第25話 解決
「今回、取り押さえ時の犠牲者はリベルタに殺された給仕係1名のみ。他は現在、全員牢獄に入れてある。レストラン内を捜索して、人身売買の証拠になる書類も見つかった。
そして、行方不明者として探されていた人たちと、売られていた人たちはほとんどが一致している」
会議室で、ヘリオスが淡々と説明を続ける。
話を聞きながらも、シャルルの頭の中はリベルタのことでいっぱいだった。
人を殺すな、人を傷つけるな……何度もそう伝えてきたし、少しずつだが、分かってくれていると思っていた。
今回引き金になったのは、間違いなく俺が頬を刺されたことだろう。
「隊長。ちゃんと聞いてる?」
「……悪い。大体は聞いている」
「じゃあいいけど。で、仮面の男の正体はヴィオラ男爵だって」
「聞いたこともないな」
社交界にはそれなりに顔を出しているつもりだが、ヴィオラ男爵なんて聞いたこともない。
そんなシャルルの呟きに反応したのはヒューだった。
「もう何十年も前に没落した下級貴族ですよ。どうにかして、家を復興させたかったんでしょう」
「なるほど。資金集めと、社交界での友人作りを兼ねていたのかもしれないな」
「ええ。といっても、彼の正体は知らなかった、と客は全員言っていたそうですが」
ヒューが溜息を吐く。
今回、地下室にいた大半は貴族だったのだ。事実をそのまま役所に報告すればいいというものではない。
そんなことをすれば、俺が恨まれてしまう。
貴族連中には、なるべく恩を売りつけないとな。
主犯であるヴィオラ男爵は別だが、違法賭博を楽しんでいただけの貴族を法で裁くのは困難だ。
弱みを握ったことにして、今後の関係を築いた方がいいだろう。
「ヒュー、いつも通り上手く処理しておいてくれ」
「分かりました、隊長」
「あくまで客は全員、ヴィオラ男爵に騙された被害者という扱いにしてくれ」
「違法賭博の件はそちらで報告します。人身売買の買い手になっていた客はどうしましょう?」
人身売買の契約は違法だ。当然、全て無効である。
売られた側が買い手を告発すれば、人身売買を楽しんでいた人々の名前はすぐに広がるだろう。
その時、特務警察部隊が貴族だけを見逃した、などと言われるのはまずい。
「問題が起きないように調整してくれ。詳細はお前に任せる」
「かしこまりました」
ヒューが頭を下げて部屋を出ていく。いつも通り、つつがなく処理してくれるはずだ。
「胸糞悪い事件だったな。人を売買するなんて」
マルセルの呟きに、まあね、とヘリオスが応じる。
「違法賭博はもちろんだけど、人を買うことを楽しんでいた人も多いだろうね。売られた中にはもう、死んでいる人だっていると思うよ」
「……おぞましい話だ」
事件は無事に解決し、犯人も捕まえることができた。
しかし、被害者のことを考えると明るい気持ちにはなれない。
「それと一つ、聞いておこうと思ってたんだけど」
ヘリオスがシャルルを見つめた。
「リベルタの件は、取り押さえ時において仕方がなかったこと、って扱いでいいよね。実際、隊長を心配してのことだったみたいだし」
「……そうだな」
「過剰ではあったかもしれないけど、もし針に毒でも塗られていたら、大変なことになっていたからね」
ヘリオスの言う通りだ。些細な傷が致命傷になることもある。
そのため、先程もヒューから説教を受けた。危険な場に行くなと。
「隊長」
「なんだ?」
「彼は隊長には忠実だよ。それほど心配する必要はないと思う。確かに、やり過ぎではあるけれど」
ヘリオスは薄く笑った。
「それに今後、罪のない相手を手にかけなきゃいけないこともあるはずだ。君が、第一王子に負けたくないと思うのなら」
彼の言う通りだ。
シャルルたちも清廉な生き方をしているわけではない。
「ただ、ちゃんと管理して」
「分かっている。この後も、ちゃんと様子を見に行くつもりだ」
リベルタには、部屋で待機するように伝えてある。きっと今頃、不安そうな顔でシャルルを待っているのだろう。
想像すると、胸が痛んだ。
早くリベルタの部屋へ行こう。
シャルル様、と眩しい笑顔で名前を呼ばれたら、きっとこの痛みも薄らぐはずだから。
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