結婚するまで残り◯日?

雪兎 夜

バレンタイン

 今日はバレンタイン。友チョコ、義理チョコ、本命チョコ……。乙女の想いがあちこちで行き交う日。

 勿論、私も今日の為に準備してきた。と言っても、お菓子作り含め料理全般が苦手なので、お店で買ってきた既製品だ。それに、数少ない友達から渡されたチョコのお返しに渡すから配る量も多くはない。


 そして今。自分の手元にあるのは1つだけ。


「──春。これ、バレンタインチョコ。約束通り手作りだから美味しさは保証出来ないけど」


「えっ。本当に手作りしてくれたの。うわぁ〜ありがとう。嬉しい」


 幼馴染のはる。両親同士が仲が良いこともあり、小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。

 そして5歳くらいの頃、いつも2人で遊んでいた公園で私が帰りたくないと駄々をこねた時、春が突如放った言葉。「大きくなったら、僕と結婚しよう」を律儀に覚えていて、高校生となった現在に至るまで、ずっと当たり前のように側にいる人だ。


 そんな春は最近、何かと私にお願いをしてくる。本人曰く、そういうターンが来てるらしく、バレンタインに手作りチョコをプレゼントして欲しい、というのも春のお願いだ。

 

 春はリボンを解いて袋の中に入ったチョコを1つ取り出して口に運ぶ。


「うん。やっぱり寧々ねねが作ったから、すっごく美味しい。全然料理下手じゃないよ。また作って、ね?」


 そうやって微笑みかけてくる春の表情を見ていると、何故かドキドキしてしまう。

 今みたいな笑顔を向けられたのは、これまでだってあったはずなのに。


「はい。これは僕からのお返し」


 可愛くラッピングされた袋を受け取って開けてみると、カラフルな色のマカロンが入っていた。


「もしかして、これって春が作ったの?」


「そう。家に焼きすぎて余ったマカロンあるから、帰ったら食べないと。ということで、美味しかったら言ってね。もっとあげるから」


「余ってるなら、友達にあげればいいんじゃ……」


 春はそんな私の提案を聞いて、むすっとした顔をする。


「そういうんじゃなくて、寧々だけにこれはあげたいの。寧々は僕にとっての特別だから」


 だから手作りはこれからも僕だけだからね、と言って席から立ち上がる。


「それじゃ、帰ろ。誰かさんのおかげで2人っきりになれたけど、帰るの遅くて寧々ママに心配かけたら悪いし」


「……だって春。朝は女子に囲まれて忙しそうにしてたし」


「ん。だけどそれって、嫉妬。してくれてるってこと?」


「嫉妬……べ、別に全然してないからね嫉妬! ほら、帰るよ。春」


 思わぬ指摘に頬が熱くなるのを感じながら、春に悟られないように気をつけつつ、2人並んで家路につくのだった。

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