第45話(リベルタ視点)パーティーへ

「次はこっちを着てみろ」

「……はい」

「その後はあれだ。いいな?」


 分かりました、と頷きつつ、内心でこっそり溜息を吐く。

 今までに十着以上の服を試してきたのに、まだ終わらないのか、と思ってしまうのは仕方がないことだろう。


 シャルル様の買い物って、長い……!


 今日は朝から、今度開催されるパーティーのために服を選んでいる。昼過ぎにようやくシャルル自身の服が決まったものの、それからリベルタの服選びが始まったのだ。

 服を用意してくれるのはありがたいことだが、何度も着替えをさせられるのは大変である。


 とはいえ断れるはずもなく、リベルタは再び与えられた服に着替えた。

 先程は真っ白の服だったが、今度は深い緑色の服だ。


「……さっきの方がよかったか?」


 じっとリベルタを観察した後、シャルルが首を傾げる。


「リベルタはどう思う?」

「俺は、シャルル様が一番気に入った物がいいです」


 どうせ、何を着てもあまり変わらないだろう。それに、リベルタの服について気にしてくれるのはシャルルくらいだ。

 だったら、シャルルが満足のいく服を選ぶのが一番いいに決まっている。


「それより、本当にマントはかぶらないんですか?」

「当たり前だ。せっかくの美しい髪を隠してどうする」

「……そう思うの、シャルル様だけなのに」


 リベルタが呟くと、シャルルがとびきり甘い笑顔を浮かべてリベルタの髪に触れた。宝物を触るような優しい手つきに、心がふわふわする。


「俺が自慢したいんだ。だめか?」

「だめじゃないです、けど」


 自分なんかを連れて行って、シャルルが馬鹿にされたり、恥ずかしい思いをしてしまわないだろうか。それだけが心配だ。


「そうだ。耳飾りなんかも買ってやろう。白い髪には、どんな色も映えるぞ。好きな色はないのか?」

「赤です」


 即答すると、シャルルは嬉しそうに笑った。


「俺の瞳の色だからか?」

「はい」


 そうか、と呟くシャルルがとても幸せそうで、リベルタの胸の奥が温かくなった。リベルタの言葉でこんなにも喜んでくれる人なんて、他にいない。


「今日からは食事の時、テーブルマナーを教えてやろう」

「頑張ります」


 上手くできるかは分からない。けれどシャルルが教えてくれるというのなら、できるだけのことはしよう。


「その前にまず、服を決めないとな。ほら、次はこれを着てみろ」

「はい」


 ぐう、とリベルタの腹が鳴った。かなり空腹だが、残念なことに、夕食の時間はまだ遠そうだ。





「よし。これで決まりだな!」


 シャルルが満足げに頷いた時、既に窓から見える空は暗かった。ぐったりとしたリベルタが頷くと、シャルルが笑いながらリベルタの背中を叩く。


「夕食にするか」

「はい」


 結局、シャルルがリベルタに選んだのは、黒と白の衣装である。白いシャツに黒いロングジャケット、そして黒いパンツ。

 シンプルな衣装だが、だからこそ白髪が目立つ。


 それにしてもこれ、動きにくいな。

 ちょっとでも無茶をすれば、どこかが破れちゃいそうだし。


 せっかくシャルルに買ってもらったのだから、大切にしたい。


「あの、汚したくないので、着替えてからでもいいですか」


 リベルタがそう尋ねると、シャルルは笑いながら頷いた。





「では、いってらっしゃいませ」


 ヒューに見送られながら、四人は馬車に乗り込んだ。目的地は近いが、着飾った衣装で馬に乗るわけにもいかない。


「それにしても、みんな、かなり気合入ってるね」


 そう言って微笑んだヘリオスも、いつもとはだいぶ雰囲気が違う。薄紫色の衣装がよく似合っていて、どことなく大人の色気のようなものを感じる。

 隣に座るマルセルは落ち着いた服を着ているものの、よく見る訓練服とは全く違う。立派な体格が映える、伝統的な形の衣服を着ている。


 そしてなにより、シャルルだ。


 長い髪は後ろにたらしているが、一部分を細かく編み込み、花を模した薄桃色の髪飾りをつけている。

 フリルがたっぷりとほどこされた白いシャツに、薄桃色のジャケットとパンツ。日頃よりもさらに華やかな装いだ。


 黙っていると、人形みたい。


「どうした、リベルタ。俺に見惚れたか?」

「はい」


 リベルタの返事に噴き出したのはマルセルである。それを見て、叔父上、と怒ったようにシャルルが言った。

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