第1章 第2話-2

転生g@me

第1章(STAGE1) 運命の悪戯


2.交渉ビジネス


「うちの企業かいしゃとどことなく似ている…どうです?」

「ええ、実に興味深い案ですが…容易なことではないですね」

「ごもっとも…実現させたいことは山ほどあります、具体的な返事は、そちらの都合に合わせて待ちますよ」

「はい、そうさせてもらいます…」

 藤雄は、<VERS>側の企画提案書、契約書、その他重要書類を受け取った。これにて、一回目の交渉の幕が閉じられるのであった。


「今度、一緒に食事でもどうです?○丁目のレストランはうちの加盟店なので…奢りますよ」

「はい、お言葉に甘えて…御馳走ごちそうして下さい」

 藤雄たちは軽く食事の約束をして、<VERS>のエントランスで別れた。藤雄は、女性秘書と送迎車に乗り込んでわが社に戻るが…


「…どうも、ああいう男性は苦手ですわ」

「野心家じゃないと、うちらの業界はやっていけないよ」

「社長はそうなんですか?」

「僕は運が良かっただけさ…」

「ふふ、運も実力のうち…と言います、もっと胸を張ってみては?」

「副社長にも同じようなことを言われたよ、ありがとう」

 女性秘書の一声で、藤雄は自然と子供のように微笑んだ。藤雄の秘書はお世辞抜きの美人で、頭脳明晰で容姿も性格も良い。

 二人を見ると、ビジネスパートナー以上の関係に思えるが、それはさておき…


 藤雄は自身のオフィスに戻ると、副社長の晃司を呼び出すのだが…


「交渉の方はどうだった?」

 晃司は、藤雄の報告が待ち遠しかった。

「とりあえず保留だ、じっくり吟味するよ」

社長ボスは…絡みやすかったか?」

「好感は持てた、女性陣には評判が悪いがね…」

「お前と気が合うんじゃないか」

 晃司は藤雄をからかい、ひとまず安堵した。


「業務提携の資料、お前たちも読んどいてくれ」

「気をしっかり持てよ、うちも大事な時期だからな」

「分かっているよ、社長の自覚はあるから…!」

 藤雄たちが話している最中に、一人の社員が訪ねてきた。


「どうも、お取込み中に失礼します」

「どうした?…」

 晃司は、訪ねてきた男性社員をあだ名で呼んだ。彼は小津 伸郎おづ のぶろう。<CB>企画部のチーフを担当している。ほぼ、藤雄たちと同期だが、なかなか出世しない立場だった。


「…あの、例のクリエイター発掘の件なんですが…」

「ああ、憶えているよ、一般応募者が制作したゲームを審査する企画だろ?」

「はい、そろそろ進めたいんですが…」

「悪いが…それは先延ばしできないか?他の案件を優先したいんだ」

 晃司は伸郎の話に対して、否定的な返答を出した。

「そう…ですよね、承知しました」

「すまないね、面白い企画なんだけど…」

 藤雄は、落ち込む伸郎をそっと慰めた。

 晃司は心を鬼にして、社員と厳しく接するが、藤雄は仏のように穏やかな対応をしていた。


 藤雄社長は何かと忙しい。立て続けに打ち合わせ、遠方の取引相手とは遠隔リモートで話し合って、幹部との役員会議もある。しばらく落ち着く暇は彼になかったが…


「あれ?」

 藤雄は休憩時間に、思わず疑問を投げかけた声を漏らした。


「今の人生に満足しているか?」


 藤雄は今朝届いた不審メールを思い出した。どうやっても削除できない謎のメール、悩みの種だったが…


「…ビク!」

 その時、藤雄は妙な視線を感じ取り、独り血の気が引いていた。社長室には藤雄しかおらず、不可解な現象だった。そして…


「え…?」

 藤雄は変な体験をした後、専用PCの異変に気づいた。あの不審メールは何故か消えていたのだ。その時は仕事疲れによる幻覚かと思われたが…


それから時が流れていき…


 気づけば、藤雄の会社の退勤時間だった。

政府の浅知恵により、残業時間は制限されているため、<CB>の社員たちも、ほぼ定刻に会社を出ていた。

 

「…藤雄、飲みに行かないか?」

「いや、今夜はちょっと…」

 藤雄は、晃司や同僚の誘いを断った。それには彼なりの理由がある。


 藤雄は退社後にぶらりと立ち寄る場所があった。そこは会員制の高級クラブや芸妓と遊べる料亭でもない。街の片隅のこぢんまりとした居酒屋だった。店名は<のんべぇ>

 藤雄が行きつけにしている居酒屋は、地方の名産料理や名酒を味わうことができて、口コミで評価された大人の隠れ家であった。


「社長~ね…」

 藤雄は居酒屋の大将と女将とは親しい関係で、彼の注文内容はいつも同じだった。

 藤雄は独りの時間を満喫するために、<のんべぇ>を同僚や恋人に教えなかったのだが…


「いらっしゃいませ~」

 女将の上品な声が店内に響き、新たな客が姿を見せた。

 藤雄は憩いの場でも、予期せぬことに遭遇するのであった。

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