第3章 第2話-2

転生g@me

第3章(STAGE3) 仮想の生活


2.試練ミッション


<CB>本社

 その日、藤雄はゲームクリエイター発掘・育成とインターン制度の企画案を通すために企画会議に参加していた。彼のために、各部署の責任者<CB>上層部の人間が集結しており、それがプレッシャーになった。


「…以上で説明を終わります」

 藤雄は緊張しながらも、企画案の実施を目標とし、必死に独自の意見を述べていった。聴衆の反応の方は…


「…すっかり忘れてたな、生憎、ウチは人材不足ではないんだが…」

作り手クリエイター書き手シナリオライターはちゃんと揃ってるし…今更、新人を見つけると言ってもね~…」

 藤雄の企画案プランに対して、冷ややかな態度を見せる者は少なくなかった。

「現状を維持するために必要ない案だ、残念だが通すわけには…」

 社長の伸郎のぶろうの返事で、藤雄の苦労が水の泡になるかと思われたが…


「…ちょっと待ってくれないか」

 その時、重い空気を吹き飛ばす一声が発せられた。

「…晃司!」

 伸郎たちに語りかけたのは、副社長の晃司こうじだった。

「彼の味方になる気か?」

「そういう言い方はないだろう、そもそも、社長あなたの発案だろ?」

「そうだが…今やるべきことじゃない」

「では…いつやるんだ?白紙ボツ寸前の企画案をわざわざ開拓してくれたんだ、実施するべきだと思うが…」

 晃司は助け舟を出して、藤雄の運命は変わりつつあった。


「…分かった、一応通すことにしよう、ただし、我が社に支障をきたした場合、責任を取ってもらう、覚悟するんだな」

 伸郎は藤雄を睨みつけて、脅しとも取れる言動を浴びせた。

「彼ばかりに責任を負わせては可愛そうだ、俺も処分を受けよう」

「好きにしろ、私はで忙しいんでね…」

 何はともあれ、藤雄はひと仕事を終えて、安堵していた。そして…


「…昼飯、一緒に食べないか?」

 藤雄に優しく声をかけたのは、晃司だった。二人は社内食堂で昼食を取ることにした。

「さっきはありがとう、助かったよ」

「気にするな、実のところ、社長あいつのことが嫌いでね…」

「君には感謝している、こんな僕を雇ってくれて…」

 藤雄は一旦箸を止めて、親友に感謝の意を述べた。


「本当なら、お前を社長にしたいが…もう甘やかすわけにはいかない、味方を多く作りたいなら、自力で偉くなるしかないぞ」

「そうだな…僕には甲斐性や貪欲さがないからな~困ったもんだ」

「お前の欠点はよく知っている、もう一歩踏み出してみたらどうだ?」

 藤雄は、晃司に勇気づけられて、自然と笑みをこぼしていた。


「…社長はで頭がいっぱいなんだろう」

「ああ、VR会社との業務提携…そのことなんだが…」

 その時、晃司の声のトーンが落ちて、彼は厳粛な表情を浮かべた。


「どうした、大丈夫か?」

「いや…もう仕事の話はやめよう…奥さんとは仲良くやっているのか?」

「ええ…まあ…怒られてばかりだけど…」

「早く安心させないとな、お父さん~」

 藤雄たちは雑談で盛り上がり、お互い午後からの仕事に備えた。


「…会議の方はどうでした?」

 藤雄が担当部署のフロアに戻ると、浩人ひろとと数人の部下が彼に歩み寄ってきた。

「どうにか、企画案が通った、これから忙しくなるぞ」

 企画部に属する社員たちは、藤雄の吉報を耳にした途端、活気立って上司を敬った。

 藤雄は仕事の要領を掴んでいき、別世界の環境に馴染んでいった。物事に熱中していれば、時間は短く感じる。気づけば、対処時間を迎えており…


「クリエイター募集のホームぺージ、広告サイトの制作は順調です、インターン募集のサイトも内容を更新しました」

「ご苦労さん、今日はこの辺で切り上げよう」

 藤雄率いる部署チームは、残業せずに帰り支度を行っていた。そして…


「部長、今夜はどうします?」

「そうだな、久々に飲むか…と、その前に…」

 藤雄は部下の誘いに乗ったが、注意深く誰かに電話していた。


「…奥さん、怒ってました?」

「いや…許可が出たから飲みに行こうか」

 博行は上司を気遣ったが、藤雄は交渉の末、夜の社交が許された。

 藤雄は同僚を<のんべぇ>に招待して、美味い酒を共に味わった。



「ただいま~」

「お帰りなさい~」

 藤雄は門限を守って、我が家に帰還した。普段なら、仁王立ちの妻が待ち構えていたが、今夜は様子が違った。

「はい、を待ってたんだろ?」

「ありがとうございます~」

 藤雄は水帆に給料が入った茶封筒を渡した。今日は何かと水帆の機嫌が良かった。


「こっちも嬉しいことがあってね、朝バタバタしてたから言えなかったけど、忍がね、今度、同窓会するから集まらないかって…」

「どうせ、彼女が幹事するんだろ?」

「うん…それとね、今務めている職場バイトの給料が上がってね、社員登用も考えてくれるって!」

「良かったな、実はこっちも順調でね、もしかしたら、昇進するかも…」

「マジ?何か急に幸福しあわせが舞い込んできたわね~」

 藤雄たちはお互い、心の底から歓喜して、自然と抱擁していた。そして…

 

 藤雄たち夫婦はじっと見つめ合い、良いムードに包まれていたのだが…


「お母さん~まさちゃんがね~おねしょしたよ~」

 藤雄たちは、実娘みほの声で我に返った。藤雄は別世界の生活に慣れてきたわけだが…


「………」

 藤雄一家宅の上空を見ると、何やら人影があった。藤雄を別世界に案内したザゼルだった。彼は藤雄プレイヤーをずっと監視していた。

 まもなく、藤雄の別世界生活ゲームプレイに幕が下りようとしていた。

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