第2章 第3話-1

転生g@me

第2章(STAGE2) 愛しき夢路


3.現夢りそう


 藤雄はザゼルの不思議な力によって、別世界アナザーワールドへと足を踏み入れていた。そこで彼は水帆と結婚しており、二人の子供を授かっていた。

 現在の藤雄の住居は、都内の摩天楼ではなく、関東地方の中古借家だった。都会の喧騒から離れた古き良き日本の光景が残る土地、桜や紅葉見物、グルメスポット、海水浴、温泉、神社仏閣巡りなど、観光名所や娯楽はいくつもあり、彼らはそんな環境の物件に憧れていた。ただ、経済面の事情から新築に住めず、かなり生活苦のようだ。


「はあ~」

 藤雄は、自宅のトイレに閉じ籠って独り深い溜息をついていた。さっきまでいたザゼルは一切現れることなく、彼は不安感に駆られるわけだが…


「コンコン…」

 突如、トイレ扉にノック音が響き、藤雄は心臓が止まりそうになった。鬼のように恐い水帆つまがやって来たかと思われたが…


「お父さん~まだ~?漏れそうだよ~」

 藤雄はトイレの扉越しで、実娘の声を耳にした。彼女は困り果てた顔で自身の体をもじもじさせていた。

「…あっごめんごめん」

 藤雄はひとまず実娘に謝って、トイレから出た。


 藤雄の実娘の名は美帆みほ。四歳だがしっかりしている。明らかに母親似である。藤雄は実娘みほのことを〝チュートリアル〟機能で調べた。そして…


「用意できたから、さっさと食べといてね…」

 藤雄がダイニングルームに向かうと、卓上には炊立てのご飯に味噌汁、卵焼き、漬物など馴染みの日本の朝食が並べられていた。ちなみに時折、トースト、ハムエッグ、コーヒーの場合がある。


「…子供たちをちゃんと見ててね…さてと…」

 水帆はきつめの口調で夫の藤雄に話し掛けて、洗濯物が積まれた籠を持って、作業を続けようとした。

 朝から水帆ママは何かと忙しい。朝食の準備、洗濯など家事をこなして、我が子を保育園と幼稚園へと送らなければいけない。さらにはパートの職場に行くわけだが…


 藤雄は、我が子とぎこちなく朝食を取った。彼は妻の味付けを知り、出勤の準備に取り掛かるのだが…


「…あれ?何処かな~」

 藤雄は仕事で着ていく服が見つからず、仕方なく妻に訊ねた。

「スーツ?あなたの職場って私服フリーじゃないの?」

「え?」

 どうやら、藤雄の会社は役員だけがスーツで、その他の社員(派遣・バイト・インターン含む)は普段着カジュアルのようだ。つまり…


「僕はじゃないのか…成程」

 ようやく、藤雄は現状を把握していき、季節に合ったカジュアルジャケットを着用した。おまけに別世界では、藤雄は眼鏡をかけている。冴えない雰囲気が一層


「行ってきま~す」

 藤雄は覇気のない顔で自宅を出ようとしたが…


「…ちょっと待って、よ」

 藤雄は水帆に呼び止められた。彼はドラマのような出勤前のキスを期待したが…


「これって…」

「ごみ捨てといて、まだ間に合うはずよ」

 藤雄は水帆にごみ袋を渡されて、しみじみと現実を味わった。

 本来ならお抱え運転手の送迎車、または高級車で出勤するのだが、今は公共交通機関を利用しなければならない。


「わう!」

 玄関に一匹の雑種犬がいた。名はノビ(雄)。彼も家族の一員で、主人ふじおに別れの挨拶をするのであった。

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