第1章 第3話-1

転生g@me

第1章(STAGE1) 運命の悪戯


3.過去メモリー

 

 藤雄は、帰宅途中に隠れ家の居酒屋<のんべぇ>に寄り道するわけだが、そこで思わぬことが起きた。

 藤雄が来店した後、新たに女性客の姿があり…


「いらっしゃい、何にします?」

「そうだな~おでん定食に…」

 藤雄の行きつけの居酒屋は、カウンター席5、テーブル席1と席数が少なく、どちらかといえば窮屈ではあるが、店員とのコミュニケーションが取りやすく、女性も堂々と来店する。

 女性客は迷いなく、カウンター席、藤雄の隣席に座り、慣れた感じで注文した。そして…


「あ…」

 女性客は偶然、藤雄と目が合い、思わず余計な声が漏れた。

「あの…何か?」

「すみません…もしかして…安斎あんざい君?」

 女性客は、藤雄の名字を口にした。

「そうですけど…あなたは…?」

「私よ…ほら、中学の…」

「…あ…あー!」

 藤雄は女性客のことを思い出したようであった。


「思い出した?」

「うん、内山うちやましのぶだろ、印象が変わったから…」

「当時は眼鏡かけていたからね…安斎君も変わったわね」

「…何だい?二人とも知り合いかい?」

 その時、<のんべぇ>大将の手が停まり、藤雄たちに声を掛けた。

「うん、中学時代の同級生ともだちで…」

「本当に久しぶり…あなた、だったわね…」

「僕が何をやってるか知ってるの?」

「勿論よ、私はこういう者です」

 忍は自分の鞄から名刺を取り出して、藤雄も慌てて、社会人おとなの対応をした。


「社会・経済専門誌の記者ライターか…真面目な君らしいな」

堅物つまらない女で悪かったわね、そっちは勉強せずにゲームばかりしていたでしょ」

「ああ…お陰で仕事に活かされている」

「確か…修学旅行でゲーム機持って行ったのがバレて、先生とご両親に怒られてたじゃない」

「よく憶えているね…高校の文化祭でも、ゲーム大会を開いて盛り上がったな…教師せんこうPTAほごしゃからは不評クレームの嵐だったけど…」

「ほんと依存症びょうきね…」

 藤雄たちの話は、学生時代の思い出で弾み、気づけば、彼らが注文したメニューが並べられていた。

 モツ煮や海鮮料理、当店の定番メニューをあてにして、藤雄たちは日本酒あつかんを飲み、雑談を続けるのだが…


 藤雄たちの話は尽きないが、明るい話題トークテーマばかりではない。その場の和やかな空気が変わる話を切り出したのは、忍だった。


「…ところで、あなた、こないだの同窓会に来なかったわね?」

「え?…ああ、仕事が忙しくて忘れてたよ」

「実はね…また集まろうと思ってるの…」

「どういうことだ?」

「…もうじき、〝水帆みずほ〟の命日よ」

 藤雄は忍が言い放った禁句タブーで、しばらく体が硬直して、美味しい酒を味わう気にならなかった。


「そうか…そんな時期か」

「もう、水帆が亡くなって、十年以上経つわね」

 水帆の話題になると、藤雄たちの口数が減っていき、暗いムードになりつつあった。


「水帆と特に仲が良かった友達れんちゅうが集まって、墓参りを?」

「あなたと連絡取れなかったから、丁度良かったわ、来ない?」

 藤雄は気が進まない様子で、忍の誘いの返事は曖昧だった。そして…


 夜は長く、藤雄はアルコールの影響で、<のんべぇ>から出た後の記憶はほとんどなかった。


「あれ…?」

 藤雄が現在いる場所は何とも説明しにくい。空気があるだけの暗闇の空間だった。何故、彼がそんな場所にいるのか?謎のときが流れるが、やがて、変化が起きて、藤雄の居場所が切り替わった。


「…ォォォォォォ」

 藤雄は雪山で呆然と立っていた。彼の耳に激しい吹雪の音がはっきり届いている。白霧ホワイトアウトにより、視界が悪く、彼は天地の識別が困難であった。

 藤雄は何故か、極寒の地に移されていた。今の彼には、絶望感と恐怖感が肌に染みわたり、〝死〟の言葉ワードが頭の中を過ったが…


「…!」

 その時、藤雄は猛吹雪の中で、ぽつんと光るものを見つけた。

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