第2章 第1話-1

転生g@me

第2章(STAGE2) 愛しき夢路


1.遭遇アポなし


 三月某日、厳しい冬が去ったと思いきや、全身が震えてしまうほどの気候が戻ってきた。雪もちらついている。

 その日、藤雄ふじおは礼服姿で都会の喧騒から離れて、関東圏の自然あふれる土地を訪ねていた。彼はマイカーの高級外車アストンマーチンを運転、約一時間かけて、目的地に辿り着いた。

 場所は山中の霊園。藤雄は休暇を利用して、幼馴染の水帆みずほの墓参りに訪れた。霊園専用の駐車場には、何台か車が停まっていて…


「…あっもしかして…藤雄か?」

 藤雄が受付所に向かう最中、彼に声をかける礼服姿の男性がいた。

「お…典樹おまえか」

「久しぶりだな、来てくれたんだな」

 藤雄は、ばったりと学生時代の男友達、東条典樹とうじょうひできと出会った。

 典樹は小学生からの友人で運動神経抜群、おまけに歌が上手く、何より。現在は中学の体育教師をしている。妻子あり。


「皆、来ているのか?」

「ああ、小・中学校中心の仲良しグループだ、今でも連絡を取り合っているよ…お前も連絡先教えてくれよ」

「そうだな、全く会ってなかったからな」

「皆、びっくりするぞ」

 藤雄は旧友たちとの再会で、若干緊張していた。


「おっ珍しい奴がいるぞ」

 霊園施設の待合室には、すでに何人か藤雄の旧友たちが待機していた。

「皆さん、お揃いだね、本当に久しぶりだな」

「元気にしてた?すっかり立派になったわね」

「お前の会社のゲーム面白いな~」

 藤雄が現れると、自然と彼の同窓が集まって来る。懐かしむ声で藤雄の硬い表情がほぐれていった。そして…


「藤雄君、来てくれたんだな…」

 藤雄の眼前には、気品ある老夫婦が立っていた。

「おじさん…おばさん…」

 藤雄は水帆の両親を見て、心が揺らいだ。ふと、彼らと過ごした記憶が甦る。藤雄は自然と水帆の両親と抱擁を交わした。

「あのも喜んでいるわ、ありがとう」

 水帆の母親が感謝の意を述べると、藤雄は返答せず、頬を赤く染めた。


「さあ、そろそろ行きましょうか」

 先日、藤雄と偶然会ったしのぶが仕切りだした。水帆の墓参り参拝者は、花束や供え物などを持って、彼女の墓前へと向かった。

 外に出ると吹雪いてきて、悪化していけば、長時間の墓参りは不可能であった。


「今日は変な天気だな…」

「あんたが来たからじゃないの?」

「彼女に拒否さけられてる?」

 藤雄は忍と典樹の冗談で、機嫌を損ねていた。水帆の両親はその光景を目にして、暖かにほほ笑んだ。

 参拝者一同は水帆の墓前で静かに手を合わせた。その後、彼女の両親が手短に亡くした娘への想い、参拝者に向けての感謝のことばを送った。

 天気には恵まれなかったが、水帆の墓参りは無事に終わった。


「…こりゃ帰るのが大変だな」

 参拝者の一人がそう呟くのも無理はない。山の天気は変わりやすいというが、吹雪は酷くなる一方で、視界が悪いため、車で山道を下りるのは危険な行為だった。

 藤雄たち参拝者は荒れた天候が回復するまで、霊園内の喫茶店で時間を潰そうとした。

 店から景色を見ようとしても、単に真っ白な空間が広がっているだけで、実に退屈である。そんな中…


「…水帆あのこ、スイスの雪山で亡くなったのよね?」

 藤雄を含めた数人の友達グループは、亡くなった水帆のことについて話し合っていた。

お前ふじおは一緒に行かなかったんだよな?」

「ああ、スキーは苦手だし…体調が悪かったしな…」

「彼女一人だけ消息不明で死ぬなんて…可哀そうだわ…」

 忍の意見に同調する者が多かったが…


「自然は危険がつきものさ…気の毒だが運命さだめだったんだ」

 典樹は、冷静クールに独自の意見を述べた。彼の趣味は登山で、世界中の険しい山地や雪山など登っており、自然の恐ろしさを熟知していた。

 そして、藤雄はあることを思い出していた。彼は以前、水帆と再会を果たす夢を見た。いまの景色は酷なものだった。


「どうした?顔色悪いぞ」

 典樹が藤雄の異変に気づいて、周りの友人たちも彼を心配した。

「いや…大丈夫だ、やっぱり寒いのは苦手だな~」

「厚着してないの…あんただけよ、相変わらず無頓着ね」

「うるさいな、いちいち…」

仕事ビジネスは順調のようだが…日常生活プライベートはどうなんだ?」

 典樹は話題を変えて、藤雄のことを聞きだした。

「どうって…別に普通だけど…」

「忍から聞いたぞ、贅沢な生活を送っているそうじゃないか」

「学生時代と違って、結構モテるそうよ」

「おい!余計なこと喋るなよ」

 藤雄は忍の発言で動悸が治まらなかった。忍は藤雄の自宅に行って、女性関…彼の秘密を知っている。外見の真面目さとは裏腹に、口が軽いようだ。


「結婚を考えている相手とかいるのか?」

「いないよ…今は仕事一筋だ」

「ちょっと…典樹君、質問しすぎよ!今度、取材する予定なんだから」

 何だかんだで、話は盛り上がったのだが…

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