第7話
「あまり見ませんが……取り調べ、ですか」
「まあ、事情聴取だね。話を聴く段階であって、まだ本格的に疑ってるんじゃないと思うよ。ただ、フランカは生きている健司君を見た最後の人だからか、ちょっと厳しめに聴かれてるようだね」
「ああ……理解しました。でも、フランカさんがお粥を運ぶのに、自分も付き合いました。どうして聴いてくれないんでしょう」
「そりゃあやっぱり、あなたが中学生だからであり、フランカ一人の証言で充分と考えたからじゃないかな」
納得できなかった三鷹だが、ともかく宇津井の話の続きに耳を傾けた。
「行方教授は、関係各所に電話連絡で忙しい様子よ。寛司君は兄だから当然、長く聴かれているし、浮城山さんと伊倉君はここでやっている実験について、説明をさせられてた。私が解放されたのは、酔っ払いであることと、あなたへの話し相手になってくれっていう意味があるみたい」
云いながら、首をついと、出入口の方に向ける。三鷹が振り返ると、制服をびしっと決めた警官が、それとなく中を窺うような体勢で立っていた。
「男に話し相手は難しいとしても、婦警さんはいないのかしらね」
「あの、宇津井さん。何故、皆さんを調べるんでしょう?」
「うん?」
煙草を弄んでいた宇津井が動作を止め、見返してくる。
「部屋の窓、開いていたのでしょう? そこから入った何者かが、健司さんを殺害したと考えるのが物の道理ではありませんか。フランカさんがお粥を運んだ際、自分もドアのところから見ました。あのとき健司さんは間違いなく部屋にいて、ベッドで上半身を起こし、お盆を受け取りました」
「……」
「あれ以後、食堂でみんな一緒にいた。誰も、健司さんを殺害できません」
「さすが、教授自慢の姪御さんだわ。観察力も論理的思考も、大したもの。この混乱の中で、そこまで組み立てられるなんて」
感心したのか、短く口笛を吹き、宇津井は煙草を仕舞った。テーブルに両肘を突くと、手を組み合わせる。
「実は私もそう考えて、楽観視していた。ところが警察は、何だか知らないけれど、疑惑の目を私達に向けてるみたいなんだよね」
「何故なんでしょう」
「まず、侵入した形跡が判然としないらしいんだ。はっきりと聞かされた訳じゃないがそんな風なことを云ってたわ」
「でも、このところ晴天続きですから、足跡が残るとは限りません」
「外部犯だとしたら、その賊はどうやって窓を開けたのかってことよ、きっと。窓は割れていなかった。冷房の効いた部屋で、健司君が窓のロックをわざわざ解除していたとも思えない。だから賊は玄関から入って健司君の部屋まで行き、犯行後、窓から出た。あるいは窓の外からノックして健司君自身に錠を開けさせ、中に入り、犯行後、同じ窓から出た。このどちらかになる」
「……ここへ着いた当初、防犯がなっていないと感じましたが、玄関から入られて誰も気付かないなんて、信じられません」
「賛成だね。でも、健司君が窓を開けたのも妙だわ。知り合いが来たのなら、出向くでしょうよ。それがしんどくて無理なら、相手に玄関を通って上がってこいと云うはず。そしてそんなことしたら、私達が気付くはず。実際はそんなことは起きなかったと考えるのが妥当」
「窓から招き入れるのは、不自然極まりない……」
考え込む三鷹に、宇津井は「恋人と密会するつもりだった、なんてのもないからね」と云い添えた。
「だって、私達は監禁されてる訳じゃないんだもの。出入り自由。
「おかしな点は把握できましたが、でも……内部犯行説はもっと無理があるように思います」
理屈と云うよりも気持ちを率直に述べる。宇津井は頭を振った。それは頷いたのか否定したのか、よく分からない仕種である。
「無理を承知で、考えてみようと思うの。少しね、気になることがあるんだ」
声を潜めた宇津井。三鷹の声も、自然とボリュームが絞られる。
「何でしょう?」
「最後に健司君を見たのが、あなたとフランカだってこと」
「信憑性に疑問あり、ですか。私は健司さんと今日が初対面ですからそうかもしれません。でも、フランカさんは違います」
「あの子は、健司と寛司がそっくりだと云ってるでしょ」
「……ええ」
意図が飲み込めないまま、ひとまず肯定しておく三鷹。
「私もそっくりだと思っています。簡単に見分けられると云う伯父や宇津井さん達は凄いです」
「うん。それなんだけどね。仮に、徳田兄弟が入れ替わったとして、珠恵ちゃんは見分ける自信がないでしょ?」
「ありません」
きっぱりした返答に、宇津井は軽い苦笑を浮かべた。三鷹は少しだけ反発を覚えた。
「健司さんと寛司さんが入れ替わったとしても、状況に大きな変化は生まれません。被害者が代わるだけです」
「それじゃあ、いよいよ
宇津井は手帳に挟んだ集合写真を見せてくれた。その一箇所を指差す。二人の男性。内一人は徳田寛司か健司で……。
「え? このお二人が寛司さんと健司さんなんですか?」
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