかと料理人達に相談した結果、試行錯誤の末、冷凍庫が完成した。しかし冷凍庫は定期的に冷気を吹き込まなければならない。氷属性の獣人のみ使える。テラは氷のドラゴンだから使用可能。いつでも美味しい生魚を食べられる。現在この冷凍庫は竜人王の料理人しか使ってない。そもそも内陸部は、いつでも新鮮な魔獣の肉がある。冷凍した食品はどうしても味が少し落ちる。相当好きでないとここまでやらないわけだ。魚を切り分け皿に移し、料理人に教えてもらったソースをかける。コップにワインを注ぐ。


「あーうまい」


ご満悦のテラ。よほどお刺身が好きなんだな。もらったチーズもワインと一緒に。肉を適当に切り野菜と一緒に鍋にいれる。こちらも今日は鍋、肉鍋。それと固いパン。スープかワインにつけてふやかしてから食べる。しばらくして鍋が完成。ふむ、我ながらなかなか美味しい。パンをひたし食べる。パンが本当に美味い。竜人国から持ってきたパン。あの国の料理人はすごい腕だな。夕飯を食べ終え焚き火を囲んで談笑、お互い眠くなってきたから火を消し寝る。朝になって再び火を起こしスープとハーブティーを作り朝食を食べる。こうしてまた旅に。食べ物がうまく睡眠も良好。良い旅になりそうだ。しかし、何事も予定通りにはいかないもの、旅を始めてから10日。順調、とはいえず。


「今日も美味しい」


現在昼食中。彼女は素直だ、顔に出ている、飽きたと。もうレパートリーは尽きて三周目くらい。旅中だと物資は限られるし、そもそも料理は専門ではないからな。我慢してもらうしかない。食事をしていると赤髪、背に羽が生えている女性が近づいてきた。火を借りたいのかな。


「それって生魚だよね? こんな内陸部なのに」


興味津々といった様子でこちらに問いかけてきた。冷凍庫や氷のドラゴンという情報は漏れてもそこまで問題はないか。冷凍庫のことを説明する。


「へー珍しい物持ってるね。私も一度考えたことがあったけど無理だと諦めたんだ。そっかー冷凍庫か」


冷凍庫を見ながら座って考え事をしている様子。顔を上げると急に立ち上がった。


「よし決めた、仲間にして!」


よほど冷蔵庫が気に入ったのか、仲間入りを希望してくる赤髪の女性。どうしようかとテラと顔を見合わせていると、仲間にすると良い特典がついてくるとウインクをしながら料理を始める。肉を取り出し、下処理をすると焼き始めた。肉の焼ける香ばしい匂いがあたりに立ち込める。焼き終えると我々の前にステーキを出した。食べてみる、うまい。すでに食事は終盤、もう入らないと思っていたが余裕で食べられる。なんという腕だ。現代社会でもここまでのものは食べたことはない。テラもあまりの美味さに驚いているようだった。


「まあこれが現在作れる最高の料理だけどね。全部このレベルじゃないから期待されすぎるときついかも」

「採用!」


満場一致、彼女が仲間になった。正直俺も自分の料理には飽きていたところだった。それにしてもなんてタイミングだ。欲しいときに欲しい人が来た。彼女が湯を沸かそうとしている。おっと火が消え始めている、燃えるものを拾ってくるか。大丈夫、このくらいなら、そう言うと彼女は口から炎を吐き出した。強すぎず弱すぎずの炎を操り湯を沸かす彼女。料理人にして火まで自前で取り扱えるのか。


「私は炎を操る鳥人。冒険者としてもレベルは最高値までいっているよ」


どうやら変身もでき、飛び道具も持っているようだ。もしかしたら彼女に乗り戦うことができるかも。いきなり変身して乗せてというのは焦り過ぎだな。そこは徐々に。食事を終え、仲間になったということで彼女にマットを紹介する。


「これは最高だね」


気に入ってもらえたようだ。となると一度街に戻ろうかな。飛んでいけばそんなにかからないはず。そういうことならと変身し乗せてもらえることになった。彼女が炎の鳥に変身。背に乗る俺。STG画面が表示される。彼女に乗って戦闘ができそうだ。まあ今回は移動だけにしておくか。俺の能力も説明しづらくある程度秘密にしておきたいからね。様子見といったところ。こうしてマットを取りに街に戻った。どうせならと予備にもう一つ、合計二つ持って戻る。今回みたいに急に仲間になる可能性があるからね。マットの良さを広めたいし。テラと合流、改めて自己紹介。


「私はエマ、よろしく」

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