第1章 第3話-2

転生g@me

第1章(STAGE1) 運命の悪戯


3.過去メモリー


 藤雄は迫る死の影を恐れながらも、ひとまず、希望を求めて、謎の光がある方へと進むことにした。多少、時間はかかったが、藤雄は目的地に着いた。そこは一軒の山小屋だった。彼はそれを見て、ひとまず安堵した。


「…すみません!」

 藤雄は凍えながらも山小屋の扉を力いっぱい叩いて、中の者に助けを乞うが…


「…ちょっと待って、今開けますから…」

 山小屋の中から女性の声がして、藤雄は聞き覚えがあった。


「え…そんな…まさか…!?」

 山小屋の扉が開くと、藤雄の幼馴染・恋人〝水帆〟の姿があった。彼は驚きのあまり、体の震えが止まった。

「え…あんた…どうして?」

「いや…僕もよく分からなくて…」

「とにかく、中に入って!」

 水帆も驚きが隠せなかったが、冷静さを保って、突然来た藤雄を招き入れたのであった。


「…はあはあ、助かったよ」

「ちょっと…あんた!」「え?」

 水帆は藤雄の姿を見て、思わず発狂した。

「よくで外にいたわね!死にたいの?」

 水帆の言ったことは正論で、その時の藤雄の服装は、防寒の役割を果たしていない薄着、悪天候の雪山に合っていない軽装備ファッションだった。


「そういえば…ぶぁくっしょん!」

「そこに洗面所あるから、脱いできなさいよ」

 藤雄は水帆の指示に従い、急いで洗面所に向かった。


「…くそっ何でこんなことに…!?」

 その時、藤雄は洗面所の鏡を見て、我が身を疑った。鏡に映っているのは、大学時代の藤雄だった。

「はあ…何だよ、次から次へと…夢か?」

 藤雄はようやく、夢だと感じ始めたが…


「藤雄!服は全部脱いだの?」

 その時、水帆が洗面所の扉を挟んで、藤雄に呼びかけた。

「ああ、もう素っ裸だ!」

「これ貸してあげるから、よく拭いて体に巻きなさい」

 水帆は扉を少し開けて、大小サイズのタオルを藤雄にそっと手渡した。彼はみっともない姿を披露するが、水帆の世話焼きは終わらない。


「ボケっと突っ立ってないで、こっち来なさいよ」

 水帆はそう言って、藤雄を暖炉がある場所まで連れて行った。

「…ここにはお前しかいないのか?」

「ええ、友達とはぐれちゃってね…吹雪が止まないと、救援たすけは来ないわ」

「…まさか!」

 その時、藤雄はふと、過去のことを呼び起こした。大学時代の自分と水帆、雪山での遭難…彼の頭の中で現状の問題パーツが組み立てられていく。


「本当に…山の天気って変わりやすいわね」

「スキーをしている最中に天気が悪くなったんだな?」

「そうよ、スキー板は荷物じゃまになるから置いてきちゃったわ」

「……そうか」

 藤雄は悟った。触れたくない過去だと、彼は錯乱状態に陥りそうになったが…


「ねえ、ここに来た理由を訊きたいんだけど…もしかして…私のことが心配で…?」

「…うん、だったらどうする?」

 藤雄は軽く冗談を言ったつもりだったが…


「相変わらず素直じゃないわね…でも嬉しいわ」

「え?」

 藤雄は、水帆の意外な返答に愕然としていた。

「偶然、小屋ここを見つけたけど、独りじゃ心細いし…藤雄あんたに会えるなんて…」

「水帆…お前…」

 どちらが助けられたか明確ではないが、互いの距離が近くなっていった。藤雄にとっては懐かしいものだ。ゆめの世界でも良い、このまま時が停まって、水帆の傍にいることを望んだが…


 藤雄の願望は叶わなかった。彼はまた、闇の空間に放り出されて…


 藤雄は一時昏睡状態で、目が覚めると…


「あっ…お目覚め?」

「は?…ここは?」

「何寝ぼけてんの?あなたの住居いえよ」

 藤雄は、さっきまで水帆と山小屋でイチャついていたが、気づけば、忍が彼の眼前に現れた。


「…そうか、居酒屋のんべぇを出た後の記憶がない…」

「しっかりしてよ、…あなたをこの部屋ベッドルームまで運んで、帰ろうと思ったけど…私も疲れて寝ちゃったわ」

「おい!何でそんな恰好なんだ?」

 その時の忍は、ビジネスパンツを穿いておらず、彼女の美脚が露わになっていた。藤雄は目のやり場に困っていた。


「ごめんなさい、私も酔っ払ってて、自宅と勘違いしたのね」

「…今、何時だ?」

「もう太陽が昇るわ…ねえ、バスルームシャワー借りていい?」

「え?良いけど…」

「それにしても、いいとこ住んでいるわね、ゲームって儲かるんだ」

「まあね…あの…僕たち?」

「あったらどうする?」「え?」

 藤雄は、忍の意地悪な返答で動揺するが…


「馬鹿ね、あるわけないじゃん、でも、一応、タクシー代払って…これ、領収書…それと、近いうちに取材させてもらうわよ」

「ああ…分かったよ」

「…あと、一つ言わせてもらうけど…は程々にね…」「!」

 忍は、藤雄の恋愛せいかつのだらしなさを熟知していた。そして最後に…


「…水帆の墓参り、絶対来てよ」

 忍はそう言い残して、バスルームへと向かった。藤雄は彼女の言葉が身に染みて、ベッドから起き上がり、自分の煙草とライターに手を伸ばして、気持ちを落ち着かせた。


転生g@me 第1章 完

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