第3章 第2話-1

転生g@me

第3章(STAGE3) 仮想の生活


2.試練ミッション


 朝日が昇り、新しい一日の幕が開こうとしていた。朝の光が海原に反射して何とも絶景だ。

 藤雄は徹夜で仕事していたようだが…


「お早う~…!」

 藤雄は寝不足の顔で、家族に挨拶するのだが…


「お早う、酷い顔ね」

 藤雄の眼前には、彼の子供の面倒を見ている忍の姿があった。さらに朝食を作ったのも彼女で…


「まだ出掛けなくていいのか?」

「うん、あなたの後に出ても充分間に合うわ」

「あっそう…」

 藤雄はいつもと違う朝の光景を目にして、馴染むのに時間を要した。


「…忍がいて助かるわ~家事しごとが捗る捗る~♬」

 珍しく、水帆は朝から機嫌が良かった。

「…何か手伝えることはあるか?」

「特にないけど…出掛ける時にごみ捨て忘れないでね~…」

 藤雄は上機嫌の妻に驚愕しながら、仕事用の服に着替えようとするが…


「もう、このスラックスも限界だな…」

 藤雄が履いているスラックスは解れている部分が多く、ぼろぼろの状態だった。そして、ぶつぶつと呟く夫を妻はちゃんと見ていた。

「…確かもう一着、同じのがあったはずだけど…それ、ちゃんとしておくから~」

 水帆は冷静に夫の悩みを解決して、持ち場へと戻って行った。藤雄はのスラックスを履いて、出勤準備に取り掛かった。


 藤雄たちの家計せいかつはぎりぎりで、新品の服を買う余裕もなかった。ちなみに、彼らの家の中の物品は、中古品や貰い物ばかりであった。

家具は独身時代のものを使っており、生活家電も長い間買い替えていなかった。

 水帆は、リサイクル店でアルバイトとして働いているため、中古品に詳しく、インターネット経由のフリーマーケットで買い物をしていた。

 また、食事に関しては外食や出前デリバリーを極力避けて、安売りの食品で工夫した手料理を家族に振舞っていた。

 別世界の藤雄は水帆に頭が上がらず、家のことは彼女に全て任せていた。


「お早うございます~」

 藤雄は隣に住んでいる幸作と顔を合わせるのだが…


「…どうしたんだい?何かいつもと違うな?」

「え…そうですか?」

 幸作は藤雄の異変に気づいた。

「まるで別人みたいだ、活き活きしているな」

「…実は今日、大事な企画会議プレゼンがありまして…」

「それで気合を入れているわけか、結構結構~」

「出世を懸けているんで…もう家族に苦労させたくないんです」

「…僕も若い時、かみさんに迷惑掛けていたよ、子供の学費も稼がないといけなかったし…がむしゃらに働いたもんだ」

「うちの子はまだ小さいもんで…家族のために頑張らないと…」

「その意気だ、良かったら今度、一緒に飲まないか?奢るよ」

 藤雄は幸作に激励されながら、最寄り駅まで歩いて行った。彼に変化が起きているのは間違いなく、この先の展開は予測不可能だった。そして…


「ふ…」

 藤雄とすれ違って、静かにほほ笑む者がいた。それは何を意味するのか、物語は佳境に入ろうとしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る