第23話 分からないけど
リベルタの部屋の扉をノックする。待っていればシャルルの部屋にくることは分かっていたが、早く話をしたかったのだ。
結局、昨日はあまり眠れなかった。それでもベッドには横たわったが、疲れがとれている気はしない。
なかなか扉が開かない。力を込めて扉を何度か叩くと、ようやく扉が開いた。
「わ、えっ、シャルル様!?」
リベルタは目を丸くして後ろへ飛び跳ねた。眠っていたのだろう。寝癖がかなりついている。
「入るぞ」
「あ、はい……!」
そういえば、リベルタの部屋に入るのは初めてだ。そもそも、一般隊員の宿舎に足を踏み入れることすら、滅多にないことである。
中に入り、室内を観察する。元々設置されていた家具以外にはほとんど物がない。そのため散らかってはいないが、寂しい印象がある。
こいつ、ほとんど給料を使っていないんだろうな。
「あの、どうしたんですか? 俺、寝坊してないですよね?」
「ああ。寝ているところにきて悪かったな」
「いえ。その、それは大丈夫なんですけど」
リベルタの目がきょろきょろと動いている。動揺しているのが丸分かりだ。
リベルタは変わった……と思う。
出会った時よりずっと表情が分かりやすくなったし、人間味が増した。
「ジョシュアのことだ」
「……なにか、聞き足りないことでもありました?」
分かりやすくリベルタが落ち込んだ顔をする。そうじゃない、と言えば、安心したようにリベルタは笑った。
「なんで、拷問なんてしたんだ」
「……拷問?」
「爪を剥いだり、殴ったりしたんだろう?」
ああ! とリベルタは両手を叩いた。
「普通に聞いたら、教えてくれなかったんです。だから、どうしたら教えてくれるかなって考えて。大きな怪我とかはさせてないと思います」
「リベルタ」
そっと彼の肩に手を置く。どうすればもっとちゃんと分かってくれるのだろう。
「あれは拷問だ。奴が犯人ならまだしも、被害者にやることじゃない」
違法賭博に手を染めていたものの、ジョシュアは人身売買の被害者である。
「……ごめんなさい」
本当に悪いと思っているのか? なんて聞かない。リベルタはシャルルに注意されたから謝っているだけだと分かっているから。
俺の言うことには、ちゃんと忠実なんだ。
今回のことだって、注意すればきっとやめてくれる。
「今度から気をつければいい。話を聞く時に、相手を痛めつけるのはだめだ」
「分かりました」
「……痛がるあいつを見て、なにも思わなかったのか?」
つい、そんなことを聞いてしまった。
「正直、悲鳴がうるさいな、くらいにしか思いませんでした」
あまりにも素直すぎる返事に、どんな顔をすればいいか分からなくなる。
リベルタの感覚が人とずれているのは、生まれ育った環境のせいだけなのか?
それとも、リベルタがエクシティウムの血を引いているからか?
このずれは、いつかなくなるのだろうか。
「……シャルル様」
リベルタは真っ直ぐにシャルルを見つめた。
「ごめんなさい。そんな顔をさせてしまって」
「……リベルタ」
「俺は、貴方が悲しそうな顔をしていたら、悲しくなります。なんでかは、分からないんですけど」
リベルタの言葉は、あまりにも優しい。
その優しさを向ける相手が、シャルルに限られているというだけで。
「リベルタ」
「はい」
「ありがとう」
にっこりと笑ってみせる。不安な顔をしていても、リベルタまで不安にさせてしまうだけだ。
◆
昼過ぎに、ジョシュアの家について調べていた隊員が戻ってきた。
血統書に書いてある通りの商家だが、最近は金銭的に困っていたようだ。理由はもちろん、ジョシュアが家の金を持ち出したからだという。
「家族は、最近の行方不明事件に巻き込まれたのではと心配していたらしい。金を持ち出すような息子でも、可愛い息子には違いないみたいでね」
ヘリオスが報告書を見ながら補足する。
「行方不明者が増えたのは、あの賭博場のせいだとみてよさそうだな」
「うん。それに、あの店だって売った商品くらい記録しているだろうし、あそこを調べれば分かるだろうね」
ヘリオスと顔を見合わせ、お互いに頷く。
ここまで分かったのなら、とるべき行動は決まっている。
「マルセルに伝えてくれ。今晩、違法賭博場へ乗り込むぞ」
「了解。一応、僕も行くよ。顔見知りも多そうだしね」
「分かった」
事件を捜査するだけでなく、解決させるのが特務警察部隊の仕事だ。
必ず、成功させなくてはな。
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