第2章 第2話-1

転生g@me

第2章(STAGE2) 愛しき夢路


2.使者ホスト


 藤雄の前に突如、謎の青年ザゼルが現れたのだが…


「勝手に人の家に入り込んで、何の冗談だよ?帰れ!」

「別にからかってないよ、真面目な話だ」

「この世界の者じゃないと言ったな、何処から来た?」」

「できるだけ分かりやすく説明するけど…」

「………」

 藤雄は納得のいかないまま、ザゼルの話を聞くことになった。


「俺の住む世界は万物を管理する聖域だ」

「万物…?」

「宇宙上に存在する、ありとあらゆるもの…星や生物の他に空間や時間も管轄内だ」

 藤雄はザゼルの話について行けそうになかった。

 ザゼルの説明によれば、万物は探求・創造・破壊・構築で成り立ち、〝万物連鎖〟と総称されているそうだ。彼は創生された万物を管理する部門に所属しているようで…


「君たちの世界で言うと、神様みたいなものかな、俺はまだ新人みならいだけど…」

「…君は歳いくつだ?年下に見えるけど…」

「想像に任せるよ、よく年齢より若く見えるって言われる」

「………」

 藤雄は家酒さけを飲んで、気を落ち着かせようとするが効果は無かった。


「我々の仕事は君の仕事と似ている、ゲームのようなものだ、無から有を創る創造主クリエイターさ」

「とても信じられない、この状況は夢であってほしいよ」

「急な訪問をしたことは謝るよ、今日、友人の命日だったんだろ?」

「何故、そのことを?そういえば、僕の知り合いに変身したな」

「君のことは調査リサーチ済みだ…大人しそうに見えて、隅に置けないな」

「それはどういう意味だ?」

「女性関係だよ…及ばないが、案外モテるじゃないの~秘書ぶかとも付き合っているとはね…それに…」

「よ…よく知ってるな」

 ザゼルは、次々と何人もの藤雄の恋人情報を口にした。


仕事ビジネスは順調のようだが…恋愛プライベートはどうかな?」

「どうして気になる?」

「今の人生せいかつに満足しているか知りたくてね…」

「知ってどうする?」

「大事なことだ…俺の使命(しごと)は、君を幸せにすることでね」

 藤雄はザゼルの発言に呆れ果てていた。


「どうせ…新手の詐欺だろ?金が欲しいのか?」

「これも職務ビジネスだ…ノルマがあってね」

「見た目からして真面目そうじゃないな…確か僕よりモテると言ったな」

「ああ、長く生きているからね…いろんな女に手を出したな、高官じょうしの奥さんとか…無類の人妻好きでね」

「女癖悪そうだもんな~」

「君に言われたくないな…ここで複数の女とイチャイチャと…」

「全員未婚だ、この差は大きいぞ」

「…が死んで…自棄ヤケになっているのか?」

「…!」

 藤雄は、その時のザゼルの軽はずみな言動が許せず、眉間に皺(しわ)を寄せた。


「…反論で怒っているのか?…それとも図星か?」

 藤雄は怒りを露わにして、ザゼルの胸ぐらをしばらく掴んでいた。

「酒が入ると、人格ひとが変わることもある…言葉を慎むんだな」

「調子に乗ってしまった、しかし、君が怒らなかったら帰っていたかも…やはり、俺の目に狂いはなかった」

 ザゼルはそう言って、満足げな表情を浮かべた。


「今日は疲れてるんだ、明日から仕事だし…もう帰ってくれ」

「もう少し聞いてくれ、雪山で彼女に会った夢のことなんだが…」

「ああ、よくできた夢だったな、良い場面シーンで目が覚めた」

だからな…それに続きは見なくて正解だ」

「どういうことだ?」

 ザゼルは藤雄が見た夢、山荘での出来事、水帆との甘いひと時の続きを明かそうとした。


 一夜明けて、吹雪が止んでいくと、藤雄と水帆は救援隊と合流するために山荘を出て、雪山を歩く決断をした。

 積もった雪はカチカチに固まっていて、滑りやすく非常に足場が悪い。軽装備の藤雄にとっては、はかりしれない障壁だろう。

 ただ、水帆の激励で藤雄は弱音を吐かず、一緒に雪道を歩くのだが…


 それは一瞬のことだった。雪山の銀世界は藤雄たちに牙を剥けた。彼らに雪の津波が迫ってきていた。雪崩は日射や気温上昇、降雨に加え、積雪上部に崩れやすい雪質の層ができて、その上に新雪が降り積もり、弱い層が破壊されることで発生する現象である。藤雄たちは雪崩に飲み込まれて、滑落事故の犠牲者となった。


「これがだ、お望みのシナリオだったか?」

「……僕も死ぬとはな、とんだバッドエンドだ」

「あの夢は忘れろ、リセット不可能だ」

「どういう意図からくりがあるか知らないが、僕はお前が嫌いだ」

「それで結構だ、例え、嫌われても…君には俺が付き纏うんだ」

「警察を呼ばれたくなかったら、とっとと出て行け」

 藤雄はザゼルのことを一切受け入れようとしなかった。が…


「…人間は眠る時以外、常に選択して生きている、自分で道を切り開いて、未来を創り…運命さきを辿る唯一の生き物だ」

 ザゼルは帰り際、哲学っぽい言葉を残していった。現時点の藤雄には到底理解できなかったことであった。

「君のセミナーを受ける気はない」

「誰しも過去を振り返り後悔する、可能性を見いだして理想を求めるのさ」

「さっさと帰れ!!」

「とにかく、今夜はゆっくり休むんだ…一つ忠告しておくが…悲劇から悲劇が生まれるとは限られないよ」

 ザゼルは不可解かつ意味深な発言で、激怒する藤雄の心を揺るがした後、静かにその場を去った。


「はあ…」

 ようやく邪魔者がいなくなり、藤雄は悪夢のような体験から解放されて、深く溜息をついた。彼は礼服を脱いで、自室のベッドで泥のように眠った。そして…

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