第2話 覚醒
遠くから激しくぶつかりあう音が聞こえた。もしかして魔獣か? その場に止まり、音が下方向に向き直りいつでも眠りの香を使えるようにする。ここは見通しがいい、魔獣が近づいてきてもすぐわかる。さあ、いつでも来やがれ!
「グォォン!」
魔獣が咆哮を上げながらこちらへ向かってくる。眠りの香に火を付ける。これで勝ち確だ。でもあれ? ちょっと大きい気がする。まあ個体差はあるからね。いや、とんでもなくでかい。そもそも見たことがない魔獣だ、香なんて効きそうにない。凄まじい速さで近づいてくる魔獣、逃げることすら出来そうにない。ああ、俺の人生はここでおしまいか、何も事を成せなかったのは心残りだがこうなっては仕方がない。覚悟を決めていると急に体が浮き上がった。もしかしてこれが天に召されるってやつか。いや魔獣から攻撃されていないのに死ぬのは変だ。上を見ると竜が俺の肩を掴み飛んでいることがわかった。た、助かったのか! この竜に見覚えがある。あの時帰ってしまった王女様だ。彼女が助けてくれたようだった。そして周りには竜人達が飛んでいる。彼らの背には王城に住む人達が乗っていた。
「ふん、背に乗せるのは将来を約束した殿方だけと決めていたのだがな、このままでは危険だ、仕方がない乗れ」
「王女様は本当は優しい方なんです」
「うるさい」
「あ、ありがとうございます」
文句を言いながらも掴んで飛ぶだけでは危険と背に乗せてくれるようだ。前足を使い俺を背中に移動させた。死ななくて済みそうだと安堵する。だが彼女の背に乗った瞬間、脳に衝撃が走る。
「うぐっ」
急激に頭の中に多数の情報が流れ込んできた。これはどこかで見た光景、そうだ、STGの画面だ。いくつかの画面が俺の頭の中に表示される。縦画面、横画面、3Dタイプ、ステータス画面。好きな画面を選べ、ステータス画面以外は竜人と魔獣の追いかけっこを表示している。
「どうした、怪我をしていたか」
「いや、大丈夫です」
俺の頭の内部の状態を説明しても場が混乱するだけだろう。今は急いで逃げている状況だからな。5体の巨大魔獣が追ってきている。王の配下が魔獣が追ってきていることを伝える。多数の人を乗せているから速度がだせない、これでは人間達を降ろして戦うことができん、と答える王。王女から声をかけられる。囮をしようと思う、奴らは空を飛ぶ相手には攻撃ができない。そちらに危険が及ぶことはないはず。どうだと提案が。俺を安全な場所に降ろしている余裕はなさそうだ。魔獣のことを知っていそうだし、彼女が安全というのなら大丈夫だろう。俺は構いませんよと返す。
「父上、私が囮になろう」
「ふむ、奴らが相手なら大丈夫か。乗せている者ともすでに話は済んでいるようだな。わかった、だが無理をするなよ」
「いってくる」
彼女は振り向き少し高度を落とし、ホバーして攻撃の体勢に。ドラゴンの代名詞、ブレス攻撃だ。
「ダイヤモンドブレス!」
近づいてきた巨大魔獣に向かって凍てつくブレス攻撃を放つ。先頭の魔獣が凍りつき絶命、一度魔獣達の進撃が止まる。こちらへ来いと挑発し魔獣をおびき寄せる王女。挑発は成功、王女を追ってくるように。この動きを見ていた王達は下降を開始。人を降ろし終えればこちらと合流、その後は殲滅という流れだな。森に向かって飛んでいく。縦画面視点で見ていたが、上方部の森が少し動いた。その後一気に上昇、巨大な樹木の魔獣が眼前に現れる。
「こんな接近した距離でバーストツリー!? まずい!」
バーストツリーの上部からぶら下がっている大きな袋が複数爆発。中に入っていた巨大な種がこちらに向かって飛んでくる。その威力は追ってきた4匹の魔獣を死滅させるほど。回避行動をとる王女。しかし何発かは回避しきれずダメージを受ける。画面をよく見ると彼女のHPが表示されている。残りが少ない。種の攻撃力を考えるとあと一発でもかすればおしまいか。バーストツリーの目が俺達をとらえる。体を動かしこちらに向きなおる。
「これ以上は耐えられん。しかもやつに補足された、怪我したこの翼では飛んで逃げるのは無理だ。お前はここから飛び降りろ、下は森だ。運が良ければ生き残れる。死んだら、すまんな私を恨むがいい」
「王女様はどうされる?」
「もはやここまで、潔く突っ込むさ」
満身創痍、動きも遅くなっている。だがこんな窮地なのに何故か懐かしい気持ちになる。そうか、機体がやられたときにぱパワーアップ状態がないすっぴん機体で途中からスタート、STGではよくあるシチュエーションだ。そして多数の修羅場をくぐり抜けてきた。絶対復活は無理だと言われたゲームもクリアしてきた。今の俺なら、やれる。
「気高く少々わがままだが本当は心優しい竜の王女よ、アンタは俺が殺させない」
「き、急にどうした」
「右に避けろ!」
言われた通り動く王女。種の弾丸を見事かわす。
「こんな状況だから敬語はなしでいかせてもらう。俺ならこの状況を打破できるかもしれない。どうせ死ぬつもりなら俺に任せてみないか?」
「‥‥わかった、お前に賭けよう」
「俺の名はシン、よろしく頼む」
「テラだ」
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