苦くて辛くて酸っぱい

第1話

アタシの親友は、大馬鹿の天才だ。

毎年毎年よくも、と思うほどバカバカしい惚れ薬入りチョコを作り出している。

もうこれで五年になる。五年間改良を重ねた今年は一体どんなチョコになるのだろう。

そろそろ、もらい続けている鈍感男の体に悪い影響が出る物になっていそうな気もする。

親友の加奈子がこんなバカバカしいチョコ作りを始めた原因の一割くらいはアタシだ。

高校に入って友達になったアタシに加奈子は片思いの相手だって鈍感男を紹介してくれた。惚気たかったのか、相談したかったのか、多分両方だろう。

鈍感男はヒョロッとしたメガネでアタシのタイプじゃなかった。だから気負わずに話ができた。鈍感男にとってのアタシも同じだったらしい。

その時既に鈍感男は加奈子の事が大好きだった。連絡先を交換したら、毎日のように加奈子の様子を尋ねてきた。

その連絡を加奈子はアタシに気があると思ったらしい。そんな誤解を解くためにアタシは早々に彼氏を作った。

それでも加奈子に変な誤解をさせない為に、加奈子のバカバカしい計画に、毎年協力をしてきた。

はじめは高三の時。違う大学に進学する幼馴染みを捕まえる為に、今年は特別なチョコを渡す！って言い出したのが最初だった。

今までだって手作りチョコを渡してたのに、しょっちゅう一緒に居て、お互いの家に行き来してるのに、付き合ってないって言われて驚いた。

その年加奈子はドキドキさせれば恋と思うはず！ってトウガラシチョコを作った。

もらった方は「チョコだけでドキドキするなんて俺は変態かもしれない！」って謎に落ち込んでたけど。

ドキドキの前に味で気付けよ、味見させられたけどメチャクチャ辛かったよ！

次の年は顔が火照ればとか言って、謎のキノコを乾燥させて粉末にしたのを混ぜ混んでた。

「思い出すだけで顔が火照るなんて、知られたら嫌われる！」だったっけ？

むしろ変なチョコ食わせてる加奈子が嫌われるのがふつうじゃないんかな。

次の年は、ショウガとシナモンだっけ？味と香りを整えた上で、ドキドキさせて顔を火照らすって。チョコの味と香りとして全然整ってると思えないんだけど。

鈍感男の感想は「加奈子の味だと思う。だけど加奈子がすごく美味しいなんて、変態みたいな事言えない」だったな。

大丈夫だ、渡してる方もある種の変態だ。でもそれはアタシが言う事じゃない。加奈子はなんでチョコだけ渡して気持ちを言わないのか。

それで、去年はなんだっけ？もっと積極的にって言って苦いチョコを生み出したんだ。何の効果を狙って何を盛ったのか知らないけど、その苦さは遂に「嫌われた」って思わせたらしい。

今年はどうすんのかと思ってたら、加奈子は奴の家に持っていくんだって。それで目の前で食べさせるって。ねぇ一体今年は何を盛ったのさ？えっ？全部盛り？

今年は胸がドキドキして、顔が火照って、ついでに男性ホルモンにも影響があるって言ってたけど、それって即効性のあるものなの？ついでに味は大丈夫なの？去年は味の問題で誤解を生んだと思うんだけど。

今年のチョコは、辛くて、苦くて、変わった香りがして……えっ？中に酸っぱい木の実？恋は酸っぱいものだから？

もう、何も言えなくて見送った。

アタシが加奈子のバカバカしいチョコ作戦に付き合えるのも今年が最後。アタシは大学を卒業したら県外に就職するから。

来年は、味見もしてあげれないし、意味不明な感想も聞いてやれないんだよ。

どっちでも良いから、ちゃんと好きって言いなよ。