第3章 第1話-1
転生g@me
第3章(STAGE3) 仮想の生活
1.
藤雄は
「
「あら、久しぶりね」
忍は藤雄の存在に気づき、すぐ相席した。彼女は<のんべぇ>の常連客で、煮魚定食と当店自慢のおでんを注文した。
「そうか…この世界では結婚式以来会ってないんだな…」
「何ぶつぶつ言ってんの?」
「いや…単なる独り言さ」
「大丈夫?結婚生活は順調なの?」
「ああ、何とかやってるけど…」
「
忍は、水帆のことを心の底から心配していた。藤雄は彼女に押されて、まともに言い返すことが出来ずにいた。
「…そうか、そろそろ帰らないといけないな」
別世界の藤雄の家は都内ではないため、<のんべぇ>で長居する余裕がなかった。彼は慌てて勘定を済ませようとするが…
「ちょっと待ちなさいよ、私も…帰るわ~」
忍はかなり酔っていた。二人は<のんべぇ>を出た後、それぞれ帰路に就こうとするが、ここでまた想定外のことが起ころうとした。
「お前は何で帰るんだ?タクシーか?電車か?」
「えっとね~…」
忍は目が虚ろで、ふらふらと千鳥足の状態だった。
「おいおい、しっかりしろよ」
「…よ~し決めた!今からあんたの
「何馬鹿なこと言ってんだ?家族がいるんだぞ」
「友達なんだから良いじゃない、あんたらの子供見たいし~」
「やれやれ…」
藤雄は面倒なことに巻き込まれて、仕方なく忍を連れて帰宅することにした。
「…カタン…コト…コト…ン」
藤雄たちを乗せた夜間の鉄道車両は、都会のまばゆい光を抜けていき、駅に停車する度、
車内にはまともな乗客がほとんど存在せず、酔いつぶれて誤って終点まで乗り過ごす者は少なくなかった。
藤雄たちはというと…
「く~か~…」
忍は藤雄の肩に寄り掛かり、ほろ酔い状態のまま眠っていた。
「………」
藤雄は、無言のまま俯いていた。彼は浮気しているような気分を味わっていた。なお、現実世界でも忍と夜の時間を過ごしている。
その時に驚愕したことは、忍の
藤雄たちは車両を乗り換えなければならない。自然に恵まれた環境を走行する民間路面鉄道、乗客は彼らだけだった。
「…こんな遠い場所から通ってるの?」
「ああ、慣れればどうってことないよ」
「そうかな、やっぱり都会の方が良いでしょ」
藤雄は忍の正論を分かっていながら、本音が吐き出せずにいた。彼は現実世界が恋しかった。
無人駅を降りて、海側を目指して約十分ほど路地を歩くと、藤雄の住家へとたどり着く。
「ただいま~」
「…お帰り、遅かったわね」
「ちょっと寄り道してたんだよ」
「あっまさか…また飲んで来たの?給料日前なのに!」
夫婦の日常会話が展開されていき、藤雄はダメ夫ぶりを披露していた。
「これでも早く帰ってきた方だ…それで友達連れてきたんだけど…」
「友達?」
「ああ、飲み屋でばったり会ってね…おい、入って来いよ」
「どうも、今晩は~」
「え…まさか、忍?」
「元気してた…悪いけど水くれない?」
不機嫌な水帆は親友の顔を見ると、自然と表情が和らいでいった。忍は厚かましく藤雄たちの家に上がり込んだ。
「…そう、記者の仕事続けているのね」
「ええ、ようやく新人を卒業して、仕事が面白くなってきたわ」
忍は水帆に水を貰って、アルコールの酔いから解放された。藤雄たちは応接間で雑談を始めるのだが…
「忍はジャーナリストになりたいって言ってたもんね、夢が叶ったわけだ」
「まあね、そのうちフリーになるつもりだったけど、
「…結婚とか考えてないの?」
「今は予定なしよ、仕事が楽しいから…そっちは順調?」
忍が訊ねると、藤雄・水帆夫婦は複雑な表情を浮かべた。
「…見てのとおりよ、生活はぎりぎりだからね」
「面目ない…」
藤雄は
「あなたたちが結婚したの、大学を卒業してすぐだったよね?」
「ええ…後先考えずに決めたのが失敗だったかな~」
「あなたが務めている職場ってゲーム会社でしょ、ほんと好きよね~」
「もう少し頑張ってもらわないとね~、給料全然上がらないし…同期や後輩に追い越されているし…ぶつぶつ…」
「………」
藤雄は毒を吐く女性二人に挟まれて肩身が狭かった。現実世界と違い、別世界の彼は惨めな人生を送っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます