第39話(リベルタ視点)手がかり

「どうだ、リベルタ?」


 パーティー用の派手な衣服を身にまとったシャルルが、リベルタを見て得意げな笑みを浮かべた。

 いつもは後ろで一つに縛っていることが多い髪も、今日は左右を複雑に編み込み、深紅のリボンで結んでいる。


 もちろん、シャルルは常に美しい。しかし着飾った彼は、いつも以上に洗練された美しさを持っている。


「……綺麗です、シャルル様」


 それ以外の言葉が見つからず、リベルタは素直にそう口にした。そうだろう、と嬉しそうに笑うシャルルが微笑ましくて、自然と頬が緩む。


 今日は、ケルクス伯爵の屋敷で派手なパーティーを開くそうだ。参加者はシャルルを始めとする特務警察部隊の身分が高い面々と、女学校の生徒らである。

 特務警察部隊の中には華やかなパーティーを好む者も少なくないらしく、昨日からどこか浮かれた雰囲気がある。


「今度、リベルタにもパーティー用の服を用意してやろう」

「ありがたいですけど、俺が着飾ったって、きっと似合いませんよ」

「そんなことない。俺が証明してやるから、覚悟しておけ」


 そう言って、シャルルはリベルタの髪にそっと触れた。不気味だと言われることが多いこの白髪を、なぜかシャルルは気に入ってくれているようなのだ。


「パーティー、楽しんでくださいね」

「ああ」


 パーティーの間、護衛として傍にいられないのは寂しい。しかし、着飾った貴族たちが集まるようなパーティーに参加しても浮いてしまうだけだろう。


 それに、俺には大事な仕事がある。

 パーティー中に修道院へ行って、あの少女を調べないと。


 彼女が犯人だ! と確信しているわけじゃない。しかし、状況を考えれば、彼女はかなり怪しい気がする。


 アレクさんは、あんな少女が犯人のはずがない、と言っていたけど、俺はそうは思わない。

 そりゃあ、確かに動機なんて分かんないけど、動機がなきゃ人を殺さないとは限らないし。


「俺、頑張ってきます」

「いい報告を待っている」


 口の端だけをあげて、シャルルはくすっと笑った。


「じゃあ、行ってきますね」





 隊員証を見せると、門番は慣れた様子で中へ招き入れてくれた。令嬢たちは既に修道院を出ているようで、敷地内はがらんとしている。


「あの子、どこにいますかね」


 アレクに尋ねると、さあな、と返されてしまった。やはりまだ、レオナを疑うことに乗り気じゃないようだ。


 アレクの強い希望で、レオナについて調べたいと思っていることは伝えていない。令嬢たちがいない間に、敷地内の様子を改めて見てまわりたい……というのが、表向きの訪問理由だ。


「使用人の宿舎へ行ってみましょうか。その、他の使用人だっているでしょうし」

「そうだな。他にも怪しい奴がいるかもしれない」


 どうしてアレクはあの少女を疑いたくないのだろう。ヘリオスは妹を思い出すからだろうね、と言っていたけれど、リベルタにはぴんとこない。

 年は近いのかもしれないが、アレクの妹とレオナは別人なのだから。


 不思議に思いつつ、使用人宿舎へ向かう。使用人宿舎は敷地の端、裏門のすぐ近くにあった。

 令嬢たちが暮らす宿舎と比べれば、雲泥の差だ。しかし、質素ではあるものの、しっかりとした造りの建物である。


 宿舎は一階建てだ。さすがに、レオナの部屋がどこかまでは分からない。


「とりあえず、全部の部屋ノックしてみます? 他の人が出ても、話を聞けばいいわけですし」

「そうするか」


 アレクが頷いたため、リベルタはまず右端の扉をノックしてみた。すぐに返事はないが、何度かノックを続けると、扉がゆっくりと開く。

 そして隙間から、ひょこ、とレオナが顔を覗かせた。


「あの……なにかご用でしょうか?」

「ちょっと聞きたいことがあって。今、時間いい?」


 リベルタの質問に、レオナはゆっくりと頷いた。


「……はい」


 部屋から出てきたレオナを改めて観察する。身長が低く、細身だ。茶色の髪は邪魔にならないように三つ編みにしている。


「それで、その、聞きたいことって、なんでしょう?」


 レオナの問いかけに答えられず、リベルタは黙った。


 これ、どうすればいいんだろ。

 犯人なの? なんて聞いても、本当のことを答えてくれるとは思えないし。


「えーっと……」


 助けを求めるようにアレクを見たが、アレクは何も言ってくれない。


 どうしよう。

 ……そうだ。もし、本当にこの子が犯人だったら、どうすればそれを証明できる?


 凶器。


 ふと、思いついた。


 もし彼女が犯人なら、彼女は凶器を隠し持っているのではないだろうか。

 傷口から見て被害者は全員同じ刃物で殺されたことが分かっているものの、まだ凶器は見つかっていない。


 それに、簡単に処分できるものでもないだろう。


「部屋の中、見せてくれない?」

「え? 私の、ですか?」

「そう」


 嫌そうな顔をしながらも、レオナは頷いてくれた。


「……どうぞ。散らかっていますが」


 部屋の中に入る。確かに少し物は多いが、きちんと掃除された部屋だ。


「手荒な真似はするなよ」


 耳元でアレクに言われ、分かってますよ、と小さく返事をする。

 この部屋に、事件解決の手がかりがあるかもしれない。そう思うと、やる気がわいてきた。

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